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最初の部分はダクネス視点となっております。
三部
18話
「とても……! とてもお綺麗ですよお嬢様……! 式が終わったら、是非お屋敷で伏せっておられる旦那様にもそのお姿を見せてあげてください!」

 新人のメイドが、私のドレス姿を見て嬉々として褒め称えた。
 その言葉に思わず苦笑を浮かべてしまう。
 この新人メイドは、当家の細かい事情も結婚への経緯も知らない。
 領主との式が終わって、父にこの姿を見せたなら、きっと父は悲しむだろう。
 我侭なのは分かっている。
 きっと、誰も喜びはしないだろう。
 これは私の自己満足だ。

「お嬢様、それではメイクを施しますので、どうぞ、鏡の前へ……」
 もう一人のメイドが、私を鏡の前に座らせた。

 ……と、ドアを挟んだ廊下の方から罵声が響いてきた。

「なぜ花嫁に会ってはいかんのだ! ええい、どけっ! もう待ちきれぬ! 待ちきれんのだ! もう後数時間もしない内にどうせララティーナはワシの物になるのだ、早いか遅いかの違いだろうが! そこをどけっ! ……ララティーナ! ララティーナ!!」

 ……ふふっ、あの男め、もう本性を隠す気も無いらしい。
 ダスティネス様ではなく、既にララティーナと呼び捨てだ。
 しかも、物扱いときたものだ。

「なりません。ここから先はダスティネス家の控え室。まだ式を挙げてはいない以上、ここから先にはダスティネス家の者しかお通しできません。どうかご容赦を」

 イライラとする領主の声に、家の者が淡々と対処している声が聞こえた。
 声からして、普段は守衛をしている男か。

「いい加減にしろ! いいか、式が終われば貴様の主はこのワシになるのだぞ。そこを良く理解した上で、ここを通すか通さないかを判断しろ!」
 有無を言わせないといった怒声を領主が上げた。
 それに、更に守衛は淡々と。

「通せません。あなたはまだ、自分の主ではありません」

 その言葉に、ドンと何かを殴る音。
 領主が壁でも殴ったのだろう。

「……顔は覚えた。式が終わり、貴様らの大事なお嬢様を散々嬲った後は、どうなるか覚悟しておけ」

 領主の捨て台詞が聞こえ、そのままドスドスと重い音が離れて行った。

 ………………。

「……ドアの外の者を呼んでくれないか、礼を言いたい」

 私の言葉に、メイドが静かに頷いた。
 やがて、メイドに男が呼ばれ。

「……お嬢様、これは、とてもお綺麗で……!」

 感嘆の声と共に、若干しわの混じったその顔を綻ばせた。
 長く家に仕えてくれている守衛の一人だ。
 融通が利かず、子供の頃こっそり屋敷の外に一人で出ようとしても、決して通して貰えなかった。

 柵をよじ登って出ようとしてもすぐに嗅ぎつける。
 いつしか私は、いかにこの守衛を出し抜くかで夢中になっていた時期があった。
 庭からボールを柵の向こうに投げ、取ってきてくれと駄々をこね、この男が取りに行った隙に外に出る。

 外に出た私をすぐさま追い掛け、あっという間に捕まえられて屋敷に戻されるのだが、それがとても面白く、毎日ボールを柵の外に投げていた。
 毎日、男が騙されてボールを拾いに行くのが楽しくて。

 今思えば、あれは母を亡くして遊び相手も居なかった私を、この男なりに遊んでくれていたのだと知る。
「すまないな……。アレを通しても良かったのだぞ? 別に私は今更どうって事はない。アレに言って、お前への処罰は絶対にさせないから……。……ありがとう」

 ありがとう。
 長く家を守ってくれた事に対してのお礼でもある。
 それを聞いた男は、照れた様にはにかみながら。
「ああ……。自分はお嬢様が嫁がれた後は、旦那様を守り続け……。その後は、守衛を辞めるつもりですからお気になさらず。自分の主は旦那様だけですから。……お嬢様が認めた男になら、仕えても良いんですがね?」
 その言葉に、私は苦笑を浮かべた。

 私の認めた男。
 あの、どこの国から来たのかも分からない、口の聞き方も礼儀も知らないあの男。
 あの男を、なぜか家の者達は私が認めた男だと思い込んでいる。

 分かっている。
 父の仕業だ。
 父が、私をあいつに押し付けようと画策し、色々と家の者に吹き込んだのだ。
 加えて先日のあの男の夜這い。
 あいつのロクでもない声真似の所為で、私とあいつが部屋でとんでもない事をしていたのではと勘ぐる者まで出る始末。

 最後に窓から落ちて、転げ回るあの姿は何度思い返しても笑ってしまう。

 今もつい思い出して、思わず口元が綻んでしまう。
 それを見て、男が満足そうに笑みを浮かべた。
「お嬢様は、たまに見せるその笑顔が本当にお美しい。最後にそのお顔を見れて、自分は幸せ者です」
 言って、男はそのままクルリと背を向け。

