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四部
15話
 温かいコーヒーをすすると、その温もりがぼろぼろにされた心に染み渡る。
 ティンダーで自前で作ったコーヒーを入れたマグカップを、両手で包み込む様にして持ちながら。
 俺は自分のマントに包まりながら、皆を見ながらしみじみと。

「……お前らって、四人ともみんな綺麗な顔してるよな」

 街道沿いの森の中、俺の言葉に皆が固まった。

「ど、どうしたのかしら。カズマが、いつも言動のおかしいカズマが、今日は特におかしいわ!」
「お、落ち着け! こいつは何かを企んでいる。上げて落とすのが大好きなカズマの事だ。喜んだ所で何か罠がある!」
 アクアとダクネスが、そんな失礼な事を言ってくる。
 めぐみんは、そんな俺の言葉すら殆ど聞こえないかの様にうつらうつらとしながら。
 そしてゆんゆんは、頬を赤くさせながらぼーっとこちらを見ていた。

 今の時刻は夜半過ぎ。
 辺りはすっかり暗くなり、今晩の野営を行なうべく準備をしていた。
 オークから無事逃げ仰せ、深く安心していた俺は、四人を見て改めて息を吐く。

「お前らって、本当、美人だよな」
「どうしたのかしら! ねえどうしたのかしらっ! カズマが変よ、どうしたのかしらっ!」
「落ち着けアクア! まずはカズマに回復魔法を掛ける事から始めるんだ!」
「……ッッッッ――――ッ!」
 バタバタと騒がしい二人と、赤くなって俯くゆんゆんを見ながら、俺はしみじみとオーク達から逃れられた喜びを噛み締めていた。

 そんな中、ちょっと大丈夫じゃなさそうな感じのめぐみんが、前のめりにガクンと崩れた。
 そのまま盛大に、焚き火の準備をしていた薪の中央へと顔を突っ込む。

「「「「ちょっ!」」」」

 ダクネスが慌ててめぐみんを起こすと、めぐみんはブツブツと。
「あ……。大丈夫です……大丈夫……」
 そんなちっとも大丈夫じゃない事を言いながら、めぐみんは、ダクネスに抱き起こされながら、自分の荷物を背にしてもたれかかった。

 いよいよヤバそうな感じだなあ……。
 今晩を乗り切って、明日になれば……。
 いやいっそ、夜間行軍を決行するか?
 ここで休んで朝一で向かうのと、無理しながらでも、夜通し少しずつでも進んで行くのとどっちが早く着くのだろう。

 と……。
「ねえ、めぐみんどうしたの? 魔法を使って魔力を空にしてから、少しだけ寝てまた起きて、魔法を使いまくればいいんじゃないの?」
 そんな事をゆんゆんが言い出した。
 この子は事情を知らないのだろうか。

「……事情があるのです。特に、私を虎視眈々と狙う刺客にはとても教えられない事情が……」
「!?」
 刺客ゆんゆんが涙目になる。

……が、彼女は知らないのだろうか、めぐみんが爆裂魔法しか使えない事を。
一撃放てばもう魔法は使えないので、連戦が出来ない事。
なので、こんな危険地帯のモンスターを呼び寄せたくはない為、極力魔法は控えている事を。
 …………アクセルの街でも有名な訳だし。

 と、そこで俺はハタと気が付いた。
 そういやこの子は、噂話を聞ける相手すら居なかったのか。

 ……いや、しかし待てよ。
「なあ、ゆんゆんは強いだろ? もしめぐみんが大きな魔法を放ってここいらのモンスターを呼び寄せても、それを返り討ちに出来るか?」

 もしそれが出来るなら、めぐみんをもう少し寝かしてやる事も……、
「ええと、大丈夫ですよ、めぐみんも居ますし……。多少の敵なら返り討ちに」
「大丈夫です、ゆんゆんの力は借りません」
「ええっ!?」
 ゆんゆんが言い終わる前にめぐみんがきっぱりと言った。

