「サンキュー、キース。うん、千里眼スキルと狙撃スキルはなかなか使えそうだな」
「だろ? これで何時でも習得は可能になっただろうから、スキルを取りたい時に取るといいさ」
俺はギルドのドアを開けながら、アーチャースキルを教えてくれたキースに礼を言いつつギルドに入る。
教えて貰った二つのスキルはなかなか便利そうだ。
暗視能力が備わり、更には遠くまで視認可能になるスキル、千里眼。
弓などの飛び道具を使用しないといけないが、使う飛び道具の飛距離が劇的に伸び、長距離からの狙い撃ちが可能になるスキル、狙撃。
先日の、大量のゴブリン狩りでレベルが12になったので、スキルポイントが30ポイント加算された。
次はどのスキルを覚えるかが悩みどころだ。
と、ギルドに入ってきた俺とキースをじっと見つめてくる者達がいた。
「……どうした? そんな変な目で。……おっ、ダクネス、新しい鎧できたのか」
アクアとダクネスとめぐみんの三人が、テーブルの真ん中に置いた、コップにさした野菜スティックをぽりぽりかじりながら俺を見ていた。
俺はキースに別れの挨拶をすると、三人のテーブルに座り、俺も一本貰おうと、野菜スティックに手を伸ばす。
クイッ。
野菜ステイックが俺の伸ばした手から逃れるように、ひょいと身をかわした。
……おい。
「何やってんのよカズマ」
アクアがテーブルをバンと叩くと、野菜スティックがビクリと跳ねる。
一瞬動かなくなった野菜スティックを、アクアが一本つまんで口に運ぶ。
「……むう。楽しそうですね。楽しそうですねカズマ。他のパーティのメンバーと、随分親しげでしたね」
めぐみんが、拳を握ってテーブルをドンと叩き、怯ませた野菜スティックをつまみ、口に運んだ。
「……くっ、何だこの新感覚はっ!? カズマが他所のパーティで仲良くやっている姿を見ると、胸がもやもやする反面、何か、新たな快感が……! もしやこれが、噂の寝取られ……?」
おかしな事を口走るどうしようもないのが、コップのフチをピンと指で弾き、そのまま野菜スティックを指でつまむ。
「なんだ、どうしたお前ら。昨日の一日レンタル気にしてんのか? あれは別に……」
言いながら俺はバンとテーブルを叩くと、野菜スティックに手を……
ヒョイッ。
「……………………だああああらっしゃああああああああ!」
俺は野菜スティックを掴み損ねた手でスティックが入ったコップを掴むと、それを壁に叩き付けようと振りかぶった。
「や、やめてええ! 私の野菜スティックに何すんの! た、食べ物を粗末にするのはいくない!」
アクアに腕を掴まれ、俺はしぶしぶコップを置く。
「野菜スティックごときに舐められてたまるか! てゆーか今更突っ込むのもアレだが、何で野菜が逃げるんだよ。ちゃんと仕留めたヤツを出せよ」
「なに言ってんの。お魚も野菜も、何だって新鮮な方が美味しいでしょ? 活き作りって知らないの?」
こんな活き作りがあってたまるか。
俺は野菜スティックを食うのは諦め、イスに座る。
「はあ……。まあ、野菜は今はどうでもいい。それよりお前らに相談があるんだよ。レベルが上がって新しいスキル取れそうだから、次はどのスキルを取ろうかと思ってさ。そういや、お前らのスキルとかってどんな感じなんだ?」
そう、効率よくクエストをこなしていくなら、パーティメンバーとの相性を考えたスキルを取っていく方がいい。
そう思って相談を持ちかけたわけだが。
「私は物理耐性と魔法耐性、各種状態異常耐性等で占めてるな。後はデコイといった、囮スキルぐらいだ」
「……大剣修練とか取って、命中率を上げる気はないのか?」
「無い。私は言っては何だが、体力と筋力はある。攻撃が簡単に当たる様になってしまっては、無傷でモンスターを倒せる様になってしまう。かといって、手加減してワザと攻撃を受けるのは違うのだ。こう……、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうと言うのが気持ちいい」
「もういい、お前は黙ってろ」
「……んっ! 自分から聞いておいてこの仕打ち……」
頬を赤らめ、ふるふると震えているダクネスは放置する。
めぐみんを見ると、小首を傾げて口を開いた。
「私はもちろん爆裂系スキルです。爆裂魔法に爆発系魔法威力上昇、高速詠唱。スキルポイントは習得済みのスキルのレベルを上げるのにも使えるので、スキルポイントが貯まると、もちろん爆裂魔法に全て注いでますよ」
「……どう間違っても、中級魔法スキルとかは取る気はないのか?」
「無いです」
こいつも駄目だ……。
「えっと、私は……」
「お前はいい」
「ええっ!?」
自分のスキルを言おうとしたアクアを黙らせる。
宴会芸とか宴会芸とか宴会芸とかそんなんだろう。
後はアークプリーストの全スキルと格闘スキルがあったんだっけか。
めんどくさいので省略する。
しかし…………。
「何でこう、まとまりが無いんだよこのパーティは……」