「……そ、その。差し出がましい様ですが、それだけお美しく清楚なのですから……。あまり、激しい一人遊びはなさらぬようご自愛下さい……」
「!?」
 男は、固まる私に恥かしそうにそう言って、そのままドアの向こうに行ってしまった。
 二人のメイドが、そんな私からそっと目を逸らす。

 ……あいつを……っ!
 ロクでもない噂の元凶になった、声真似をやらかしたあの男をとっちめてやりたい……っ!
 身を震わせて、恥かしさの余り涙ぐんでいると。

「お嬢様、どうかお顔をこちらへ。お化粧を施しますので……」

 メイドの一人が、改めて私を鏡の前へと促した。
 鏡の前に座ると、そこには白いドレスを纏った自分の姿。
 貴族の娘に生まれた時から、何時かはと覚悟はしていたが……。
 まさか、こんなに早く来るとは思わなかった。

 のらりくらりと見合い話から身をかわして来たが、何時までも我侭を言っていた報いを受けたのかも知れない。
 だが、後悔は無い。
 そう、全く後悔は無かった。

 今まで自由でいたからこそ、あの人達に会えたから。

 ああ……、楽しかったなあ……。

 クリスは怒るだろうか?
 きっと怒るだろうな……。
 もし再び会う事があったら、きっと物凄い勢いで説教されるだろう。
 領主に、決闘だと言って突っ掛かっていくかもしれない。

 めぐみんは、血迷って何をやらかすか分からないから、少し不安だ。
 でも、彼女は凄く頭が良い。
 自重して、自分の身を大事にしてくれる事を祈ろう……。

 そういえばアクアと、卵が孵化したら小屋を作るという約束をしていた。
 約束を破る事になってしまうな……。
 でも私は、あれは絶対に鶏の卵だと思う。
 卵が孵化したなら、きっとあの男に散々からかわれるのだろう。
 うん、その場に居なくてもその光景が目に浮かぶ。

 そう、あの男。

 口が悪く、礼儀を知らず、知っていて当たり前の色々な常識を知らず。
 臆病で保守的で、それでいて突然無茶をやらかす時もある。
 気分次第で善行をする時もあれば、躊躇無く犯罪スレスレの事をやらかす事も。
 最弱職で、ステータスも幸運以外は全て普通でありながら、なぜか色々な冒険者達、果てはリッチーにまで頼りにされていて。

 そして、雑多なスキルと持ち前の幸運、それと機転だけを武器に、魔王の幹部に賞金首、そして様々なモンスター達と渡り合う変な男。

 私が貴族である事を明かした時も、貴族である事実よりも、私の名前の方に興味を示していた変な男。

 私が攻撃も当たらない使えないクルセイダーである事が分かっていながら、何だかんだと面倒を見続ける変な男。

 そして……。
 その変な男と危うく一線を越えてしまいそうになった私も、きっと相当に変な女な事だろう。

 これはあの変な男への恩返し。
 愛すべき仲間達と、この街の冒険者達への恩返しだ。

 彼らはあれだけ頑張ったのだ。
 彼らは報われるべきであり、そして本来、彼らの労をねぎらうのが領主の仕事だ。

 機動要塞デストロイヤー。
 あれの前に立ち塞がった私が生きていられるのも、それは全て彼等のおかげだ。
 本来はこの街を守るべきは貴族の仕事。
 領主の仕事。

 私達の代わりに大切なこの街を守ってくれた冒険者達に対し、あれだけの働きをした者達への賞金が減らされる事などあってはならない。
 今回の事は、誰も悪くない。

 いや、領主としての責務を果たさない、今から私の夫になるアレは悪だな。

 しかし、元気だった父が突然あんなに弱る事になるのは予想外だったが。
 だが、弱り果てた父の代わりに、今度は私が領主の下で監視と不正の証拠集めをすればいいだけだ。
 辛い事は無い。
 今度は私が恩返しをする番だ。
 これ以上は、あの領主に好きにはさせない。
 この身に色ボケている間に、見ているがいい。
 これだけの理不尽な行為や無茶を続けているにも関わらず、なぜ証拠が出ないのか。
 その秘密を探ってやる。

 例えそれが、何年掛かっても、きっと耐えられる。
 うん、耐えられるハズだ、あの連中との楽しかった思い出があれば。


 ああ……楽しかったな、本当に。
 楽しかった……。
 うん……本当に、楽しかった……。

 本来自由など許されない貴族の娘が、ここまで自由に生きられたのだ。
 感謝こそすれ、これ以上は望まない。

 しかし、変な話だ。

 昔は、別に嫁に行くのも悪くないと思えていたあのロクでもない鬼畜領主。
 それが、今では何の魅力も感じられない。
 それも全てはあの変な男の所為だろうか。
 あの男の事を思い出し、思わず軽く笑ってしまう。

「あ、あの……お嬢様?」
 突然笑ってしまった私に、ずっと化粧を施していたメイドが戸惑った様に手を止めた。

「ああ、すまない、何でもない」
 苦笑し、メイドに化粧の続きを促すと。
 ふと、あの変な男に思いを巡らせていた。


 あの男は、私の借金の理由を知ったら、怒るだろうか。
 嘆くだろうか。

 いや、きっとまた、バカな事しやがって! などと説教しながら私の本当に嫌がる事を的確に見抜き、それを速やかに実行してくるだろう。

 それこそ、以前あの男の借金の一部を勝手に肩代わりした事が知れたら、きっと激怒するのだろう。

 領主との事が、いつかきっちりとけりが付いたら……。

 あの男はこんな私でも、また仲間に入れてくれるだろうか?


