北朝鮮の権力構造のなかで、異変が起きた。この国の独裁体制に何が起きているのか。国際社会が注視している。

 ナンバー2とみられてきた張成沢(チャンソンテク)氏が失脚した。最高指導者金正恩(キムジョンウン)氏の義理の叔父で、後見役といわれていた実力者だ。

 北朝鮮のテレビは張氏が連行される姿を放映した。朝鮮労働党に反する行為や腐敗を働いたとされるが、詳細は不明だ。

 張氏は党が軍を指導する体制のかなめの役割を担い、経済改革の推進役でもあった。

 もし、その失脚が経済改革の見直しを意味するのであれば、国際社会が期待していた変化の兆しはしぼんでしまう。

 それは北朝鮮の国民だけでなく、日本を含む周辺地域にとって大きな懸念を生む。今回の処分の理由が何であれ、北朝鮮指導部は経済改革の流れを止めてはならない。

 金正日(キムジョンイル)総書記の死去から今月で2年となる。権力を受け継いだ正恩氏は、対外的には父譲りの核・ミサイルの瀬戸際政策をとりつつも、同時に「人民生活の向上」を強調してきた。

 今秋に訪れた人々によると、街の変化は著しい。携帯電話は200万台を超え、スマートフォンやタブレット型端末を使う人々も目立つ。平壌では、タクシーが行き交い、遊園地は家族連れやカップルらで平日でも夜遅くまでにぎわうという。

 国際社会からの経済制裁は続いているものの、企業の独立採算を認めたり、農家の自由裁量を広げたりする政策により、国内経済が活性化している。

 張氏は、そんな施策に深くかかわってきた。金正日時代にも少なくとも2回失脚したとされるが、そのたびに復権し、正恩体制では最大の後ろ盾として補佐してきた。

 今回の失脚が、張氏の処分にとどまり、党と軍の関係が崩れないのであれば、体制に大きな影響を与えないかもしれない。

 だが、正恩氏が父のような極端な軍事最優先の政治に戻そうとしているのなら、経済は再び沈み、体制も不安定化する可能性が出てこよう。

 体制維持を最も重んじる北朝鮮は、外から思想や情報が入るのを嫌い、交易の門戸を絞って孤立を深めてきた。

 明らかに乏しい国力を軍事力に注ぎ、ますます経済基盤が立ち遅れる愚かさは、金正日時代までに十分学べたはずだ。

 恐怖政治を変えない限り、国民生活の向上も、国際的な認知も得られない。経済改革の加速しか進む道はないことを北朝鮮指導部は肝に銘じるべきだ。

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