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秘密保護法を招いた通路 - マスコミは政治報道の反省を
今日(12/10)の朝日の1面トップは、昨夕、安倍晋三が官邸で会見して秘密保護法の成立を釈明した件への批判記事となっている。安倍晋三が、秘密保護法について、「秘密の範囲は広がらない」とか、「通常の生活は脅かされない」と言い訳したのに対して、「根拠を示してない」と反論、「秘密指定の恣意性をどう防ぐかなどについての具体的な説明はなかった」と一蹴している。他紙の紙面は確認してないが、おそらく読売や日経の1面トップは別の内容だろう。昨夜(12/9)のNHK-NW9は、北朝鮮の張成沢失脚の事件を冒頭で紹介した。テレ朝の報ステは、江田憲司の離党会見とみんなの党の分裂がトップニュースだった。少し前の朝日なら、みんなの党の政局騒動をトップで報じたに違いない。ここ数日の朝日の紙面は、秘密保護法の報道に限っては、ほとんど東京新聞と同じ姿勢と論調になっている。12/8の1面で、東京本社編成局長の杉浦信之が社論を上げ、「私たちは今後も、この法律に反対し、国民の知る権利に応える取材と報道を続けていく」と書いていたが、その空気が編集部を包んでいることが窺われる。それともう一つ、この1面トップの編成には経営上の別の理由があって、秘密保護法に対して読者の関心が高いのだ。他のニュースよりも秘密保護法に関する記事を大きく扱い、大見出しにして売った方が、駅売りの部数が増えるのである。


ネットのTW上でも、秘密保護法の話題が途切れず、法案成立後もずっと議論が続く状況にある。国民のこの問題への関心と注目は、衆院で審議されていた当時よりも現在の方がホットで、秘密保護法についてもっと詳しく知りたいと思っている。法律の中身がどのようなもので、その制定がどんな意味と影響があるのか、少しずつ知識と情報を得て、それと同時に懸念と不安を抱き始め、危険な本質に驚き始めている。この法律が、単に公務員や軍事に関係する民間人を縛るだけでなく、一般の市民生活に及び、言論の自由や思想の自由に関わることを察知し、その真実を明らかにしたいと求めている。だから、江田憲司の些末な政局ニュースよりも、マスコミには秘密保護法の報道の継続を求めているのだ。石破茂によるデモ=テロ発言があり、第12条のテロリズムの定義が周知され、一週間の参院での出来事があり、国民は衝撃を受け、秘密保護法の政治の真実に目覚めてしまった。多くの国民にとっては、秘密保護法は今の最大の関心事であり、これから掘り下げていく懸案であり、もう終わってしまった問題ではないのだ。現時点で、秘密保護法の意義と必要性を認め、あの国会運営と強行採決を是とし、この法律に賛成する者は、確信犯の凶悪な右翼であり、安倍晋三の親衛隊であると言える。安倍晋三と共に中国との戦争に邁進し、石破茂と共にリベラルへの言論弾圧を企図する者だ。

すなわち、麻生太郎の同志であり、この国をファシズム国家に変えようと本気で策謀する者たちである。朝日やマスコミにはよく考えてもらいたい。これほど市民社会にとって破滅的な、国連を含む世界の機関から異例の警告を受けたところの、自由を剥奪し民主主義を破壊する恐ろしい治安立法が、この国の議会で成立してしまったのだけれど、それはまさに民主主義の手続きに従って行われたことなのだ。議運に看過しがたい問題があったとはいえ、委員会も本会議も基本的に多数決の形式を踏んでいる。そして、その多数票を投じた議員たちは、1年前と半年前の国政選挙で国民の投票で選ばれた代表なのだ。問題はそこから始まっている。マスコミは、安倍晋三は選挙で秘密保護法を公約しなかったと言うけれど、安倍晋三がどのようなイデオロギーの持ち主で、権力を握ったらどんな政策を推進するかは、選挙の前から少し考えて理解できることだ。また、安倍晋三が選挙の公約をどう処理するかも、最初から十分予測できていた問題だった。安倍晋三の公約違反を論うのなら、TPP参加こそまさに公約違反の最たるものだろう。詐欺そのものだ。だが、同じTPP推進派であるマスコミは、この件には目を瞑って容認で済ませた。今、目の前で行われていることは、1930年代のナチスの歴史の再現である。この政権の政治の方法については、麻生太郎が実に正直に、公の場で吐露していたではないか。この政権には正直者が多い。

党トップの石破茂は、実に正直に秘密保護法の本当の狙いを説明してくれた。あれほど単純明快で要領を得た解説と暴露は他にない。国民の言論と表現の自由を奪うこと、思想の自由を奪うこと、民主主義を壊して全体主義の国家にすること、そのレジーム・チェンジの法制整備のビルディング・ブロックの一つが秘密保護法である。憲法で平和を守られていた日本という国と社会が、戦争を始動するためには、こうした荒療治の改造が必要なのだ。先週、国会で行われたことは、1933年のドイツ議会での全権委任法(授権法)の歴史過程と同じだ。議会で多数を制したナチス党の議員たちは、前年、1932年の選挙で第一党になっていた。民主主義下の合法的な選挙で、国民の投票で政権を得ているのである。さて、1年前、マスコミは2012年12月の衆院選をどう報道したか。アベノミクスをひたすら賛美し、選挙の争点・関心を「デフレ脱却」に誘導し、自民党政権の復活を最初から既定事実化した報道に徹していた。ヒステリックな中国叩きに狂奔し、国防ナショナリズムを扇動し、安倍晋三のタカ派路線に迎合して国民の意識を右に寄せた。安倍晋三よりもさらに極右の橋下維新を持ち上げ、第三極の台頭などと褒めそやかし、橋下徹と石原慎太郎の国政進出を派手に後押しした。今から振り返って、取り返しのつかない昨年の衆院選の結果は、マスコミが宣伝し、マスコミが演出し、マスコミが方向性を示し、これ以外に選択肢はないと国民に観念させ、そうして実現したものだ。

