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一部
3話
「アレね。二人じゃ無理だわ。仲間を募集しましょう」
 街に帰還した俺達は、真っ先に大衆浴場に行って汚れを落とした後、冒険者ギルドにてカエルのもも肉の照り焼きを食いながら作戦会議をしていた。
 この冒険者ギルドという所は、冒険者達の待ち合わせや溜まり場としても使われている為に、酒場も併設されている。
 今日はカエル二匹の肉が手に入ったので、ギルドへのカエル肉販売でそこそこの小遣いにはなった。
 といっても、土木作業のバイトの給料と稼ぎはあまり変わらない。
 しかし、ちょっと硬いがカエルが意外にいけるのが驚いた。
 この世界に来た当初はトカゲやカエルに抵抗があったが、食ってみると意外といける物が多い。
 目の前の女に関しては、どんな物でも一切の躊躇なく最初からモリモリ食っていたが。
「しかし、仲間といっても駆け出しでロクな装備もない俺達と、組んでくれる奴なんかいると思うか?」

 口いっぱいにカエルのもも肉を頬張ったアクアは、手にしたフォークを左右に振った。
「ふぉのわたひがいるんだはら、なかああんて「飲み込め。飲み込んでから喋れ」

 口の中の物をゴクリと飲み込み、

「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。なんせ、私はアークプリースト様よ? あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に状態異常治癒魔法、蘇生魔法だってお手の物。どこのパーティも喉から手が出るほどに欲しいはず。カズマのせいで地上に降とされ、本来の力からは程遠い状態とはいえ、仮にも女が……、アクア様よ? ちょろっと募集かければお願いですから連れてってくださいって輩が山ほどいるわ! 分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさいよ!」
 言って、俺の皿から唐揚げを奪い取る自称女神を、俺は不安気に眺めていた。




 翌日の、冒険者ギルドにて。

「……………………来ないねぇ……」

 アクアが、寂しそうにションボリと呟いた。
 求人の張り紙を出した俺達は、冒険者ギルドの片隅にあるテーブルで、すでに半日以上も待ち続けている。
 別に、張り紙が他の冒険者に見てもらえていない訳ではないらしい。
 俺達以外にもパーティ募集をしているっぽい冒険者達もそこそこいるが、その人達は次々と面接を行い、何やら談笑した後連れだって行った。

 誰も来ない理由は分かっている。
 アクアの問題児っぷりが、すでに噂になっているのだ。
 証拠に、最初は俺達の募集の紙を見た連中が、嬉々としてこちらのテーブルに来ようとして、アクアを見てコソコソと帰っていくのを何度も見ている。
 だが、流石にこのまま誰も来ないのではここにいる意味が無い。
 しょうがない、アクアの悪い噂が消えるまで、またしばらく土木作業のバイトでも……。
 俺がそう思っていた時だった。

「募集を見て来たんだが。面接はここでいいのかい?」

 声をかけてきたのは、気だるげな、とろんとした眠そうな赤い瞳、そして黒い髪の女の子。
 黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子は被っていないものの、典型的な魔法使いの格好だった。
 信じられないぐらいに整った、人間離れした顔立ちのその美少女は、歳は二十には満たないだろう。
 十七、八といった所か?
 黒髪を腰まで伸ばし前髪をぱっつんと切り揃えたその娘は、気だるげな声で言ってきた。
「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者」
「…………冷やかしにきたのか?」
「ち、ちがわい!」
 女の子の自己紹介に思わず突っ込んだ俺に、その子は慌てて否定する。
 いや、めぐみんってなんだ。
「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」
 アクアの問いに、その子はこくりと頷いた。
「いかにも。我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん。……あの、図々しいお願いなのですが、できれば何か食べさせてくれませんか…………」
 めぐみんと名乗る娘は、そう言って悲しげな瞳でじっと見てきた。
 それと同時に、めぐみんの腹が鳴る。
「……ええと、カズマに説明すると、彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。……そして、大抵変わった名前を持っているわ」
 なるほど。別に俺をからかっている訳じゃないのか。
「変わった名前とは失礼な。私から言わせれば、人族の名前の方がよほど変わってると思うのだよ」
「……ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」
「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」
「…………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな? 仲間にしてもいいか?」
「おい、私の両親の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