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俺はアクアを引き連れながら、ある所へと向かっていた。
めぐみんとダクネスには、今日受けるクエストで手頃な物を探してもらっている。
俺達のパーティはバランスが悪い。
とにかく偏り過ぎている。
アクアはプリーストとして自体はまあ優秀なのかもしれないが、ダクネスが硬すぎて回復魔法の出番が殆ど無い。
めぐみんは最大瞬間火力においては他のウィザードの追随を許さないが、とにもかくにも一発こっきりだ。
ダクネスは硬いだけで火力面では期待できない。
当面の問題としては、安定した火力。
となると、俺がスキルを覚えるなりなんとかしないといけないのだが、俺が剣振り回して戦うにも、やはり一人では限界がある。
教えて貰った狙撃スキルを習得して、ダクネスが敵を引きつけている間に弓で援護。
これでもいいが、もう少しこう、メインの武器になるスキルが欲しい所だ。
「おし、着いたぞ。いいかアクア。今の内に言っとくが、絶対に暴れるなよ。喧嘩するなよ。魔法使うなよ。分かったか?」
それは小さな、マジックアイテムを扱っている魔法店。
それを見て、アクアが小さく首を傾げる。
「ちょっと、何で私がそんな事しなきゃなんないのよ。一度言っときたいんだけど、カズマって私を何だと思ってるの? 私、チンピラや無法者じゃないわよ? 女神よ? 神様なのよ?」
俺の後ろで文句を垂れるアクアを引き連れ、俺は店のドアを開け、中に入った。
ドアに付いている小さな鐘が、カランカランと涼しげな音をたて、俺達の入店を店主に告げる。
「いらっしゃ……、ああっ!?」
「あああっ!? 出たわねこのクソアンデッド! あんた、こんな所で店なんて出してたの!? 女神であるこの私が馬小屋で寝泊りしてるってのに、あんたはお店の経営者ってわけ!? リッチーのくせに生意気よ! こんな店、神の名の下に燃やしていだいっ!?」
俺は店に入るなりいきなり暴走を始めたアクアの頭を、ダガーの柄で軽く殴る。
そのまま後頭部を押さえてうずくまるアクアを他所に、俺は怯える店主に挨拶した。
「ようウィズ、久しぶり。約束通り来たぞ」
「……ふん。お茶も出ないのかしら? このお店は」
「あっ、す、すいませんっ!! 今すぐ持って来ますっ!」
「持って来なくていい! いや、客にお茶出す魔法店ってどこにあるんだよ」
陰湿なイビリをするアクアの言う事を、素直に聞こうとするウィズを止める。
魔法店なんて初めてな俺は、店内を見回して手近な物を何気なく手に取った。
それは小さなポーションの瓶。
「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気を付けてくださいね」
「げっ、マジか」
俺は慌てて瓶を戻す。
ついで、隣の瓶を手に取ると……
「あっ、それはフタを開けると爆発するので……」
俺はそっとソレを戻すと、更に隣の瓶を手に取って。
「これは?」
「水に触れると爆発します」
「……こ、これは?」
「温めると爆発を……」
…………。
「おい、この店は爆薬しかねーのか!」
「ちちち、違いますよ! そこの棚は爆発シリーズが置いてあるだけですよ!」
おっと、そうじゃない。
俺は別に魔法の道具が欲しくて来たんじゃない。
勝手に自分でお茶を入れてすすっているアクアは置いておき、俺は本題に入る事に。
「なあウィズ、何か、使えるスキルを教えてくれないか? リッチーならではのスキルとかあるんだろ?」
「ぶっ!」
「きゃああああっ!?」
俺の言葉にアクアがお茶を吹き出し、それがウィズにモロに掛かった。
「ちょっと、何考えてんのよカズマっ! リッチーのスキル? リッチーのスキルですって!? この女に名刺貰ってるの見たときは、一体何する気だろうって思ってたら! リッチーの持つスキルなんてロクでもない物ばっかりよ! そんな物覚えるなんてとんでもないわ! いい? リッチーってのはね、薄暗くてジメジメした所が大好きな、言ってみればなめくじの親戚みたいな連中なの」
「ひ、酷いっ!」
アクアのあんまりな決め付けにウィズが涙ぐむ。
「いや、なめくじの親戚でも従兄弟でもいいんだけどさ。リッチーのスキルなんて普通は覚えられないだろ? そんなスキル覚えられたら結構な戦力になるんじゃないかと思ってな? お前だって、今のメンバーじゃちょっと強い敵が大勢出てきたらどうにもならない事ぐらいは分かるだろ」
「むう……」
俺の言葉に、一応は納得はしたのか、渋々とアクアは引き下がる。
なめくじ発言でちょっとへこんだウィズが、気を取り直して俺を見た。
「え、えっと。それでは、一通り私のスキルをお見せしますから覚えて行って下さい。見逃してくれた、せめてもの恩返しですので……」
言って、ウィズはハタと何かに気付いた様に、俺とアクアを交互に見て困った様におどおどしだした。
「えっと、どうした?」
問いかける俺に、ウィズは怯えながらアクアを見る。
