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一部
プロローグ
 どうも、俺は死んだらしい。

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。佐藤和真さとうかずまさん、あなたは本日午後14時21分に亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 目が覚めると、そこは事務室みたいな部屋の中だった。
 そこに、唐突に俺は突っ立っている。
 そして、目の前には事務椅子に座った一人の女神。
 なぜ女神だと、相手の言う事をすんなり信じたのかと言えば、無駄にキラキラと後光の様なものが射していたのと、現実にはありえない位の美女だったから、ああ、本物の女神様なんだなと思ってしまった。
 その女神の言葉を聞き、改めて自分が死んだ事を自覚した。
 死んだと言われて落ち着いているのは、死ぬ直前の記憶があるからだ。

 それはついさっきの出来事だ。
 ニート生活で培った達人級のゲームスキルを遺憾なく発揮し、俺は近所の公園で携帯ゲーム機をこれみよがしにプレイして、子供達の崇拝の視線を浴びるという、俺の人生において最高の時を満喫していた。

 だが、そんな俺のモテっぷりを妬み、そして危険視した何者かが、どうも国家権力の犬を召還する儀式を取り行なったらしい。
二十歳にもなって新人の警察官にたっぷり説教を受けた俺は、軽く死にたい気分でウロウロと近所を徘徊していた。

 そんな時、携帯をいじりながら俺の前を歩いていた女子高生が、信号が青になったのを確認して、そのままロクに左右も見ずに横断歩道を渡っていった。
 そこに、わき見運転をしていたトラック……!

 ではなく。
 トラクターが突っ込んで来たのだ。

 耕される!

 俺は危うく畑の肥やしになりかけた女子高生を、とっさに後ろから突き飛ばした所までは覚えている。

「……そうですか。ええと、一つだけ聞いても?」

 俺の質問に、女神がゆっくりうなずいた。
「どうぞ?」

「あの女の子は……。俺が突き飛ばした女の子は、生きてますか?」

 大切な事だった。
 人生最初にして最後の見せ場だったのだ。
命をかけて助けに入って、結局間に合わなかったなんて悔し過ぎる。

「ええ、生きていますよ? もっとも、足を骨折する大怪我を負いましたが」

 良かった……。
 女の子は怪我はしたが、俺の死は無駄じゃなかった訳だ。
 ほっとした様子の俺を見た女神は、小首を傾げた。

「まああなたが突き飛ばさなければ、あの子は怪我もしなかったんですけどもね?」
「……は?」

 この女なんつった。
「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんです。あたり前ですよね。だってトラクターですもん。そんなにスピードだって出せないし。つまり、あなたはヒーロー気取りで余計な事したって訳です。……プークスクス」

 どうしよう、こいつ引っ叩いてやりたい。

「……つまり、俺は意味も無くトラクターに耕されて死んだって事か。……まあ、しょうがない。つまんない最後だったけども、まあ……」
「耕された? いえ、あなたトラクターに轢かれてなんかいませんよ? トラクターは、あなたの目の前で止まりましたから」
 …………は?

「え、でも、俺死んだんじゃ……?」

 トラクターに轢かれる寸前の記憶しかないから、それが原因で死んだと思ってたんだが、違うのか?

「あなたはトラクターに轢かれそうになった恐怖で、失禁しながら気を失い、近くの病院に搬送。なんだこいつ、なっさけねーのと医者や看護婦に笑われながら、目を覚ますまでそこのベッドに寝かしとけと、」
「うわあああああああああああ! 聞きたくない聞きたくない! そんな情けない話は聞きたくない!」

 女神は耳を塞いでいる俺に近寄ってくると、にまにまと笑みを浮かべながら、わざわざ俺の耳元で、
「そこのベッドに寝かしとけと、適当な病室のベッドに寝かされていた所を、病院で有名なドジッ子看護婦が、本来絶対に間違っちゃいけない系の薬を、点滴待ちしていた他の患者と間違えてあなたに……」
「あああああああああああ! うわあああああああああああ! いやあああああああ! 嫌だあああああああ、そんな情けない死に方ってあんまりだろおおおおおおお!」
 こいつ絶対女神じゃないだろ!

「……さて。私のストレス発散はこのくらいにしておいて。情けなく死んだあなたには、いくつかの選択肢があります」

 こいつ……! 
 いやもう、話が進まないから我慢しとこう。

「それは、このまま日本で赤ん坊として生まれるか。天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか。さあどっち?」

なんだその身も蓋もない選択肢は。
お前いくつかの選択肢って、二択じゃねえか。

「いやその……。天国的な所ってなんですか? そもそも、お爺ちゃんみたいな暮らしって?」
「えっと、天国ってのはね。あなた達が想像している様な素敵な所ではないの。死んだんだからもう食べ物は必要ないし、死んでるんだから、物は当然産まれないわ。作ろうにも材料もないし。がっかりさせて悪いけど、天国にはね、何にもないのよ。ネットもなければテレビも漫画もゲームもない。そこに居るのは、すでに死んだ先人達のみなの。もちろん死んだんだから、エロい事だってできないし、そもそも体がないんだからできないわね。彼らと永遠に意味もなく、ひなたぼっこでもしながら世間話するぐらいしかやる事がないわ」