その日本の現実を、韓国社会は右傾化と表現し、厳しい警戒と拒絶の視線を投げかけ、日本人に問うていた。正気に戻れと。米国の新聞も同じ批判をした。だが、隣国からの右傾化の非難と反発を、正面から真摯に受け止め、自己反省的に応じたマスコミ報道は、日本国内では一つもなく、安倍晋三や右翼と声を合わせて、「右傾化ではない」「神経過敏だ」と打ち消しに躍起になっていたのだ。韓国社会から見て、あるいは米国のNYTや英国のガーディアンやエコノミストなどから見て、今回の日本の秘密保護法の成立は、昨年の選挙結果の政策的反映そのものであり、自然なマイルストーンであり、唐突なハプニングではあるまい。1930年代、ドイツは民主主義の国から全体主義の国に変身した。この現象は20世紀のドイツに固有の歴史として語られ、突然変異の理由が探られ、政治学の重要問題として理論研究されてきたが、同じ現象が日本で再現されようとしている。維新が第一党になっていても、今回と同じ秘密保護法が上程され、自民との多数で成立したに違いない。石原慎太郎は12/4の党首討論で、日本版CIAの方も早くやれと安倍晋三に催促した。維新とみんなは、この法案の共同提出者であり、「修正案」と称して中身を改悪した張本人である。マスコミが持て囃した「第三極」は、実際には極右だった。昨年の選挙で院の圧倒的多数を制したのは、ナチスと同じ極右なのだ。だから、戦争法制である日本版NSC設置法と秘密保護法がセットで出るのである。

武器輸出三原則が破棄され、海兵隊や敵基地攻撃が認可され、集団的自衛権が行使(解釈改憲)されるのだ。ナチスの歴史で辿れば、一連の「再軍備」がこのプロセスに該当する。もしも、朝日と毎日が、秘密保護法に最後まで反対すると立場を明言するのなら、この法案がどういう思想と思惑から出てきたものか、目的と本質は何なのか、正しく政治的意味を措定する必要がある。海渡雄一は、この法律の本質は第一に国民監視で、第二に戦争準備だと説明した。岸井成格は、この法律は国民を弾圧する治安立法だと断言した。朝日がこの認識を共有するなら、自民・公明・維新・みんなの政治勢力の本質が何で、その政策が日本をどこへ導くものであるかを明確に概念化しなくてはならない。そして、昨年の衆院選時の報道を検証し、過誤を率直に自己批判をしなくてはいけないはずだ。この政治を招いた責任を自覚しなくてはいけない。その作業をしてからこそ、秘密保護法に反対し抜くという宣誓は実質を持ち、新聞社の公約としてコミットされ、記者に使命感と責任感が維持されるものと読者は受け止めるだろう。法案を媒介せしめた政治思想をば、真性の公共敵・社会悪であると正しく規定し、指弾し、それ(極右・ファシズム)との対決姿勢を明示することだ。第2次大戦で、加害者であるドイツも660万人の犠牲者を出した。それほど多くの犠牲者を出すとは、ナチスが全権委任法を制定した1933年の時点では、当時のマスコミも含めて多くの者が予想していなかった。

戦争が始まるとき、自由と民主主義が市民社会から奪い取られる。安倍晋三は、昨日(12/9)の会見で、「(国民の)通常の生活が脅かされることは断じてあり得ない」と言った。が、この「通常の生活」は、戦争法制が敷かれ、治安立法の運用が強化され、やがて戦争が始まれば、どんどん意味が狭められ、自由や権利の中身が縮小されて行くのだ。北朝鮮の政府の見方では、北朝鮮の市民も「通常の生活」を送っている。安倍晋三の言う「通常の生活」とは、安倍晋三と政府の方針に従順で、鬼畜中国を憎んで戦争遂行を決意し、家族も財産も生命もすべて犠牲にして、国家に忠誠を尽くす者の「通常の生活」である。だから、どんな弾圧立法を次から次に成立させても、安倍晋三は会見でしれっと言うのだ。「(国民の)通常の生活が脅かされることはない」と。生活が脅かされるのは、憲兵や公安に監視され、連行され、尋問されたり拷問されたりするのは、安倍晋三と右翼を批判し、政府の戦争政策を批判し、国家の真実を追求し暴露しようと試みた者である。これらの人間は、「反日」や「アカ」のレッテルを貼られ、国家の敵とされ、テロリストの汚名を着せられて捕縛され、政治警察の手で厳しく処罰されるのだ。北朝鮮の国内で抵抗する者と同じように。そのことは、すでに石破茂が的確に予告してくれている。われわれは、秘密保護法に反対し、これを廃止しなくてはいけないけれど、そのときは、この法律の条文が、実際に戦争が始まったときにどう機能するかを想像しなくてはいけない。

仮に法律が施行されても、平和の時代が続いている間は、第12条のテロリスト定義が一般市民に及ぶ最悪の事態はないだろう。ブラックリストに載せられ、監視や尾行や嫌がらせはあっても、捕縛や拷問や懲役はないだろう。だが、実際に中国と戦争が始まれば、必ず見せしめでそれが発動されるのだ。



by thessalonike5 | 2013-12-10 23:29 | Trackback | Comments(1)
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Commented by ろうのう at 2013-12-10 18:33 x
来年は丸山真男生誕100周年なのでファシズムの打倒も是非成功させるべきだと思いました。
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