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一部
5話
「なあ、スキルの習得ってどうやるんだ?」

 軽くホームシックにかかっていた俺だったが、スキルポイントを得た事を思い出して少しだけ前向きになり、風呂から帰って来た二人に尋ねた。
 二人には今回のクエストで得た報酬の内アクアに4万、めぐみんに3万を渡していた。
 めぐみんは食費だけでいいだの言い出したが、何だかダメ人間を養う義務が発生しそうでちゃんとした報酬を払う事になった。
 俺の親を見てきた身としては、ニートを養う大変さは分かっているつもりだ。
 カエルは二日かけて狩ったので、初日は参加しなかっためぐみんはちょっと安めの3万。
 俺とアクアが4万ずつで、合計してちょうど今回の報酬11万だ。

 二人は今、俺の前でカエル定食をがっついている。
 アクアにいたってはキンキンに冷えたクリムゾンビアを一気飲みしてこめかみを押さえていた。
 ……一応女二人に男一人のハーレムパーティっぽいのに、色気の欠片も無いなぁ……。
「スキル習得? そんなもの、ギルドカードに出ている現在習得可能なスキル欄を……。ああ、カズマのクラスは初期クラスの冒険者だったね。冒険者は、誰かにスキルを教えてもらうんだよ。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらう。すると、カードに習得可能スキルって欄が現れるから、スキルポイントを使ってそれを取るといいさ。そして、一度習得したスキルは使えば使うほどに鍛えられ、スキルレベルが上がっていく。頑張ってスキルを鍛えていけば、冒険者でも本職のスキルに匹敵する力が得られるはずさ」
 なるほどな。
 というか、確か以前受付のお姉さんが、冒険者は全てのスキルが習得可能だって言ってたな。
 という事は……

「……つまりめぐみんに教えてもらえば、俺でも爆裂魔法が使えるようになるって事か?」
「その通り!」
「うおっ!」
 俺の何気ない発言に、意外な食いつきを見せるめぐみん。
「その通りだよカズマ! まあ、習得するスキルポイントはバカみたいに食うが、冒険者はアークウィザードを除き唯一爆裂魔法が使えるクラス。爆裂魔法を覚えたいなら幾らでも教えてあげよう。というか、それ以外に覚える価値あるスキルなんてないよ! さあ、供に爆裂の道を歩こうじゃないか!」
 顔が近い!
「ちょ、落ち、落ち着け! つーか、スキルポイント60しかないんだがこれで習得できるもんなのか?」
 滾るめぐみんでは話にならない為、アクアに聞く。
「冒険者が爆裂魔法を習得しようと思うなら、100や200じゃきかないわよ。冒険者レベルが50を越えるまで一切スキルポイント使わないで貯めていれば、もしかしたら習得できるかもね」
「待てるかそんなもん」
「!」
 俺の一言にショックを受けたらしいめぐみんは、しょんぼりと項垂れながらカエル肉をかじりだした。
 しかし、俺の就いているクラス、冒険者は、全スキルを習得可能って所が唯一の利点なんだから、せっかくなら多彩なスキルを覚えていきたい。

「なあアクア。お前なら沢山使えるスキル持ってるんじゃないか? 何か、お手軽なスキルを教えてくれよ、習得にあまりポイント使わないで済んで、それでいてお得な感じのヤツ」
 俺の言葉に、アクアはジョッキを握りながらしばらく考え込む。
「しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ? ホイホイと誰にでも教えるようなスキルじゃないんだからね?」
 やたら勿体つけるアクアだが、教えてもらう立場なのでここはじっと我慢。
 神妙に頷きながら、アクアがスキルを使う所を観察する。
「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように乗せる。ほら、やってみて?」
 俺はアクアに続いて、同じように自分の頭にコップを乗せた。
 すると、アクアはどこから取り出したのか、一粒の何かの種をテーブルに置くと。
「さあ、この種を指で弾いてコップに一発で入れるのよ。すると、あら不思議! このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」
「誰が宴会芸スキルを教えろっつった!」
「ええっ!」
 めぐみんに続いてなにやらショックを受けたらしいアクアも、しょぼんとしながらジョッキの中身をちびちびすする。
 何を落ち込んでいるのかは知らないが、目立つから頭の上のコップを下ろして欲しい。

