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一部
7話
 冒険者レベルが9になった。

 キャベツ狩りでレベルが3つも上がった事になる。
 確か、この世界では倒した相手の魂の記憶の一部だかを吸収して強くなるらしいが、俺はキャベツを捕まえただけで倒していないのに何故レベルが上がるとか、なんでキャベツごときがカエル並みに経験値高いんだとか、キャベツの魂の記憶の一部ってなんだとか、そもそもキャベツに魂があるのかなど、ツッコミたい所が山ほどあったが、考えていると頭が痛くなるので今は考えないでおこう。

 レベルが1上がると、スキルポイントが10増える様だ。
 何故レベルが上がるとこんなRPGゲームみたいな現象が起こるのかとか、細かく突っ込んでいくと眠れなくなりそうなので気にしないでおく。
 残しておいたスキルポイントが15ポイント。
 今回のレベルアップで30ポイントのスキルポイント。
 合わせて45ポイント。
 俺はキャベツ狩りクエストの時に知り合った魔法使い職の人と剣士職の人達から、片手剣修練スキルと初級属性魔法スキルを教えて貰った。
 片手剣が15ポイント、初級属性魔法が30ポイントかかった。
 スキルを教えてくれた人に聞いた所、剣士が片手剣修練の習得に消費するスキルポイントは通常なら10ポイント。
 初級属性魔法スキルなら20ポイントらしい。
 つまり、俺が他のクラスのスキルを習得する際には、1・5倍のスキルポイントを使うわけだ。
 最も、元々剣を扱うのが苦手な人が剣スキルを取ろうとしたりだとかすると、普通よりも多くポイントを消費するとか言っていたからその辺は適当なのかもしれない。
 初級属性魔法スキルは火、水、土、風の初級魔法が使えるようになるスキルらしいが、相性が悪いと使えない初級魔法もあると言っていた。
 ちなみに初級属性魔法に殺傷力のある魔法はほぼ無いので、初級は取らず、ポイントを貯めていきなり中級属性魔法のスキルを取る魔法使い職が多いらしい。
 中級属性魔法は、習得に100ポイントほどのスキルポイントを使うと聞いた。
 単純に考えて、俺の場合だと150ポイント使う訳だ。
 魔力が高い訳でもない俺が、攻撃魔法を覚えるのは諦めた方がいいのかもしれない。

 才能の有無で、最初に所持しているスキルポイントってヤツは違うらしいが、普通の冒険者なら大体30から50。
 最初から上級職を選べるような優秀な奴は、初期スキルポイントは100を越える事も少なくないそうな。
 とすると、めぐみんやダクネスは最初からかなり優遇されていたのかもしれない。
 二人ともスキル振りが残念だが。
 俺がレベル1の時に最初から持っていたスキルポイントは10ポイント。
 ……うん、落ち込むから深く考えないでおこう。

 何にしても、一応一端の冒険者らしくはなってきた。
 ……はずだ。
 となると、後は装備を何とかしたい。
 なんせ今の格好は、たまにこっちで買った服に着替える時はあるものの、基本の装備は ジャージにショートソードとダガーのみ。
 皮製でいいから、鎧の一つも欲しい所だ。

「……で、何で私まで付き合わされるのよその買い物に」

 俺は、文句たれるアクアを連れて一般大衆向け武具ショップにやって来ていた。

「いや、お前も一応装備整えとけよ。俺はジャージだけど、お前も似たようなもんだろ? お前の装備、そのヒラヒラの羽衣だけじゃないか」
 アクアは俺と一緒にここに来たままの格好だ。
 アクアの青い髪と青い瞳に合わせてあつらえた様な、淡い青色の、ヒラヒラした薄い羽衣みたいな服を着ている。
 毎日、寝る前に寝間着に着替えた後は、宿屋のバケツで羽衣をジャブジャブ水洗いして、馬のエサの藁を乾かす場所に、一緒に掛けて乾かしていたのを見た。
 アクアは呆れたと言わんばかりの表情で、
「バカねー。あんた忘れてるみたいだけど、私は一応女神なのよ? この羽衣だって神具に決まってるじゃないの。あらゆる状態異常を受け付けず、強力な耐久力と様々な魔法が掛かった逸品よ? これ以上の装備なんて、この世界に存在しないわよ」

 そんな神具を、馬のエサと一緒に干すなと言いたい。

「それは良い事聞いたな。いよいよ生活に困ったら、その神具を売ろうぜ。……おっ、皮製だけど、このブレストアーマーいい感じだな」
「ね、ねえ、冗談よね? この羽衣、私が女神である最後の証みたいな物だからね? う、売らないわよね? ね? う、売らないわよ?」


