俺達の拠点にしている街が、ようやく見えてきた。
「はあ……、はあ……っ！　ふぐぐ、アクア、俺そろそろやばいかも……。頼む、代わってくれよ……」
「イヤよ。あんた今回、私に水かけたり魔法を悪用してパンツ覗いたり好き放題してくれたじゃない。もう少しなんだから頑張りなさいな」
　クソっ、俺より遥かに筋力が高いくせにっ！
　俺はズリズリと、背中におぶさる重い荷物を引きずって行った。

　ボロボロになったダクネスである。

　今回は、爆裂魔法を使っためぐみんは自分の足で歩いている。
この一発魔法を撃つ度に倒れていたもやし魔法使いは、爆裂魔法で盛大に冬牛夏草を吹っ飛ばし一気にレベルが上がり、最大魔力容量が上がった為、一発爆裂魔法を撃った程度では魔力枯渇で倒れる事は無くなったらしい。
　まあ、まだ一日一発しか撃てない事には変わりないが、戦闘後に自分の足で歩いてくれる様になったのは本当にありがたい。
　俺は、ほぼ原型を留めていないボロボロのプレートメイルを着た、気を失ったダクネスを背負っていた。
　冬牛夏草もろとも『エクスプロージョン』でぶっとばされたダクネスは、瀕死の重傷を負いながらも辛うじて息はしていた。
　すぐさまアクアが傷は完治させてくれたのだが、未だ目を覚まさないのでこうして俺がおぶっている。

「やー、しかし何匹だっけ？　めぐみんの冒険者カード、もっかい見せて！　……冬牛夏草が二十三匹。確か、報酬は冬牛夏草一匹で３万だっけ。えっと、……６９万！　……あわわ、どうしようカズマ、城壁工事の給料４か月分以上の稼ぎよ！　ちょろいわ！　冒険者稼業なんてちょろ過ぎるわね！」
「いやお前、ダクネスのフルプレートが完全に使い物にならなくなったから、必要経費って事でダクネスの鎧代引いてから、みんなで山分けだからな？」
　アクアが、そこまで考えていなかったらしく顔をしかめた。
「くっ……！　それじゃあ、儲けなんてほとんどないじゃないの！　結局、家畜のお肉も全部消し飛んだし、カズマが水掛けて弱らせた一匹も、爆裂魔法で驚いて逃げちゃったし！　焼肉はどうなったのよ焼肉は！」
「いやお前、アレに寄生されてた肉って食いたいか？」
「………………やっぱりいらない…………」
　……しかし。

「クルセイダーの耐久力ってのは凄いもんだな。アクアの支援魔法があったって言っても、冬牛夏草の群れは軒並み欠片も残らなかったのに」
　言って、背中のダクネスの顔を見る。
　傷を完治されたダクネスは、顔を煤だらけにしながらも、今では整った呼吸をしている。
　……というか、頼むから俺の肩によだれを垂らさないで欲しい。
　これ、もう気を失っているんじゃなくて寝てるんじゃないのか。
「彼女の場合は、スキル配分が防御特化だからだと思います。物理耐性に魔法耐性、他にも考えられる防御系統のスキルはほとんど取ってあるんじゃないでしょうかね。……そう考えないと、私の爆裂魔法を喰らってホイホイ生き残られるとか、ちょっとどころじゃなく存在意義が無くなりそうです」
　めぐみんがそんな事を言いながら複雑そうな顔をしていると。

「……ん……。ここは……？」

　背中のダクネスが目覚めた様だ。
「よう、起きたか。お前が敵を引き付けてくれたおかげで、討伐は終わったぞ、ご苦労様。囮に使ったり、魔法叩き込んだり悪かったな」
　俺のその言葉に。
「……ん。そうか。皆が無事なら、それは良かった。…………カズマにも、世話を掛けたな。……………………ありがとう」
　言って、ホッと息を吐いて俺の背中に顔を埋めた。

　おいおい、そんな普通の女の子みたいな反応されたら対応に困るんですが。
　童貞ニートには刺激が強いんですが。

　俺が照れながらどぎまぎしていると、近づいてきた街の目の前。
　そこに、目を真っ赤に充血させ、今にも俺を殺しそうな勢いで、俺を睨みつける女が立っていた。

　そう、クリスである。

「こ、ここ、このぱんつ脱がせ魔ああああああっ！　キミ、私がダンジョン探索で稼ぎに行ってる間にダクネスに何をしたあああああっ！」
　タイミングが悪いってのはこういう事だろう。
　丁度ダンジョン探索を終えて街に帰って来たクリスのパーティと、俺達が鉢合わせたのだ。
　クリスの目は俺の背中におぶさったままのダクネスに注がれていた。
　鎧はボロボロになり、あちこちが煤だらけになったダクネスに。
　ダクネスは、俺の背中に掴まったまま。
「クリス、何を誤解しているのか分からないが、私は特に何もされていない。クリスがいない間にあった事と言えば……。モンスターと対峙している時にクリエイトウォーターで頭から水ぶっかけられたり、このド変態がと罵られたり、モンスターもろとも爆裂魔法で吹っ飛ばされたぐらいだ。……うん、とっても楽しかった」
「あんたあたしの相方に何してくれてんのよおおおおおお！」
「ちちちち、ちがー！　ダクネスの言ってる事は大体合ってるけど、大体違う！」