「あっはっは! 面白いねキミ! ねえ、スキルが欲しいんだろ? 盗賊スキルなんてどうだい?」
 それは、横からの突然の声。
 見れば隣のテーブルには二人の女性が居た。
 俺に声を掛けてきたのは盗賊風のお姉さん。
 頬に小さな刀傷がある、ちょっとスレた感じだが明るい雰囲気の美人さんだ。
 その隣には、ガチガチのフルプレートメイルを着込んだ金髪ロングのお姉さん。
 冷たく、取っ付きにくい印象の酷薄そうな美女だった。
 二人とも、俺より一つ二つ年上だろうか。
 ニート歴が長い俺はドギマギしながらも、なんとか冷静を装ってみる。
「盗賊スキル? えっと、どんなのがあるんでしょう?」
 俺の質問に、上機嫌で。
「盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、まだクラス冒険者なんだろ? 盗賊のスキルは習得にあんまりポイントもかからないしお得だよ? どうだい? 今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」
 安いな!
 と思ったが、よく考えればスキルを教えた所でこのお姉さんにはデメリットなんてない。
 本気で俺が盗賊スキルを教えて欲しければ、そこらの他の盗賊に頼んでもいいわけだし。
「よし、頼む! すんませーん、こっちの人にクリムゾンビアお願いします!」





「まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通りの盗賊だよ。で、こっちの無愛想なのがダクネス。こいつのクラスはクルセイダーだから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」
「ウス! 俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いしやっす!」
 冒険者ギルドの裏手の広場。
 俺とクリス、そしてダクネスの三人は、今は誰もいない広場に立っていた。
 ちなみに俺の連れ二人は、なにやらテーブルでへこんだままだったので置いてきた。
「では、まずは敵感知と潜伏をいってみようか。罠の解除なんかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃあ……、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」
「……ん。分かった」
 ダクネスが、言われたとおりに素直に向こうを向く。
 すると、クリスがちょっと離れた所にあるタルの中に入り、上半身だけを出す。
 そして向こうを向いているダクネスの頭に、何を思ったのか石を投げた。
 そして、そのままタルの中に身を隠す。

 …………ひょっとして、これが潜伏スキルだとか言う気だろうか。
「……………………」
 石をぶつけられたダクネスが、無言のままスタスタと、ぽつんと一つしかないタルへと向かって歩いていく。
「敵感知……。敵感知……! ダクネスの怒ってる気配をピリピリ感じるよ! ねえダクネス、分かってると思うけどこれはスキルを教える為に仕方なくやってる事だからねお手柔らかにああああああああああああ、やめてえええええええええええええええ!」
 隠れていたタルごと、ダクネスに横に倒されてそのままゴロゴロと転がされ、クリスが悲鳴を上げている。

 ……これでほんとにスキルを覚えられるんだろうな……。




「さ、さて。それじゃあたしのイチオシのスキル、窃盗をやってみようか。これは、対象の持ち物を何でも一つ奪い取るスキルだよ。相手がしっかり握っている武器だろうが、鞄の奥にしまい込んだサイフだろうが、何でも一つ、ランダムで奪い取る。スキルの成功確率は、スキルレベルとステータスの幸運に依存する。強敵なモンスターと相対した時とか、モンスターの武器を奪ったり、もしくは大事に取っといたお宝だけかっさらって後は逃げたり。色々と使い勝手のいいスキルだよ」
 しばらくタルごと転がされ、目を回していたクリスが復活した。