「お嬢様、お綺麗ですよ……! 本当に……!」

 あの領主の為に、わざわざ綺麗になってやる必要も無いのだが……。
 メイドの言葉に鏡を見る。

 薄い化粧に純白のウェディングドレス。
 その姿を見て苦笑した。
 これを見せる相手が相手だ……。

 一般人は式には参加出来ないが、式が終わった後のお披露目では、教会の前でその姿を見る事が出来る。

 あの男は見に来るだろうか。
 いいや、きっと来ないな。
 今頃ふて腐れて、屋敷に一人で居るか……。


 もしかしたら……。
 今私がこうして、あの男の事を考えている様に。
 あいつも、私の事を考えてくれているかも知れないな……。
 不機嫌そうなあの男の姿を思い浮かべ、私は小さく、ふふっと笑った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、美人店主を連れて来い! チェンジだチェンジ! 美人店主へのチェンジを希望! ウィズ! ウィズがいい!」

 俺はそんな事を言いながら、屋敷の広間のテーブルでバニルと向かい合っていた。

「あの店主に任せておくとまたロクでもない商談ばかりしてくるからな。我が夢の為、これ以上あの負債生成装置を放置しておけるか。昨日も、これはカップル冒険者に売れますよ! とか言って、このペンダントをたくさん仕入れてきたのだ」
 言ってバニルがペンダントを見せてくる。
「……? 何のペンダントだ? それ」

「これを付けている者が瀕死の重傷を負うと、その最後の命を燃やし、盛大に爆発するペンダントである。コンセプトは、最後の時には、命を賭けて大切な人を守れるように……だそうだ。ロマンチックじゃないですか? などとキャッキャと喜んでいたが、威力が強すぎて、敵どころか守るべき愛する人とやらもみんなまとめて吹っ飛ぶという、もう店主の商売センスがどうなっているのか疑いたくなる一品である。……お一つどうか?」
「……いらない。……それより、お前よく此処まで来れたな。道行く冒険者や街の警備の人に退治されないのか?」
 俺の言葉にバニルは、何をバカなと言った様にフフンと鼻で笑った。
 この野郎。

「我輩、こうみえてなかなかに人望があるのだ。リッチーだからと言い訳し、夜更かしばかりしてなかなかゴミが出せないズボラ店主に代わり、きちんとゴミを分別したり、ゴミを散らかすカラスにビーム食らわせていたら、いつの間にかご近所の奥さんに評判でな。将来は我輩の美味しいご飯製造機になる可能性のあるクソガキ共。これが目を放すとちょろちょろと街の外に出る為、付近の危険なモンスターを適当に駆除しておったら、街の守衛が街に入るのに、もう一々女装したり町人の格好したりしなくて結構ですよ、一々止めるのも面倒なんで、と言ってくれたのだ」

 無害だと判断されて、街に住み着くのを黙認されているのか。
 まあ害は無いが実力だけはあるし、下手にちょっかい掛けて反撃食らうよりは、ギルドも街も、放置する方向になったのだろう。
 人に害を与えるモンスター駆除もやってくれているのなら尚更だ。

「と、言う訳で商品をキリキリ出すべし。我輩の目利きでズバリ見抜いてくれよう。とまあ、そんな事を言っても我輩は既に、貴様が納得するだけの金をここに用意してあるのだが」
 バニルが言いながら、小さな黒い鞄をポンと軽く叩いた。
 見通す悪魔さん効率いいですね。

「と言っても、ウィズの店にそんな大金があったのか? 自慢じゃないが、俺の今持っている数々の商品の知的財産権の数々、凄まじい額になると思うぞ? ウィズの話じゃ、ジッポ一つの財産権を売っても数千万にはなるって言われてたしな。ぶっちゃけ、もう急いで金を作る必要も無くなったしな。俺のダラリとした生活の基本となる、ジッポ版権とか使える物は残しておきたい。別に、財産権買取の支払いは急がないぞ?」

 俺の疑問に、バニルはニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべた。

「金の心配など無用である。あの貧弱魔法店のコネで、この街の大商人達と既に懇意の仲。連中は我が占いに夢中である為、金の出資にも喜んで応じてくれたわ」

 そして、バニルは全て分かっていると言いたげな口ぶりで。

「助けに行きたくて行きたくて、しかし助けに行って鎧娘に助けを拒絶される事に怖気づく男よ。見通す悪魔バニルが宣言しよう。貴様は、全ての知的財産権と引き換えに、この鞄の中身を所望する」

