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【社説】

週のはじめに考える 欧州極右台頭を懸念する

 ユーロ危機に端を発した欧州統合の停滞、閉塞(へいそく)感の蔓延(まんえん)に乗じて、欧州の極右勢力が大同団結の動きを見せています。国際的な警鐘とすべきでしょう。

 欧州の代表的極右政党トップ二人が先月、オランダ・ハーグで会談し、来年の欧州議会選挙に向けた反欧州連合(EU)勢力の大結集を呼びかけました。

◆「反EU」という呪詛

 一人は、今や国内世論調査でオランド大統領を凌(しの)ぐ人気を得るまでになったフランス国民戦線のマリーヌ・ルペン党首。「欧州は旧ソ連と同じように崩壊する」というのが持論です。

 いま一人は、昨年の総選挙では一敗地にまみれながら急速に支持を回復しているオランダのウィルダース自由党党首。「ブリュッセル(EU本部)という怪物から欧州を解放しなければならない」と主張します。

 ともにユーロ圏離脱、移民排斥といったEU理念に反する極論を吐きながら、カリスマ性を帯びる容姿と弁舌で一部に熱狂的支持を得ています。

 欧州の極右諸党は同性婚、反イスラムなど個別政策で必ずしも主張が一致しているわけではありません。しかし、ユーロ危機後の統合停滞と、ドイツ主導の緊縮財政が加盟国に課す社会的閉塞感は、ギリシャやイタリアなど南欧諸国のみならず全欧州に蔓延し、呪詛(じゅそ)にも似た「反EU」の声は広がる一方です。

 統合欧州にあって認知度が低いままの欧州議会ですが、来年五月に行われる次期選挙は、議会権限が強化されたリスボン条約発効後初の選挙という点でも注目に値します。各政治勢力は独自に次期EU委員長候補を擁立して選挙に臨むことになり、EU市民として有権者の関心も高まるでしょう。

◆欧州議会での躍進も

 既成政党への失望を背景にした極右政党の進出は、すでに二〇〇九年の前回選挙でも見られた現象でしたが、統合を民主的に推し進めるために強化した筈(はず)の議会が、統合に反対する勢力の台頭の場となりかねないのは皮肉と言わざるを得ません。

 各国も対応を余儀なくされています。英国では、ルーマニアとブルガリアのEU加盟後七年間の時限措置で導入されていた両国移民の就労制限が来年の一月から解除される筈でしたが、措置を延長する動きが表面化しています。

 脱EUを掲げる英独立党に押され、離脱の是非を問う国民投票実施を政治公約に掲げざるを得なかったキャメロン英政権の苦しい内情を表しているともいえます。

 英独立党のファラージ党首は「我々は極右ではなく自由至上主義政党だ」とルペン氏の動きとは一線を画していますが、EU批判に関しては輪を掛けて辛辣(しんらつ)です。ファンロンパイ氏が初代EU大統領に就任した後の欧州議会では「風采の上がらない無名の大統領は欧州の代表にふさわしくない」と面罵して顰蹙(ひんしゅく)を買いました。

 三年前、そのファンロンパイ大統領が初来日した際、講演でシュペングラーの「西洋の没落」に言及し、欧州統合の将来を疑問視する風潮にくぎを刺したことが思い起こされます。経済のグローバル化に続くであろう政治のグローバル化時代にEUが果たすべき役割はまだまだ大きいとの趣旨でした。現実はどうでしょうか。

 ユーロ危機は一応の小康状態を保っています。大統領職と同時に新設されたEU外相に就任したアシュトン氏もセルビアのEU加盟準備交渉、イラン核交渉などで存在感を示してはいます。しかし、経済、政治同盟へ向けた本来の道程から見れば牛歩に映ります。

 今後の鍵を握るドイツは、二カ月に及んだメルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社民党との大連立の交渉がようやくまとまりました。ドイツの安定志向は欧州安定の大きなアンカーとしての役割を担うことになるでしょう。

 しかし、極右勢力の台頭は戦後世代の欧州指導者が内向きに転じ、将来の欧州像の議論を怠ってきた隙を突かれた面も否めません。メルケル首相とてその批判の一端は免れないでしょう。

◆第1次大戦百年の教訓

 来年は、第一次大戦開戦から百年に当たります。二つの世界大戦を通じて欧州が学んだ最大の教訓は、制御を失ったナショナリズムが生む取り返しのつかない悲劇です。欧州の統合理念は、その過ちを繰り返さないために欧州が掲げた答えだった筈です。それを等閑(とうかん)視することは、過去の歴史に屈することにも通じます。

 ナショナリズムの暴走抑止は、欧州のみならず現在の国際社会の大きな課題です。欧州指導者の政治的意思に国際社会は厳しい眼差(まなざ)しを注いでいます。

 

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