「ルビッチならどうする」。映画「アパートの鍵貸します」などのビリー・ワイルダー監督(一九〇六〜二〇〇二)はこんなメモを壁に張ってアイデアを練っていたという。それほどまでにドイツ出身で「ニノチカ」などのエルンスト・ルビッチ監督を尊敬していた。「あのメモを絶えず見つめていた。ルビッチならばどう見せる」▼あの人ならどう書くか。明治大正期のジャーナリスト宮武外骨(みやたけがいこつ)(一八六七〜一九五五)を登場させたい▼痛烈な権力批判の人。不敬罪などで入獄四回、罰金、発禁など二十九回。反骨の人といえば聞こえはいいが、相当な変人だったそうだ▼外骨が編集した「滑稽新聞」の記事を引用する。一九〇四(明治三十七)年三月に掲載。日露戦争当時の軍の情報統制を皮肉っている▼<今の○○軍○○事○○当○○局○○○者は○○○○つ○ま○ら○ぬ○○事までも秘密○○秘密○○と○言う○て○○新聞に○○○書○か○さぬ○○事に○して○いるから○○新聞屋○○は○○○聴いた○○事を○○○○載せ○○られ○○得ず○○して○○丸々○○○づくし○○の記事なども○○○多い><これは○○つまり○○○当局者の○○○(中略)度胸が○無さ○○過ぎる○○様○○だ>▼○を飛ばして読めば意味は通じる。不気味な視覚効果。外骨なら特定秘密保護法をどう書くか。百九年前に書いていた。