「そ、その……。私のスキルは相手がいないと使えない物ばかりなんですが、つまりその……。誰かにスキルを試さないといけなくて……」
なるほど、そういう事か。
「おいアクア。悪いけど頼めないか?」
「ほー? アンデッドがこの私に何のスキル使おうっての?」
ウィズを威嚇するアクアに、ウィズが怯えたように身を引きながら。
「そ、その……。ドレインタッチなんてどうでしょう? ああっ、も、もちろんほんのちょっぴりしか吸いませんので! スキルを覚えてもらうだけなら、ほんのちょっとでも効果があれば覚えられると思いますので!」
慌てたように口早に言うウィズに、アクアがにんまりと凶悪な笑みを浮かべた。
一応この二人は、アンデッドの大物、リッチーと、女神である。
…………どっちがリッチーでどっちが女神だったか。
「いいわよ? 構わないわよ、幾らでも吸っても。さあどうぞ?」
アクアが自分の手を差し出した。
その手をウィズが恐る恐る手に取って……。
「で、では失礼します………………。…………? あれっ? あ、あれっ?」
俺には何が起きているのかは分からないが、ウィズにとっては予想外の事が起きているらしい。
「ほらほらどうしたの? 私から魔力や体力を吸うんじゃないの? あらあら、アンデッドの元締めみたいな存在のクセに、ドレインすらできないのかしら?」
余裕たっぷりのアクアに対し、ウィズがみるみる涙目になっていく。
「あ、あれえ―――――――!?」
アクアが、ドレインさせない様に抵抗しているらしい。
俺は無言でアクアの後ろ頭を引っぱたいた。
「痛いっ!? ちょっとカズマ、邪魔しないでよ! これはリッチーと女神の戦いなのよ! 私だって女神の端くれ、そう易々と吸われてたまるもんですか!」
「いや、話進まんから吸わせてやれよ……。悪いなウィズ、どうもこいつは職業柄、アンデッドが受け付けられないらしくてな」
代わりに謝る俺に、ウィズがとんでもないとばかりに首を振った。
「い、いいえ! そ、その、私がリッチーなのが悪いんですから……。と言うか、女神? その、以前私を簡単にターンアンデッドで消し去りかけたり、私の力が効かなかったり……。ひょっとして、本当に女神様なんですか?」
あ、ヤバイ。
流石にリッチーにもなれば、アクアが本物の女神だと分かるのか。
俺は未だに、アクアが女神だってのに納得していないのだが。
「まあね。あなたは他所に言い触らしたりはしないでしょうから言っておくけど。私はアクア。そう、アクシズ教で崇められている女神、アクアよ。控えなさいリッチー」
「ヒイッ!?」
ウィズがこれ以上に無いぐらいの怯えた顔で俺の後ろに回り込んだ。
リッチーにとって、やはり神って存在は天敵に出くわしたような物なのか。
「おいウィズ、そんなに怯えなくてもいい。アンデッドと女神なんて水と油みたいな関係なんだろうけどもさ」
なだめる俺に、だがウィズは、
「い、いえその……。アクシズ教団の人は頭のおかしい人が多く、関わり合いにならない方がいいと言うのが街の常識だったので、その、アクシズ教団の元締めの女神様と聞いて……」
「何ですってぇっ!?」
「ごごごご、ごめんなさいっ!」
「……は、話が進まねえ……」
アクアに首を絞められている涙目のウィズを助けようと、ため息を付きながら立ち上がろうとした、その時だった。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
それは、街中に響く大音量のアナウンス。
そう、大量の冒険者を必要とする時の緊急のアナウンスだ。
「何だ? またキャベツか? もうあんな訳の分からないクエストは沢山だぞおい」
俺の言葉に、ウィズの首を絞めていたアクアもウィズを放して立ち上がった。
「何かしら。まあこの季節じゃ大したクエストじゃないわね。ギルドから結構離れちゃったし、今回は行かなくてもいいでしょ。他の冒険者に任せとけばいいわ」
アクアの言葉に、開放されたウィズが咳き込みながらも同意する。
「そ、そうですね。本来なら、冒険者は緊急招集には余程の事情がないと集まらなきゃいけない義務があるんですが……。この店からだと、ギルドまでは距離がありますしね」
「そんなもんなのか。デカイモンスターが迫っていて街がヤバイとか、そんな事は無いのか?」
俺の疑問にアクアは肩をすくめ、
「そんな緊急クエストなら、尚更行きたくないでしょう? ま、どうせ大したクエストじゃないわ。ほっときましょう」
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! ……………………冒険者の皆さんっ!!』
アナウンスの人が息を吸った。
『宝島ですっ!!』
アナウンスのその声に、アクアとウィズが店から飛び出し、脇目もふらずに駆け出した。
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