 ……見通す悪魔さん、本当に厄介だなあ。






 バニルは、俺から受け取った数々の設計図や試作品、そして様々な財産権の所有証明書を、ロクに確認もせずに大きな鞄の中に詰めていった。
 きっとこいつにとっては、目を通す必要すらないのだろう。
 ……。
 見通す悪魔、か。

「なあバニル。あんた、色んな事が分かるんだろう?」

 俺は世間話でもするかの様に、せっせと鞄に書類を詰め込むバニルに問い掛けた。
 バニルは、こちらには目を向けず、鞄へと詰め込む作業を続けながら。

「うむ。全てとは言わんが、大概の事が見通せるな。例えば、今から貴様が聞きたがっている事も勿論分かる。貴様が気にしている鎧娘が、なぜ領主に莫大な借金をしたのか。助ける方法は無いのか。鎧娘の父親が、なぜ急に体を壊したのか。なぜあの領主は、あれだけの事をやらかしているにも関わらず、証拠の一つも出ないのか」

 俺はゴクリと喉を鳴らした。

「……なあ。あんたは、悪魔の」
「悪魔の癖に、なぜ貴様に協力的なのか。何か企んでいるんじゃないか。……等々。勿論大体の事が見通せるぞ」
 バニルは作業の手を止めて、こちらに顔を向け、改めてニヤリと笑う。
 ……ぐう、この野郎。

「勿論企んでいる。なにせ我輩悪魔だからな。だがまあ、今回の件では貴様と利害が一致した。だからこれだけ協力的なのだ。例えば、貴様が手元に置いておきたがっている、高値で売れそうな様々な権利も、この際まとめて安く売ってもらおうとな」
 なんかペース握られっぱなしだな、くそう……。

「そんな物、俺が売らないって言えばそれまでだろ。それよりも、俺が聞きたい事分かっているのなら、もったいぶらずに教えてくれよ」

「良いだろう良いだろう。では、今貴様が知りたがっている事を教えてやろう! そう、ウチの店主の今日の下着の形と色であるな! フハハハハ、なんつって…………おや? 美味な悪感情が湧いて来ないな」
「それはそれで後で聞きたいからです」

「そ、そうか……。では、本当に貴様が知りたい事を教えてやろう。あの娘がなぜ借金したのかと言うと……」

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

 突如聞こえたアクアの声。

 それと共に、バニルが光の柱に包まれた。
 あっという間にバニルの体が消滅し、カランと音がして、バニルの仮面だけが転がった。
 ちょっ、おいっ!

「バニル! おいしっかりしろっ! お前大悪魔なんだろ! 大丈夫だ、お前ならあんなトイレの女神の攻撃じゃ終わらないだろ! おいしっかりしろっ!」
「ああっ!? ちょっと目を離した隙に、カズマが悪魔に洗脳された!? ねえなんで悪魔の味方してるの!? それに私、水の女神よ!」

 二階から広間へと続く階段の途中から、出会い頭にバニルに魔法を撃ち込んだアクアが言ってきた。
 本当に、毎度毎度余計なタイミングでいらん事ばかりする奴め!

 アクアの後ろには、何だか執事みたいな身なりをした爺さんの姿。
 あれが、アクアに仕事を頼みに来たと言う客だろう。
 だがいきなりのこの状況に、爺さんは目を白黒させていた。

 俺の目の前で、バニルの仮面の下からニョキニョキと体が生える。
 ……毎回ちゃんと服まで付いてくるのは便利だなぁ……。
 いや、服も体の一部だからこそ服ごとアクアの魔法で消滅させられるのか。

「フハハハハ、不意打ちとはやってくれるなチンピラ女神、我々悪魔と変わらんではないか! 見ろ、我輩の格好良い仮面にひびが入ったわ!」
「ヤダー、悪魔なんて害虫とかと一緒じゃないですかー! あなた、害虫駆除する時に一々、これから駆除させて頂きます、申し訳ありませんなんて断わるの? バカなの? プークスクス! あんた、なんで人ん家に上がりこんでんの? どうやって私の結界越えてきたの? ゴキブリとかみたく、結界の隙間からコソコソ侵入してきたの?」

 二人が睨み合いながらドンドン険悪な雰囲気になっていく中、俺は慌てて二人を止めた。

「おいこらお前ら、そんな事は別の日にやれ! アクア、今はバニルの話を聞きたいんだよ、邪魔すんな!」
 俺の言葉に、アクアが渋々引き下がる。

 アクアの後ろに居た執事風の爺さんが、剣呑な雰囲気を察したのだろう。
「そ、その……。なにやらお取り込み中の様で……。で、ではアークプリースト様、始まりは昼からですので、是非とも遅れる事のない様に……。では、私はこれで失礼致します……!」
 そう言って、アクアとバニルの対峙する間を、身を低くして通り抜け、そそくさと出て行ってしまった。
 一体何の用事の客だったのか気になるが、それよりも今はバニルの話だ。