「いいんじゃない? 冒険者カードは偽造はできないんだし、彼女は上級職のアークウィザードで間違いないわ。カードを見ても、高い魔力が記されてる。魔力容量は普通だけど、これは期待できると思うわよ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄い事だわ。習得が極めて難しい爆発系の魔法の、最上級の魔法だもの」
「おい、彼女ではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

 抗議してくるめぐみんに、俺は店のメニューを手渡した。

「まあ、何か頼むといいよ。俺はカズマ。こいつはアクアだ。よろしく、アークウィザード」
 めぐみんは何か言いたそうな顔をしたが、無言でメニューを手に取った。


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「爆裂魔法は最強魔法。その分、詠唱時間が結構かかる。呪文が完成するまで、あのカエルの足止めをお願い」
 俺達は満腹になっためぐみんを連れて、あのジャイアントトードにリベンジにやって来ていた。
 平原の、遠く離れた場所には一匹のカエルの姿。
 カエルは、こちらに気付いて向かって来ていた。
 だが、更に逆方向からも一匹のカエルがこちらに向かう姿が見える。
「遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。近い方は……。おい、行くぞアクア。今度こそリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろ? たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」
「元って何!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は! アークプリーストは仮の姿よ!」
 涙目で俺の首を絞めようとしてくる自称女神を、めぐみんが不思議そうに。
「……女神?」
「……を、自称している可哀想な子だよ。今後もたまにこういった事を口走る時があると思うけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」
 俺の言葉に、同情の目でアクアを見るめぐみん。

 半泣きになったアクアが、拳を握ってヤケクソ気味に、近い方のカエルへと走った。
「きいっ! 打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ! 見てなさいよカズマ! 今の所活躍してない私だけど、今日こそはっ!」
 そう叫んで、見事カエルの体内へ侵入する事に成功したアクアが、カエルの腹の中から一匹のカエルを足止めしてくれている間に、めぐみんの呪文が完成した。

「喰らうがいい、我が必殺の爆裂魔法を! 『エクスプロージョン』っ!」

 閃光が走った。
 めぐみんの杖の先から放たれたそれは、遠くからこちらに接近してくるカエルにぶつかると……!
 目も眩む様な光と轟音と共に、カエルは爆裂、四散した。
 凄まじい突風になぎ倒されそうになりながらも、俺は足を踏ん張り顔を庇う。
 煙が晴れると、カエルのいた場所は半径十メートル以上にも渡ってクレーターができており、その爆発の凄まじさを現していた。



「すっげー……。これが魔法か……」

 俺がめぐみんの魔法の威力に感動していると、今の轟音と衝撃からか、一匹のカエルが地中から這い出してきた。
 地球ではカエルは地に潜って冬眠するが、この世界のカエル達は、冬眠など関係なく、日頃から地中に潜って生活しているのかもしれない。
 カエルはめぐみんの近くに這い出そうとしているが、起きたばかりなのか、その這い出す動作は非常に遅い。
 今のうちにめぐみんと共にカエルから距離を取っておき、めぐみんの先程の魔法で消し飛ばしてもらえばいいだろう。
「アークウィザード! 一旦離れて、距離をとってから攻撃を……」
 そこまで言いかけて、めぐみんの方を向くと同時。
 俺はそのまま動きを止める。
 そこにはめぐみんが倒れていた。

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえに、消費魔力もまた絶大。……要約すると、最大魔力容量を超えた魔力を消費したので、身動き一つ取れません。近くからカエルが湧き出すとか予想外。やばい食われる。すいません、ちょ、助け……」


 
 俺は、アクアとめぐみんが身を呈して動きを封じたカエル二匹にトドメを刺し、何とか、『三日以内にジャイアントトード5匹討伐』のクエストを完了させた。


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