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　場所を移して、冒険者ギルド併設の酒場の中。
　クエスト達成の報酬を、必要経費を抜いてから山分けし、ようやくクリスの誤解が解けた。
「……全く。話は分かったけど、無茶し過ぎでしょ？　冬牛夏草って、パーティの平均レベルが１０以上がクエストをする際の適正レベルだよ？　キミ達はまだレベル１０以下の人ばかりじゃないの？」

「俺はレベル９」
「……ん、私もレベル９」
「私はさっき、爆裂魔法での大虐殺でレベル１３になりました」
「おっと、まさかの私様がレベル２で最低レベル？　よく考えたらキャベツ狩りでキャベツ捕まえたぐらいしかまともに経験値得た記憶がないわね」

「だ、ダメじゃん！　冒険者はね、慎重に慎重を重ねるぐらいで丁度いいの！　勇気と無謀は違うからね!?　全く……。じゃあダクネス、もう行こう。いくらあたしが帰ってくるまで暇だったからって、こんな変な男についてっちゃダメだよ？」
　誰が変な男だと言い返したいが、ぱんつ剥いた前科があるからあまり何も言い返せない。
　まあ、ダクネスもちょっと変な……。いや、かなり変……、いやいや、凄く変な奴だったが、パーティを離れるとなるとちょっとだけ寂しいもんだ。
　ちょっとだけ。
　よし、気持ちを切り替えて、是非ともちゃんとした戦士系の前衛職の人に……。
「……ん、私はこのままカズマのパーティに残るとする」
　そう、俺がもう少し固くなれば、俺が戦士系スキルでも取って前衛二人の魔法職の後衛が二人で…………おい今なんつった。

「ちょ、ちょっとダクネス、あんた何言ってんの!?　バカな事言ってないで、またあたしと組もうよ！　あたしとのコンビほど、完璧な相性は無いってば！　ダクネスが囮になってる間にあたしが敵から盗って逃げたり！　あたしの拘束スキルで敵を止めて、動けない敵にダクネスがその大剣でぶっ叩いて！　これ以上に相性のいいコンビって無いじゃん！」
「おい、その拘束スキルってヤツ、詳しく」
「うっさい！　ねえダクネス、考え直してよ！　こんなパッとしない濁った目をした男のどこが気に入ったのさ！」
「……おい、あまり俺をコケにしてるとお前のトラウマになったであろう、ぱんつスティール食らわせるぞ」
　俺の言葉に、慌てて、怯えたようにダクネスの背後に回りこみながらも俺を非難するのは止めないクリス。
「ほ、ほらほら！　こんな事言ってくる男なんだよ!?　分かってるの？　ダクネス、こんな男と一緒に居たらますます酷い目に合わされるよ？」
　おい馬鹿、そのセリフは逆効果だろ。
　案の定、ほのかに頬を赤らめた変態はもじもじしながら。
「……クリス、私はクルセイダーだ。たとえどんな目に合ったとしても弱きを助けるのがクルセイダーだ。カズマのパーティには壁をできる人間がいない。私は、ここに必要とされているのだ。そうだろう？　カズマ」

「いや、要らないよ別に」

「んんっ！　……くっ！　この男は、いちいち的確に私のツボを……っ！」
　俺のそっけない返答に、何故か顔を赤らめもじもじしているダクネスを見て、クリスがはあとため息をついた。

「……全く。言い出したら聞かないからねあんたは。でも、酷い目に合わされたりしたらすぐに抜けてあたしの所に帰ってくるんだよ？」
「……ん。酷い目なら、それこそ望むとこ……じゃない、クリスは心配しなくてもいい。大丈夫、またその内一緒に冒険しよう」

　言って、ダクネスはクリスに笑いかけた。




「さてと。それじゃ、あたしも行くね。ちょっと、ぱんつ脱がせ魔。キミ、ちゃんとあたしの相方を守ってよ？」
　クリスが、言いながら立ち上がる。
「いや、守るのはクルセイダーの仕事だろうに。最弱クラスに無茶言わないでくれよ。あと、次にぱんつ脱がし魔って呼んだら全裸になるまでスティール唱え続けてやるからな」
「や……やめろよぉ……」
　俺の返しに、クリスが泣きそうな表情を浮かべる。

「ねえねえ、あなた盗賊でしょ？　どうせなら、一緒に冒険すればいいんじゃないの？」
「ですね。盗賊職はダンジョンでは必須なのに成り手が少ないクラスです。歓迎しますよ？」
　アクアとめぐみんが口々に言うが、クリスは軽く首を振る。
「いやあ、カズマにはもう盗賊の一部のスキルを教えてるし、あたしの有難みが半減しそうだから止めとくよ。……それに、今回のダンジョン探索で、あたしもまあ、組んでもいいかなって思える連中と出会えたしね」
　言って、クリスがくいっと親指を射す方には、クリスの様子をチラチラと心配そうにうかがう一組の冒険者パーティ。
　それを見て、ダクネスが安心したようにほっ、とこっそりと息を吐いた。
　何考えているのか分からない所が多い変なヤツだが、一応友人の心配ぐらいはできるらしい。

「じゃあね、ダクネス！　その内大規模討伐クエストとかがあったら、一緒に受けよう！　じゃあねカズマ、そしてお仲間の皆！　じゃあ、いってくる！」
　クリスはそう言って、新しい仲間の居るテーブルへ駆けて行った。





　ダクネスが、正式にウチのパーティメンバーになりました。