 バニルが、アクアに向けて勝ち誇った様に口元を歪め。
「フハハハ、今回の件で役に立たぬポンコツ女神よ、これからそこで、我輩の有り難味と有用性を見ながらそこで悔しさの余りハンカチでも食いちぎっているがいい!」

 案外この悪魔も大人気ない所があるのか、アクアに向かってベロベロと舌を出して挑発していた。
 途端にアクアの眉が釣り上がっていくが、もう話が進まないので勘弁して欲しい。
 アクアが大事そうに卵を抱いて、ソファーに座った俺とバニルの間に腰を降ろした。
 一緒に話を聞くつもりなのだろうが、三角座りの体勢で、超至近距離でジッとバニルにガンを飛ばしている。

「…………凄くやりにくいのだが。……まあいい。男よ、貴様が知りたいのは、あの鎧娘の借金の経緯だったな? まあ端的に言えば、貴様ら冒険者達が機動要塞デストロイヤーを倒した事に起因する」
 世間話でもする様な感じで、バニルがそんな事を……。

 ……………………。

 今、なんて?
「……おい、詳しく」
 俺の言葉にバニルが笑った。
 そして勿体付けるでもなく、そのまま淡々と。
「詳しくと言っても。今までの街ならば、デストロイヤーにより街は蹂躙され、領主は土地を失うものだ。街の住人は焼け出され、領地を失った領主も貴族も責任を取らされ、街の住人、貴族諸共みんな仲良く路頭に迷う。むしろ根無し草な貴様ら冒険者達には、その方が良い結末だったのかも知れん。だが……。この街は、そうはならなかった訳だ」

 ……良いことじゃないか。
 俺のそんな感情までも見通しているのか、バニルが再びニヤリと笑う。
「街自体は助かった。街中で商業に携わっている者達は、結局なんの被害も受けてはおらぬ。殆どの住人達もそうだろう。……そしてデストロイヤーは街の目の前で倒された。すると当然、街へと続く穀倉地帯、途中にある治水施設その他、実に様々な物が破壊され、そして蹂躙された訳だ」

 …………。
 それはまあ分かるが。
 でも、被害を最小限に抑えられたって事じゃ無いのか。

「フハハハ、人間というものは。人間というものは実に面白い。街が無事だった事で喜び、それで良しとする訳ではなく。穀物地帯を荒らされ、農業に携わっていた者達は、仕事を、財産を失ったも同然だ。荒らされた穀倉地帯は簡単には復興しないだろう。そこで、その者達は領主に助けを求めた」

 ……もう、嫌な予感しかしねえ。
 俺が顔をしかめると、
「そう、貴様の予想通りである! あの領主は、助けを求める人々にこう言った。命が助かっただけでも儲けものだろう。贅沢を言うな。文句を言うなら、それは穀倉地帯を守り切れなかった冒険者達に言うといい。ほら、冒険者達は今、莫大な報酬を得て潤っている。彼等の報酬を補償に充てて貰えばいいだろう? ……と」

 ……うわぁ。
 悪代官も真っ青だ。

「うむ、今回の件では、ケチで、領主としての責務を放棄した領主以外、誰も悪くは無いのかも知れん。冒険者達は充分以上に健闘した。それはもう間違いない。そして被害に遭った住人達も、そのままでは路頭に迷ってしまう訳だ。その者達の気持ちも分からんでもない。天災みたいなものだから諦めろと言われても無理だろう」

 ……俺の考えている事を見通すのは止めてほしい。

 バニルは、実に悪魔らしい笑みを口元に浮かべ。

 ……そして、聞き捨てならない事をサラッと言った。

「領主に補償を断わられた者達は泣きついた。そう、貴様も知ってのダスティネス家にな。そして彼らはこう言った訳だ。……一介の冒険者が壊した廃城の弁償金。その大半を負担した、慈悲に溢れるダスティネス様。どうか、我等にもお情けを……とな」

 …………。

「今、なんつった? 廃城が何だって?」

 俺の言葉に、バニルが悪魔らしく、実に楽しそうに。

「廃城とは言え、城の値段がたかだか三億程度で済む筈なかろう。貴様はギルドの者に城の賠償を請求される際、言われなかったか? 全額を負担しろとは言わないので、と。ダスティネス家は、屋敷を除くその保有資産の大半を、城の弁償金として肩代わりした。その時に資産の大半を失っていたダスティネス家の鎧娘は、それでも住人達を助けようと、責務を放棄した領主に急いで金を借りた訳だ。こういう条件付きでな。返済できなかった場合には、担保としてその身体で」

 俺がテーブルを殴りつけた音で、バニルの言葉が遮られた。

 それにビクッといているアクアに、俺はその手をスッと出す。
「……ねえカズマ、怒りに任せてテーブル殴ったら痛かったのね? 痛かったのね?」
 治療してくれるアクアに答えず、俺は静かにバニルに尋ねた。

