2013年12月09日 (月)広がる仮想通貨"ビットコイン"
いま、インターネット上の「謎の通貨」に世界の注目が集まっています。「ビットコイン」と呼ばれる仮想通貨です。このビットコイン、もともとは、インターネット上でやりとりされるデータの一種で、それ自体にはなんの価値もありません。しかしそのビットコインが、いま、投資の対象となり価格が急騰しています。背景にあるのは、ヨーロッパの経済危機など、世界経済への信用の低下。現実の通貨よりも、仮想の通貨を選ぶ人が現れているのです。
【“仮想”が生んだバブル】
東京・渋谷の繁華街。ここで、仮想通貨の取り引きが、行われていました。喫茶店で20代の男性がアメリカ人に現金30万円を手渡して、ビットコインを購入したいと持ちかけました。手続きは、スマートフォンでわずか1分。30万円はネットの世界の2.6ビットコインに変わりました。
ここに集まる人たちの関心を集めているのは、高騰するビットコインの値動きです。ことし始め、1ビットコインはおよそ1000円で取引されていましたが、利用者の拡大とともに徐々に値を上げていきます。さらに、11月に入ると中国をはじめ、世界中から投資が集まり、価格が急騰。1年で、100倍の10万円以上に跳ね上がりました。
価格の高騰は、さらなる投資を呼び込んでいます。医療従事者の女性は「夢の世界の出来事のようで、ただ喜んでいる状態です」と話していました。また会社経営者の男性は「ビットコインはガンガン買います。投資なので、さらに100万円、1000万円と買っていきたいと思ってます」と話していました。渋谷にはインターネット上で、ビットコインを売りたい人と買いたい人とを仲介する取引所があり、登録している日本人はおよそ4000人と、ここ3ヶ月で2倍以上に増えているということです。
一方で、ビットコインの高騰に戸惑う人も。格闘技の教室を開いている男性は、1年前、生徒から授業料15万円のかわりに130ビットコインを受け取りましたが仕組みもよくわからないまま、放置していました。しかし、最近、価格を確認して目を疑いました。1ビットコインが10万円以上になり、うけとった授業料がおよそ1500万円相当(12月5日時点)になっていたのです。男性は「こういう風になるとはまったく思っていませんでした。単純にすごいなとは思いますが、有効活用する方法もよくわからないので、まだ実感がないです。」と話しています。
【革命か 幻か】
「仮想の通貨」が、世界に広まったきっかけは、ヨーロッパの“経済危機”でした。国民の預金の一部を国が強制的に徴収する事態も発生。自分のお金を守りたいと、大量のマネーが、ビットコインに流れていったのです。
【謎に包まれた実態】
「ビットコイン」は、もともとこうした事態を想定して作られた通貨でした。2008年、「サトシ・ナカモト」と名乗る架空のプログラマーが書いた論文。ビットコインの目的は、国家から独立した通貨を作ることとしています。通常の通貨は、財政危機などで国家の信用が落ちれば、その価値も失われかねません。
そこで、国家の枠組みを超え、世界共通の通貨をインターネット上に作ろうと考えました。その価値は、通貨の総量を厳しく制限することで担保します。この考え方に賛同した世界中のプログラマーによって、ビットコインは、自然発生的に生まれたのです。
ビットコインの仕組みに詳しい慶応大学の斉藤賢爾特任講師は、「現実社会で、お金がいわば無尽蔵に生み出されてしまうということに対して懸念している人たちが、ある一定の数までしかお金を作れないようにする必要があると考え、ビットコインを作りだした。今のお金の仕組みではない、ほかの仕組みが今後広く使われていく可能性はある。」と話しています。
【現実社会に広がるビットコイン】
ビットコインはいま、現実社会で通常の通貨と同じように利用され始めています。通貨危機に陥ったキプロスの大学では、授業料の支払いをビットコインで受け付けています。
財政難に苦しむアメリカでも、ドルを信用できないという人たちがビットコインを利用しはじめています。ABCニュースではことし6月、現金や、クレジットカード、小切手などを一切使わず、ビットコインだけで生活する新婚夫婦のニュースを報じました。妻は「新しいデジタル通貨、ビットコインを使って生活します」と話していました。
拡大の流れは、日本でも見受けられます。東京・六本木では、食事代をビットコインで支払うことができるレストランも現れました。メニューの料金は円で書かれていますが、会計する時のレートで、スマートフォンを使ってビットコインでの支払いが可能です。レストランによりますと、クレジットカードに比べて、手数料が安いのも魅力だということです。ビットコインの取引所によりますと、いまや、世界、数百万人が利用し、その市場規模は、1兆3千億円(12月5日時点)に達していると言います。
【負の側面も】
拡大が続くビットコイン。一方で、負の側面も指摘されはじめています。ビットコインで決済する通販サイト。ここに掲載されているのはコカインや偽造パスポート。ビットコインで購入しても個人情報が残らず、購入者を特定することはできないため、違法な闇取引に利用されているのです。このサイト、実は10月に運営者がアメリカ・FBIに逮捕されましたが、同じ名前のサイトがすぐに立ちあがりました。
さらに、ビットコインには価値の保証がないだけに、一度信用を失えば、すべてが消えて無くなってしまう危険性もはらんでいます。その時、誰かに責任を問うこともできません。ネット上の通貨に詳しい日本総研の宮脇啓透研究員は、「ビットコイン自体に価値の裏付けがないので、規制されたり、事件が起きたり、急に店舗で使えなくなったりすれば、暴落するリスクも十分にある。発行主体がないため、もし不測の事態や不具合が起こった際に、誰にも責任が問えないという状況にあるのではないか」と話しています。
インターネットを通じて国境を越えて広がっていく仮想通貨に対し対応に乗り出す国も出てきています。アメリカでは11月に議会で公聴会を開き、ビットコインの取り扱いについて金融関係者が意見を交わしました。一方、12月には中国の中央銀行が、ビットコインにはリスクがあるとして金融機関で取り扱いを禁じる通知を出しました。税金についての判断なども各国で対応が分かれていますが、日本ではまだビットコインをどう扱うかの議論は、始まっていません。実体経済への不信が生み出した、幻の通貨。それがいま投資の対象となって 急騰を続けている事態は、いまの経済の仕組みへの警鐘なのかもしれません。しかし、この通貨、もともとはなんの実態もないものだということも忘れてはいけないと思います。
投稿者:成田大輔 | 投稿時間:08時00分
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