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「……ん、見違えたじゃないか」
「おお……。ようやくちゃんとした冒険者みたいに見えますよ」
 もはや溜まり場にもなっている冒険者ギルドにて、ダクネスとめぐみんが俺の格好を見て感想を言ってくる。
 今までは冒険者でなく唯の不審者程度にしか見えなかったのかと聞きたい所だ。
 今の格好は、皮製の胸当てに金属製の篭手、同じく金属製のすねあて。
 魔法系のスキルの使用には、片手を空けておいた方がいいとの事。
 なので、せっかく初級とはいえ魔法を覚えてみたので、盾は持たずに魔法剣士みたいな感じで行こうかと思う。
 クリスとのスティール勝負で貰った金は大分減ったが、一週間や二週間は食べていけるだけは残してある。
 とはいえ、やはり装備を整えてスキルも覚えたならばやはりクエストにでも行ってみたい。

「あんまり強くなくて、近場でそこそこ稼ぎもいい討伐系のクエストを受けたい」
 俺の結構ワガママな注文に、ダクネスがふむと頷く。
「ならジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出てきているから、それを……」
「「カエルはやめよう!」」
 言いかけたダクネスに、強い口調でアクアとめぐみんが拒絶した。

「……ん、なぜ? カエルは刃物が通り易く倒し易いし、攻撃法も舌による捕食しかしてこないから、深い傷を負う事もない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするらしいが、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないと思う。アクアとめぐみんは私がきっちり盾になろう」
「あー……。この二人はカエルに食われかけた事があるから、トラウマになってるんだろ。頭からパックリいかれて粘液まみれにされたからな。しょうがないから他のを狙おうか」
 俺の説明にダクネスはなぜか、少し頬を赤らめた。
「……あ、頭からパックリ……。粘液まみれに……」
「お前、ちょっと興奮してないだろうな」
「してない」
 ダクネスは目を逸らして、赤い顔でもじもじしながら即答するが、凄く不安になってきた。
 こいつ、目を離したら一人でカエル狩りに行ったりしないだろうな。

「あ、これいいんじゃないの? ほらほら、冬牛夏草の討伐だってさ。牧場の家畜が寄生されたみたい。倒した家畜のお肉は好きにしていいみたいよ? 報酬は一頭3万エリス。寄生された家畜の種類は、山羊と馬、牛だってさ。あまりこのモンスターに詳しいわけじゃないけど、山羊にくっついた冬牛夏草なら楽勝でしょ」
 アクアが一枚のクエスト依頼書を掲示板から持ってきた。
「冬牛夏草? 冬虫夏草みたいな、生き物に寄生するキノコか何かか?」
 名前的には多分そんな感じではなかろうか。
「冬牛夏草は、生き物の頭に寄生して脳を侵食し、他生物を襲わせてその死体に卵を植える、ちょっと嫌なモンスターですね。寄生する対象が、牧場などのその場からあまり動けない様な生き物が多いので、冬牛夏草と呼ばれています。強さは寄生した生き物の強さに左右されますが、まあ家畜に憑いたのならそれほど手強くはないでしょう」
 なるほど。

「家畜相手なら、何とかなりそうだな。よし、サクッと行くか! キノコに寄生されてた家畜の肉って所がちょっとひっかかるが、今日は焼肉だな!」





 冬牛夏草。
 名前的にキノコを連想させるが、それはれっきとしたモンスターである。
 名前の由来はそのまんま。セミ等を苗床にするキノコ、冬虫夏草から取られている。
 だが、そんな植物的な名前で油断してはいけない。

 その見た目は、そんな甘っちょろいものではなく、やはりモンスターそのものなのだから。

「ひいあああああああああああああああああああ! 助けて、助けて、怖い怖い! 神様ー! 神様ああああああああ!」
 アクアが泣き叫びながらこちらに向かって逃げてくる。
 助けを求めているが、お前こそがその神様だろと、ツッコミ入れる余裕も無い。
 何故ならば……。