「……その借金の額は幾らなんだ?」

 俺の言葉にバニルがスッと、用意していた小さな鞄を突き出した。
「調度この鞄の中身が、借金の額と同額となっております。……では、商談に入ろうか!」

 こいつはやっぱり悪魔だった!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 この街で、最も神聖な場所。
 アクシズ狂……
 ではなく。もちろんエリス教の教会の中である。

 参列するのはその殆どが街の有力者。
 もしくは、近場からやってきた貴族達。
 その誰もが、この結婚式は茶番だと分かっているからなのだろう。
 席に座る皆がぺちゃくちゃと好きに喋り、もうすぐ式が始まると言うのに緊張感の欠片もなかった。
 教会の入口の前には領主の部下による警備がなされ、それと共に、野次馬達も花嫁だけは一目見ようとごった返していた。

 その野次馬の大半は冒険者。
 ダクネスは、基本的に貴族である事は隠して冒険者をやってきた。
 それが今回領主の嫁として大々的に発表されてしまった為、普段は鎧姿のダクネスの、その花嫁姿を一目見ようと集まったのだろう。
 本当に好奇心旺盛な連中だ。
 好奇心が強いから冒険者なんてやっているのかも知れないが。



 ずっとざわめいていた教会の中が、やがてシンと静まり返った。

 教会の入口の、それぞれ左右に備え付けられた、新郎、新婦の控え室。
 その控え室から、ダスティネス家の老執事に手を引かれた花嫁が、純白のドレス姿で現れたからだ。

 親父さんが体調不良の為、屋敷の執事がその代わりを務めているのだろう。
 顔の前をヴェールで覆って、俯きながら歩くダクネスは、ヴェール越しでも人目を惹きつけて離さない美しさを放っていた。

 続いて新朗側の控え室からも白いタキシードを着た領主が現れる。
 その膨れ上がった巨体で白いタキシードをパンパンにした領主は、その視線をダクネスから離す事が出来ないでいた。
 呆けた様に口を半開きにしてダクネスを見続け、そのままフラフラとダクネスの元へ……。
 行こうとして、ダクネスを連れていた執事の人に、ゴホンと咳払いをされて我に返る。
 そんなみっともない領主の姿も目に入らず、参列者達はひたすらにダクネスの姿に見とれていた。

 そこには一人の例外もない。

 ……もちろん俺も。

 そう、この教会の中、ピシッとした儀式用の司祭服を着て堂々と立っている俺も。

 領主は、ヴァージンロードをダクネスと共に歩きながら、その目は前を見ず、ひたすらダクネスにのみ向けられていた。
 そして、ヴァージンロードを歩くダクネスもまた、下を見たまま歩いている。

 俺はそんなダクネスを見ながら、激しい憤りを感じていた。

 何が、『あの様子では飲まず食わずで数日はこの体を貪られてしまいそうだ。壊されてしまいそうでドキドキするな……!』だ。

 何時ものド変態振りはどうした。
 モンスター相手に頬を赤らめてるあの顔はどうした。
 魔王の幹部をもドン引きさせた、あの発言の数々はどうした。

 寂しそうな顔で俯きながら歩くダクネスは。

 やがて結婚の誓いをするべく、参列者達の注目を集めたまま、祭壇の前にやって来た。


 俺の目の前に。


 そう、祭壇の傍にいる俺の前に。
 この世界では、結婚の誓いは神父で無くても良いらしい。
 そう、それは女性の聖職者、プリーステスでも良いらしい。

 例えば、この駆け出しの街にはたった一人しかいない、希少な存在であるアークプリーストとかでも良いらしい。

 その、徳の高いアークプリースト様に助手として付いて来た俺は。
 領主様の結婚なのでと、何も知らずに、張り切って勝手に事を進めた執事に誓いの祝福の仕事の依頼をされた、一応この街で一番高い位に就いている聖職者、アークプリーストのアクア様の隣にそっと控えていた。

 誓いの祭壇の前に着いてもダクネスを見たまま前を向こうとしない領主と、俯いたままのダクネス。


 その二人に。
 厳かな音楽が流れる中、あんまり厳かではない声が掛けられた。

「汝ー、ダクネスは。この熊と豚を足したみたいなおっさんと結婚し、神である私の定めじゃないものに従って、流されるままに勝手に夫婦になろうとしています。あなたは、その健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、おっさんを愛し、おっさんを敬い、おっさんを慰め、おっさんを助け、その命の限り、堅く節操を守ることを約束しますか? 出来ないでしょう? 私はこのままダクネスと帰って、カズマの料理つつきながら、キュッと一杯やりたいなぁ……」

 その場違いな発言に。
 教会中の皆の視線がギョッとした様に、一気にアクアに集められた。

 流石の領主もアクアにバッと目をやると。
「……!? なっ? お、お前はワシの屋敷に来て散々迷惑掛けていったあの女! 何を! 一体ここで、何をしている!?」
 領主の罵声が響く中、ダクネスがアクアと俺を見ながら、驚きの表情で口をパクパクさせていた。