 何それ、ネットも娯楽も何にもないとか、天国ってより地獄じゃねーか。
 しかし、赤ちゃんになってもう一度人生やり直すってか。
 合法的におっぱい吸える訳だが、母親が残念な顔な人だったらなあ……。
 いや、それしか選択肢はないんだろうけど。
 そんな残念そうにしている俺を見て、女神はニコニコと笑顔を浮かべた。

「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないですよね? かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、あなたにとっては今までの記憶が消える以上、それってあなたって言う存在が消えちゃう様なものですよね。そこで! ちょっといい話があるのよお兄さん!」

 なんだろう、物凄く胡散臭い。
 女神は、警戒する俺にニコニコしながら。

「実はね? 今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいて、その連中にまあ、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ」
「……で、俺に代わりにその魔王を倒せとか?」

 女神が、フッと鼻で笑った。
 この野郎。

「まさか、幾ら何でも童貞のニートに魔王退治命じるほど鬼じゃないわ! あはははははは!」
 ふうむ、ぶっ殺してぇ。
「話を続けるわ。で、その星で死んだ人達って、まあほら魔王軍に殺された訳でしょう? なもんで、もう一度あんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって、そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうの。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその星滅びちゃう! みたいな。で、それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってね?」

 つまり、移民政策みたいなもんか。

「で。どうせ送るなら、若くして死んだ人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの。それも、送ってすぐ死んじゃうんじゃあ意味が無いから、何か一つだけ。向こうの世界に好きな物を持っていける権利をあげているの。それは、強力な固有スキルだったり。とんでもない才能だったり。神器級の装備を希望した人もいたわね。……どう? これならお互いにメリットがある話でしょう? あなた達は、異世界とはいえ人生やり直せる。異世界の人達は即戦力になる人がやってくる。悪くないでしょ?」

 なるほど、確かに悪くない話に思える。
 それにあれか! 強力なチート能力もらって、俺つえーなあれか!
 しかしどうしたもんか。

「えっと、聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです? 俺、言葉喋れるんですか?」
「その辺は問題ないわ。私達神による、アレな超パワーでサクッと都合よく解決済み。もちろん文字だって読めるし向こうの貨幣なんかも、日本円に脳内で換算されてくれる分かり易い便利システムを採用してるわ。だから、後は能力か装備かを選ぶだけよ」

 もはや、最初に出会った時の重々しい口調は崩壊し、完全に地が出ている女神。
 なるほど。
 となると、ここはやっぱ能力かな?
 いや、装備も捨てがたいし。
 いやいや、ここは必須ともいえる鑑定だとか、ステータス弄れる系だとか?
 いやいやいやいや、ここは……。

「ねえ、早くしてー? どうせ何選んでも一緒よ。最初からニートでロリコンのあなたなんかに誰も期待はしてないから、なんか適当に選んじゃってー。何でもいいから、はやくしてーはやくしてー」
「ロ……、ロリコンじゃないから……っ!」
 涙目で震え声で言い返すが、女神は自分の髪の先の枝毛をいじりながら、俺には全く興味無さそうに言った。

「ねーえー。そんな事どうでもいいから早くしてー。この後、他の死者の案内がいっぱい待ってるんだからね?」

 そのめんどくさそうな投げやりな態度に、流石に俺もカチンときた。
 じゃあ決めてやるよ。
 異世界に持っていける物だろ?
 せめて揚げ足とって困らせてやんよ!

「じゃあ、あんた」
 俺は女神を指差した。
 女神は、髪の枝毛を弄りながら。
「あーはいはい。それじゃ、この魔方陣の中央から出ない様に…………」

 そこまで言って、女神はハタと動きを止める。

「……今何て言ったの?」

 呆然と呟く女神と、そして俺の足元には、青く光る魔方陣が現れた。
 おお、なんだこれ。
 もしかしてこのクソ女神を異世界に引きずり込む事に成功するってのか?

「ちょ、え、なにこれ。え、え、嘘でしょ? いやいやいやいや、ちょっと、あの、創造神様!? 無効でしょ!? こんなの無効ですよね! 待って! 待って!?」

 涙目でオロオロしながら、滅茶苦茶に慌てふためく女神。
 その姿を見れただけで、俺はすでに満足していた。
 そのまま女神を指差し。

「ぶははははははっ、馬鹿にしてた相手と異世界へと強制連行! おいどんな気持ちだ? なあ、今どんな気持ち?」
「わああああああー! ちょっとあんた何してくれてんの!? いやあああああ! こんな貧弱なクソニートと異世界行きなんて、いやああああああああ!」

 俺は、女神と共に白い光に包まれた。
作中では主人公の外見的描写はありません。
自分の身長や外見等を説明口調で書くのもおかしな話なので。。。
主人公は、身長170前後の中肉中背、黒髪黒目、外見普通の地味な兄ちゃんです。
服装は黒のジャージとなっております。


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