「うわあああああああああああああああ! こ、こっちくんな! こっちに来るなああああああああ! ダクネスー! クルセイダー様、助けてくれえええ!」
「ギチギチギチ、ゲタゲタゲッゲッ!」
 アクアが山羊に追われていた。
 頭に、得体の知れない、猿ほどの大きさのエイリアンみたいな凶悪な寄生生物を生やした山羊に。
「あわわわわわ、わ、我がば、爆裂魔法で、け、け、消し飛ば、消し飛ばして……! ひいっ! 目が合いました! せせせ、先生! お、お願いします!」
 めぐみんに押される形で、グロテスクな、おぞ気と恐怖を容易く与えてくるその生き物に対し、なぜか先生と呼ばれたダクネスは平然と前に出た。
 山羊を操っている冬牛夏草は、前に立ち塞がるダクネスに狙いを定める。
 どこを見ているのか分からないその瞳が赤く輝き、ダクネスに向かって顎を大きく開けて気持ち悪い声を上げた。
「ゲタゲタゲタゲタ!」
 ぬめる体をくねらせて、赤い触手の様な物をダクネスに伸ばす。
 その触手を伸ばす本体の下では、山羊がダクネスに向かってまっしぐらに駆けてくる。
 寄生生物怖い、マジ怖い!
 舐めてました、もっと甘っちょろいもんだと舐めてました!
 そのグロテスクで醜悪な姿に悲鳴を上げて逃げ惑う俺達を庇うように立ち、ダクネスが背に担いだ大剣を抜き、それを眼前に構えて言い放つ。

「お前達は私が守る」

 ダクネスさんカッコイイ! 抱いて!

「ギシャアアアアアアア!」
「んっ……! こんな程度! 昨日のキャベツの方が、よほど歯ごたえがあった!」
 それはどういった意味での歯ごたえだろうと悩んでしまうが、それどころじゃない。
 ダクネスが、真正面から山羊の突進を受け止めていた。
 山羊の突撃は受け止めたものの、冬牛夏草が身動き取れないダクネスに向かって、その触手を伸ばしてくる。
 え、えげつない。
 ああやって、耳とかから触手を侵入させて脳を侵食して操るのだろう。
 気持ち悪過ぎる敵だが、いつまでも怖がっていても仕方が無い。
 俺はショートソードを抜いてダクネスの元へと駆け寄った!

「ああっ、カズマ! こんな、こんなグロテスクなモンスターによる触手プレイだなんて私は、私はどうすればっ! 私は、このままきっとこのグロテスクな生き物に脳を侵され、抵抗虚しく触手で純潔を散らされ、あちこち弄ばれてしまうのだろうっ! やがて私はこのモンスターに操られ、身も心もこのモンスターを主と崇める奴隷に! だが気にするな、お前は私は気にせず先に行けっ!」
「行けるか! つーかどこへ行くんだよ! これは討伐クエストなんだ、倒さなくてどうする! どこの世界に触手プレイに期待して頬を火照らせる女騎士がいるんだよ、このド変態が! おらっ、これでも喰らええええ!」
 バカな事を口走るダクネスはほっておき、俺はショートソードで冬虫夏草の触手へと斬りかかる。
「ヒギイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「あああああっ! ジェスター様っ!」
 触手を切り飛ばされ痛がる冬牛夏草を見て、ダクネスが悲痛な声を上げた。
 もうこのクルセイダーはダメなんじゃないのかな。
「あれはジェスター様でもお前のご主人様でもなんでもない! いきなり、出会ったモンスターに名前を付けるんじゃない! 何でまだ寄生もされてないのにすでに洗脳されてるんだ!」
 その時、俺達の背後で様子をうかがっていためぐみんが叫んだ。
「カズマ、冬牛夏草は寄生体から離されると力を失うと聞いています!」
「よしきた! つまり、山羊の頭部分に張ってる根を切ればいいんだな!」
 俺はショートソードを振り上げると、そのまま痛がっている冬牛夏草に狙いを定め……!
「ヒ、ヒギイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
冬牛夏草は、そんな俺から怯える様に、山羊を操り俺に背を向け逃げ出した。

 二本足で。

「…………は?」

 寄生されていた山羊は後ろ脚で立ち上がり、そのまま背を向けて走り出す。
 前傾姿勢で、それは見事な二足歩行の猛ダッシュで。

 俺は、あまりの事態に握っていたショートソードをその場に落とす。
 そのまま、遠く逃げていく冬牛夏草を乗せた山羊を呆然と見送っていた。
 と、未だ脳の活動が止まったままの俺にアクアがゆっくりと近づいて来る。
 そんなアクアに、俺は呆然と、山羊が走り去った方角を指差した。

「…………ナニコレ」

 アクアは一つ息を吐き。

「……ここは異世界なのよカズマ。常識を捨てなさい。ここではどんな生き物も、その瞬間を必死に精一杯に生きている。危なくなれば、キャベツも飛ぶし山羊だって走って逃げるわ」
「異世界って言えば、何でも許されると思うなよ!」


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