 俺はそのまま、驚いているダクネスの腕をガッと掴む。

 お父さんお母さん。
 普通の子に、真っ直ぐ育てよと言っていた、あなた方の可愛い息子は。
 今や、平凡な人生など何処へやら、この地で一番偉い人を相手に喧嘩を売り、貴族のお嬢様を拉致ろうとしています。

「なっ……! カズマ! カ、カズマっ、放せ! 手を放せ! お前は一体何をしている! もうコレは洒落にはならんぞ! 貴族同士の結婚式に乱入して、処刑以外の刑罰では済まされない! バカな事を! 本当に、バカな」

 激昂し、俺に食って掛かるダクネスの言葉を遮り。

「うっせーこの大バカ女が!! お前の方こそ勝手にバカな事ばかりしやがって、勝手に俺の借金肩代わりしてんじゃねーぞ! お前俺の女房気取りか! そんなに俺の事が好きならそう言えっていってんだろ!」
「誰がそんな事言った! お前は本当に何を言っている、この大バカがっ!」

 場を考えずに激しく言い合う俺とダクネスに、それまでポカンと見ていた領主が我に返った。

「こっ、こいつを! この男と、この偽プリーストを捕えろ! この……っ、貧乏人の分際で、貴族の結婚を何だと思っている、場違いな一般庶民が! 早く、早くこいつを捕えておけっ!」

 領主が叫んで、俺が掴んでいるダクネスを、取り返そうとした。
 ダクネスに抱き付くようにして掴みかかってくる領主から、ダクネスをグイと引っ張り背中に隠す。
 それを見て、領主が一気に顔をドス黒くさせ……!

「このっ! 関係ない貴様はすっこんでろ! お前の大好きなララティーナはな! このワシに、貴様の様な貧乏人が一生掛かっても払いきれない、膨大な負債があるのだ! そんなにこの女が欲しいならな! まずはこの女を買う、その代金を用意してこい貧乏人めがっ!」

 その領主の、売り言葉に買い言葉。
 祭壇の脇に置いておいた鞄を掲げ、
「しっかり聞いたぞその言葉、約束は守れよおっさん! おら、ダクネスが借りた金、総額二十億エリス! 一枚百万のエリス魔銀貨で二千枚だ! これでダクネスは貰っていくぞ! 後、別に大好きなんて事はねーよ! な、仲間だからっ! 大事な仲間ってだけだからっ!」
 一応領主の言葉を訂正しながら、その中身を領主の足元にぶちまけた!
 そしてすかさずダクネスのその手を掴む。

 なぜわざわざ金をぶちまけるかというと……。
「ああっ!? なっ、二十億!? ああっ、待てっ、ララティーナを! ワシのララティーナを……、ああっ金がっ! 拾ってくれ! おい、拾ってくれっ!」

 ぶちまけた金を慌てて拾い集め始める領主。
 それを見て、周りの参列者達も慌てて金を拾い始めた。
 ちゃっかりくすねる奴もいるかも知れないが、そんな事は俺は知らない。
 領主の部下と思われる連中が俺に向かって駆けて来る。

 ダクネスが、俺の手を振り払って食って掛かった。
「おっ、お前は! 誰がこんな事をしてくれと言った! それに、この金は! この大金は一体どうしたんだっ!」

 こんな時まで頑固なダクネスに、イライラしながら。

「売った。ジッポの知的財産権から、ここの所ずっとため込んでいた色んな知識から試作品から何から全部。俺の持ってた自分の国の知識は、一つ残らず売り払った。これでもう、地道に真っ当に稼いでいくしか無くなった。……もう売っちまったもんは仕方が無い。今更買い戻せないからな。分かったら、とっとと逃げるぞ!」

 そんな俺に、尚もダクネスは、困った様な、それでいてちょっと嬉しい様な、まるで泣き笑いのような不思議な表情を浮かべ、それでもまだ何かを言い掛けた。

「そんな事までして、お前は……! お前と言う奴は……っ! 私は、私は……っ!!」

 走り来る領主の部下を目の前に、いよいよ我慢の限界に来た俺はダクネスの肩を掴んで思い切り揺さぶった!
「ガタガタガタガタ、いい加減にしろよコラッ! もうこれ以上、口答えするんじゃねーよ! 領主のおっさんから、もうお前を買ったんだよ! これから散々酷使してやる! 俺がはたいた金の分! 身体で払ってもらうから覚悟しとけよ、このド変態クルセイダーがっ!! 分かったか! 分かったら、返事をしろぉ!!」
「ふぁ、ふぁいっ!」
 揺さぶられ、本気で怒鳴りつけられ、衆目の中ド変態呼ばわりされたダクネスが、目に涙を浮かべた恍惚としたヤバめの表情で、変な返事を返してきた。