 窃盗スキルは、確かになかなか使えそうな感じだ。
 しかも、成功率が幸運依存って事は、俺の唯一高いステータスを活かせるって事だ。
「じゃあ、あなたに使ってみるからね? いってみよう! 『スティール』っ!」
 クリスが手を前に突き出し叫ぶと同時、その手に小さな物が握られていた。
 それは……。
「あっ! 俺のサイフ!」
 俺のなけなしの金が入った薄いサイフ。
「おっ! 当たりだね! まあ、こんな感じで使うわけさ。それじゃ、サイフを返……」
 クリスは、俺にサイフを返そうとして、そしてにんまりと笑みを浮かべた。
「……ねえ、あたしと勝負してみない? キミ、早速窃盗スキルを覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。それが、あたしのサイフでもあたしの武器でも文句は言わない。この軽いサイフの中身だと、間違いなくあたしのサイフの中身や武器の方が価値があるよ。どんな物を奪ったとしても、キミはこの自分のサイフと引き換え。……どう? 勝負してみない?」
 いきなり面白い事を言い出す姉さんだ。

 しかし、と俺は考える。
 俺は幸運が高いらしい。
 で、相手からは何か一つ奪ってもいい。
 つまり、スキルに失敗したら何も貰えないって事じゃないだろう。

 ……やってやるか。

 なんというか、こういった賭け事みたいなヤツはいかにも荒くれた冒険者同士のやりとりみたいで憧れる!
 俺は自分の冒険者カードを確認すると、そこに習得可能スキルという欄が新しく表示されているのを確認した。
 そこを指で押してみると、4つのスキルが表示される。
 敵感知15ポイント、潜伏15ポイント、窃盗15ポイント、………………宴会芸『花鳥風月』40ポイント。
 ……最後のはアクアのやってたコップに種を入れる宴会芸か?
 何で宴会芸のくせに大層な技名と結構なスキルポイントを食ってんだ。

 俺はカードの中のスキル、窃盗、敵感知、潜伏を習得する。
 60あったスキルポイントが消費され、残りスキルポイントが15になる。
 なるほど、こんな感じでスキルを覚えるのか。
「早速覚えてみたよ。そして、その勝負乗った! 何盗られても泣くんじゃねーぞ?」
 言って右手を突き出す俺に、クリスが不敵に笑って見せた。
「いいねキミ! そういう、ノリのいいヤツって好きだよ! さあ、何が盗れるかな? 今ならサイフが敢闘賞。当たりは、魔法が掛かってるダガーだよ! こいつは40万エリスは下らない一品だからね! そして、残念賞はさっきダクネスにぶつける為に多目に拾っといたこの石だよ!」
「ああっ! きったねえ!! そんなの有りかよっ!」
 俺はクリスが取り出した石を見て、思わず抗議の声を上げた。
 自信満々だと思ったら、こういう事か!
 確かにゴミアイテムを多く持っておけば、大事なアイテムが盗られる確率も減り、スティール対策にはなる。
「これは授業料だよキミ。どんなスキルも万能じゃない。こういった感じで、どんなスキルにだって対抗策はあるもんなんだよ。一つ勉強になったね! さあ、いってみよう!」
 畜生、確かにいい勉強にはなった!
 それに、心底楽しそうに笑うクリスを見ていると、騙された方が悪い気にすらなってくる。
 ここは日本じゃない、弱肉強食の異世界だ。騙される甘っちょろいヤツが悪いのだ。
 それに、勝負の分が悪くなったってだけで、まだ残念賞に当たるとは決まってない。
「よし、やってやる! 喰らえ、『スティール』っ!」
 俺が叫ぶと同時、俺が突き出した右手には何かがしっかりと握られていた。
 俺の幸運が高いって言っていたのは本当らしい。
 一発で成功しやがった。
 俺は自分が手に入れた物を広げ、マジマジと見ると……。
「……なんだこれ?」
 それは、一枚の黒い布切れだった。
 俺はそれを両手で広げると……。

「ヒャッハー! 当たりも当たり、大当たりだあああああああああ!」
「わああああああああああああああ! ぱ、ぱんつ返してええええええええええええええええええええっ!」
 クリスが自分のスカートを押さえながら、涙目で絶叫した。


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