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一部
4話
「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう…………」
 一匹はめぐみんの魔法で消滅した為、残る二匹の巨大なカエルを引きずりながら、粘液まみれのアクアがめそめそと泣いている。
 俺の力じゃカエル一匹すらビクともしないのに、さすが腐っても一応元女神だ。
「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですね……。知りたくもない知識が増えました……」
 同じく粘液まみれでそんな事を言っているめぐみんは、俺の背中におぶさっていた。
 魔法を使う者は、魔力容量を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削る事になるらしい。
 ほとんど魔力が枯渇している状態で大きな魔法を使うと、命に関わる事もあるそうだ。
「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ」
 俺の言葉に、背中におぶさっためぐみんが、俺に掴まっている手に力を込めた。

「…………使えません」

「…………は? 何が使えないんだ」
 めぐみんの言葉にオウム返しで言葉を返す。
 めぐみんが、掴まる手に更に力を込め、その薄い胸が俺の背中に押し付けられた。
「…………私は、爆裂魔法しか使えません。他には、一切の魔法が使えません」
「…………マジか」
「…………マジです」
 俺とめぐみんが静まり返る中、今まで鼻をぐすぐす鳴らしていたアクアが、ようやく会話に参加する。
「爆裂魔法以外使えないってどういう事? 爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」
 ……スキルポイント?
 そういや、ギルドのお姉さんがスキル習得がどうのと言っていたな。
 そんな俺の顔を見て、アクアが説明してくれる。

「スキルポイントってのは、クラスに就いた時に貰える、クラススキルを習得する為のポイントよ。優秀な者ほど初期スキルポイントは多くて、このポイントを振り分けて様々なスキルや魔法を習得するわけ。例えば、超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを全部習得し、それからアークプリーストの全魔法を習得して、更にポイントが余ったから近接格闘スキルまで取ったわ」
「……宴会芸スキルって何に使うものなんだ?」

 アクアは俺の質問を無視して先を続ける。

「クラススキルは、個人によって習得できるスキルが限られてくるわ。例えば水が苦手な人は氷結や水属性のスキルを習得する際、普通の人よりも大量のポイントが必要だったり、最悪、習得自体ができなかったりね。……で、爆発系の魔法は複合属性って言って、いくつもの属性の魔法が複雑に絡み合っている系統の魔法。つまり、爆発系の魔法を習得できるくらいの者なら、他の属性の魔法なんて簡単に習得できるはずなのよ」
「爆裂魔法なんて上位のものが使えるなら、下位の他の魔法が使えないわけが無いって事か。……で、宴会芸スキルってのはいつどうやって使うものなんだ」
 俺の背中で、めぐみんがぽつりと言った。
「……私は爆裂魔法をこよなく愛するウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃない。爆裂魔法だけが好きなのよ」
 その意味は俺には分からないが、アクアは真剣な面持ちでめぐみんの独白に耳を傾けている。
 ずりずりとカエル引っ張りながら。
 いや、そんな事よりも、俺はすでに宴会芸スキルとやらの方が気になっているんだが。

「もちろん他のスキルを取れば楽に冒険ができるのでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう。……でも、ダメ。私は爆裂魔法しか愛せない。例え今の私の魔力容量では一日一発が限界でも。例え魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない! だって、私は爆裂魔法を使う為だけに、アークウィザードの道を選んだのだから!」
「素晴らしい! 素晴らしいわ! その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」

 ……まずい、どうもこの魔法使いはダメな系だ。
 よりによってアクアが同調しているのがその証拠だ。
 ハッキリ言って、これ以上問題児を引き取りたくない。

「そっか。多分茨の道だろうけど頑張れよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けさせて貰おう。うん、まあ、また機会があればどこかで会う事もあるだろ。では、ギルドに着いたら解散、という事で」

 その言葉に、俺を掴んでいるめぐみんの手に力が込められた。
「ふ……。我が望みは、爆裂魔法を放つ事。報酬などあくまでおまけに過ぎず、何なら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるなら、無報酬でもいいと考えている。そう、上級職であるアークウィザードである我が絶大な力が今なら食費と諸々のみ! これはもう、長期契約を交わしてもいいのではないだろうか!」
「いやいや、その強力な力は俺達のような弱小パーティには向いていない。そう、お前さんの力は俺達には宝の持ち腐れだ。俺達の様な弱小パーティには普通の魔法使いで充分だ。ほら、俺なんか初期クラスの冒険者をやってるぐらいだから」
 俺はそう言いながら、ギルドに着いたらすぐにこいつを捨てられるように、必死でしがみ付いてくるめぐみんの手をなんとか緩めようとする。
 が、その俺の手をめぐみんが掴んで離さない。