 そのままダクネスの手を取って、教会の真正面へと向かおうとする。
 参列者達は街の有力者や貴族達。
 荒事は苦手なのか、厄介事には巻き込まれたくは無いのか、領主の傍で金を拾っている人達以外は、皆、俺達を取り押さえようとはせずに事の成り行きを興味深そうに眺めていた。

「はぁ……はぁ……か、買われてしまった……。貴族の私が、この男に! ……はぁ……はぁ……、か、身体で払えだと……!」
 俺の後ろを走るダクネスが、見たことも無いぐらいに頬を火照らせ、何だかヤバイ感じで息を荒げている。
「おっ、おいお前、よだれ! 何かよだれが出てるから! 大丈夫か色々と!」

 ダクネスに注意する俺に、アクアが何故か顔を輝かせながら、
「さすが鬼畜のカズマさん! 借金肩代わりしてもらってた借りを返しただけなのに、なぜかダクネスを買い取ったみたいな状態に! ねえカズマ、ダクネスに身体で払って貰うって、多分めぐみんが聞いたら爆裂魔法叩き込まれるわよ? 完全に死体が無くなっちゃったら、幾ら私でも生き返らせられないから気をつけてね?」
「ち、違っ!? 人聞きの悪い事言うなよ、あれは言葉のあやって言うか! クルセイダーとして、冒険者として身体で払って貰うって意味で!」

 俺が言い募っている間にも、ヴァージンロードの上をダクネスを連れて逃げる俺達の眼前に、領主の部下が立ち塞がる。
 それを見て、もう何かが吹っ切れた様なダクネスが、長いドレスの裾を動き易い様に遠慮なく引き裂いた。
 そして被っていたヴェールも脱ぎ捨て、長い金髪をたなびかせて領主の部下達に突っ込んでいく。

「ちょっ、俺達はお前を取り返しに来たのに、そのお前が真っ先に敵に突っ込んでってどうすんだ! アクア、支援下さい! 支援下さいっ!」
「良いわよ! 芸達者になる魔法はいる?」
「是非下さい! あれはとても良いものだ!」

 俺達の後ろには、未だに必死で金を拾う領主と、そして同じく金を拾う、参列者の一部の人達。
 俺達の前からは、十を越える領主の部下。
 それぞれ武器らしい物は持っていないが、アクアの支援があっても突破出来るかどうか。

 ここは、例の如く初級魔法による目潰しコンボ、もしくは氷結コンボを……!
 俺がそう思って魔法を唱えようとしたその時。


「『ライト・オブ・セイバー』ッッッ!」


 聞き覚えのある声が教会の外、正面のドアの後ろから響き。
 鍵の掛かった教会のドア、その周りのレンガの壁を、丸くくり抜く様な形で、白い光がシュッと一瞬だけ通り過ぎた。

 一拍置いて、教会のドアが、くり抜かれた壁ごとゴトンと倒れ。

 外の眩しい陽の光を背に、そこには二人の人影が立っていた。
 教会の外にいた多くの野次馬冒険者達は、二人を遠巻きに、そして今から何が起こるのかと楽しそうに見守っている。
 二人を警戒する様に、そして怯えた様に距離を取っている、領主の部下と思わしき警備の人達。

「めぐみん、やったわよ! 私、やったわ! 友達だからね! とっ、友達の頼みなら、こんな犯罪紛いの事だって大丈夫だから、私!」
「はいはい、ご苦労様ですゆんゆん。流石私の友達ですね。では、もう帰ってもらっても良いですよ」
「ええっ!?」
 そこに居たのは、二人の紅魔族の魔法使い。

 めぐみんが一歩前に出るだけで、周りの警備の人達が顔を引きつらせて後ずさる。
 その後ずさる警備の人達の視線の先には、何時でも魔法が放てる様に先端が光り輝いているめぐみんの杖。

 ……なんてこった。

 この街の中心でなんの躊躇も無く、爆裂魔法を完成させてしまった様だ。

 凄まじい魔力と魔法が込められたその杖を握り締めためぐみんは、見た事も無い真剣な表情で眼に強い決意と光を込め、マントをバサッとひるがえし。
 そして、その場の全ての人々に、静かな声で言い放った。


「悪い魔法使いが来ましたよ。悪い魔法使いの本能に従い、花嫁を攫いに来ました」


 薄暗い教会の入口。
 そこに輝く陽の光を背にして立つめぐみんは、ダクネスを先に奪還に来ていた俺が目立たなくなるぐらい、なんかもうヒーローみたいに格好良かった。







 …………あれえー?
前にも書きましたが、やはりちょっと強引な展開に。
借金の理由なども悩みましたが、もしかすると以前の予告通り書き直すかも。
大きくストーリーが変わる事はありませんので、読者さんに再び読み直して頂く様な負担はかけません。



次回、もしくはその次の回は、悪魔達による少し残酷描写、というか残酷な台詞が有ります。具体的には領主が酷い事に。
苦手な方はご遠慮下さい。

読まなくても、多分四部の頭からでもストーリーは繋がります。


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