「いやいやいや、弱小でも駆け出しでも大丈夫だから。私……、じゃない、我も上級職だけど駆け出しだから。まだレベル6だから。見捨てないでもう少し使ってくれれば、レベル上がれば魔法使っても倒れなくなるから。だ、だから、ね? お、お願いだから、手を引き剥がそうとしないで欲しいです」
「いやいやいやいや、爆裂魔法一発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いし意味わかんないから。くっ、魔法使いのくせに意外な握力をっ……! こ、こら離せ、お前多分他のパーティにも捨てられた口だろ、というかダンジョンにでも潜った暁には、爆裂魔法なんて狭いダンジョンじゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ、お、おいこら離せ、ちゃんと今回のクエスト分の金はやるから! 離せ!」
「見捨てないで! もうどこのパーティも拾ってくれないの! ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします、お、お願い、私を捨てないでー!」
 背中から離れようとしないめぐみんが、捨てないでだのと大声で叫ぶ為か、あらぬ誤解をしている通行人達がこちらを見てひそひそと噂していた。
 すでに街中に戻ってきている為、巨大なカエルを引きずるアクアの姿もありやたらと目立つ。

「やだ……。あの男、あの女の子を捨てようとしてる……」
「隣には、なんか粘液まみれの女の人に、あんな巨大なカエル運ばせてるわよ」
「あんな女の子を弄んで捨てるなんて、とんだクズね。見て? 女の子二人は粘液でぬるぬるよ? 一体どんなプレイしたのよあの変態」
 ……間違いなくあらぬ誤解を受けている。
 アクアがそれを聞いてニヤニヤしているのが憎たらしい。
 そして、めぐみんにもそれが聞こえた様で。
 めぐみんは口元をにやりと歪め……

「どんなプレイでも大丈夫ですから! 先程の、カエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えてみせま「よーし分かった! これからよろしくなめぐみん!」


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「はい、確かに。ジャイアントトードを三日以内に五体討伐。討伐を確認いたしました。ご苦労様でした」
 冒険者ギルドに報告を終え、規定の報酬を貰う。
 粘液にまみれたアクアとめぐみんは、そのままだと生臭い上にまた俺があらぬ誤解を受ける可能性があるので、とっとと大衆浴場へ追いやった。
 カエルの死体の内一体は爆裂魔法で消滅した為、クエスト完了の報告はどうなるのかと思っていたが、この冒険者カードは、倒したモンスターの種類や討伐数が記録されていくらしい。
 俺とめぐみんのカードを見せると、受付嬢はなにやら機械を操作して、それだけでチェックを終えていた。
 科学の代わりに魔法が発達した結果なんだろうけど、この世界の技術もあながちバカにはできない。

改めて自分のカードを見ると、そこには冒険者レベル6とある。
一応あのカエルは中級の冒険者が狩る相手らしい。
その為、4匹狩っただけで一気にレベル6にまで上がったのだろう。
ステータス欄の数値が多少は上がっているが、あまり強くなった実感は無い。

「……しかし、本当にモンスター倒すだけで、強くなるもんなんだなぁ……」

 俺は思わず呟いた。
 この世界では、生き物を殺すと、殺した相手の力の一部を吸収するのだそうな。
 アクアの話だと、魔力の溢れているこの世界では魂の記憶がうんたらかんたら。
 まあ、言っていた事の半分も理解できなかったが、要は敵を倒すと経験値が入ると思っておけばいいらしい。
 よくよく見ると、カードにはスキルポイントと書かれている欄が60と表示されている。

 キマシタワー。
 とうとう俺もスキルが使えるわけだ。

「はい、ではジャイアントトード二匹の買い取りとクエスト報酬を合わせまして、十一万エリスとなります。ご確認くださいね」
 十一万か。
 あの巨大なカエルが一匹五千円程での買い取り。
 そして、カエル五匹を倒して十万円。
 アクアの話では、四人から六人でパーティを組んでクエストを行なうらしい。なので、普通の冒険者の相場だと、一日から二日をかけてあのモンスターと命がけで戦い、カエル五匹の取引と報酬で十二万五千円。五人パーティだとして、一人当たりの取り分が二万五千円。

 ……割に合わねー。
 クエストが一日で済めば日当二万五千円。
 これだけ見れば一般人にしてはいい稼ぎに思えるかもだが、命懸けの仕事にしてはやはり割に合っていない気がする。
 事実、今日なんてカエルがもう一匹湧いてたら俺も食われて、誰も助けることができなくなり、見事全員カエルに消化されるのを待っていただろう。
 考えただけでもゾッとする。

 一応他のクエストにも目を通すと、そこに並んでいたクエストは……。
『森に悪影響を与えるエギルの木の伐採、報酬は出来高制。迷子になったペットのホワイトウルフを探してきて欲しい。息子に剣術を教えて欲しい。※要、ルーンナイトかソードマスターの方に限る。魔法実験の練習代探してます、※要、強靭な体力か強い魔法抵抗力…………』

 うん。
 平和な日本に比べたら、異世界はハードモードです。
 もう帰りたくなって来た。


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