 ショックを受けたようなゆんゆんを尻目に、めぐみんが更に言葉を続ける。
「大丈夫です。私は紅魔の里でも随一の魔法の使い手。……今晩ぐらい乗り切って、そのまま紅魔の里に帰るんです。そして……、そして……、またみんなと一緒にアクセルの街で……。皆で一緒に、またのんびりと面白おかしく暮らすんです」
 そんな事を、かなり朦朧とした感じで呟いた。
 なんだろう。
 こいつやっぱり言動がおかしいなぁ……。







 なし崩し的に紅魔の里へ同行してくれる事になったゆんゆん。
 俺の勝手な予想だが、彼女はきっとここへ来るまでに、色々苦労してきたのではないのだろうか。
 そんな彼女は、今は焚き火から少し離れて、めぐみんの傍で眠っている。

 焚き火。

 そう、焚き火だ。
 明かりを灯すとモンスターを引き寄せる為我慢していたのだが、ゆんゆんの使える魔法の中に、光の屈折を捻じ曲げる魔法がある。
 要するに、姿を見えなくしたりする魔法らしい。
 現在、これを焚き火のまわりに掛けてもらい、焚き火の半径数メートル外からは、そこは暗闇にしか見えない様にされていた。
 その焚き火に一人薪を放り込み、相変わらず俺が寝ずの番をしている。

 ちなみに寝ずの番をする前にアクアから、ドレインタッチでごっそりと体力を吸い取っているのであまり眠気は感じられない。
 意味もなく激しい抵抗をされたが、どうしても抵抗するなら、鼻に指突っ込んで粘膜から直にドレインするぞと脅したら大人しくなった。
 体力が回復するだけで脳が休まる訳では無いので、あまり何日もこれをやるのはマズイ気はするが。
 それでも紅魔の里はもう近いのだ、着くまではこれで頑張れるだろう。

 体は元気な俺とは違い。
 頑張れそうになさそうなのが…………。

「……カズマ、皆はもう眠った様です……。申し訳ないのですが、何か話をしてはくれませんか? カズマしか起きていない今だから言いますが、何かに気を逸らしていないと、正直いつ倒れてもおかしくない状態だったりします」

 こいつは……。

「お前、意地張ってないで寝たらいいじゃないか。ゆんゆんだって居るんだ、何時ものお前の発作が起きても、魔法撃って、それでモンスターがやってきたって、何とか撃退出来るだろ」
 そんな俺の言葉にめぐみんは、
「いえ、こんな所で爆裂魔法を放てば大量のモンスターが寄ってきますよ。昼間、平原で放った際に無事だったのは、あそこの平原がオークの縄張りだったからです。こんな森の中で爆裂魔法を放てば、びっくりする様な量のモンスターにたかられますよ?」
 こんな危険地帯のモンスターの群れか。

 ちょっとゾッとしないが、でも……。

「それに……。ゆんゆんは、私が爆裂魔法の他にも、上級魔法ぐらい使えると思っています。つまり、私の事も戦力として数えての、先ほどの大丈夫発言でしょう。なので、後一日。今晩一晩耐えて、明日には里に着ければ何とかなります」
 ……めぐみんにそんな事を告げられて、俺は何も言えなくなってしまう。
 普段ろくでもない事はすぐ思い付くのに、こんな時に限って何もいい手が思い浮かばない。

 めぐみんが、そんな俺の心の内を見透かしたかの様に笑った。
「カズマは何時もみたいに、皆をいやらしい目でジロジロ見て、軽い感じでいればいいんです。緊張してソワソワしているなんてカズマらしくもない。そんな事よりも…………。眠らないように、何か話をしてくれませんか? そうです、出来れば…………。カズマの国の話が良いですね……」







「……で、俺は咄嗟の機転を利かせて、お隣の家の娘さんにこう言った訳だ。このお金でチョコ買って、当日家に届けてくださいってな。お釣りは全部差し上げますから、と。この作戦が上手くいき、結局俺の弟はかーちゃんからの一個のみ。俺はかーちゃんとその子からの、合わせて二個。この時に、俺と弟との長い長い戦いに終止符が打たれたんだ。こうして俺は、兄の威厳を保つ事に成功したんだ」

 俺の話をずっと聞いていためぐみんが。

「……つまり、お金でサクラを雇って勝ったんですね。カズマは昔からそんな感じだったと知って安心しました。……しかし、変わったシキタリですね。その日にチョコとやらを貰えないと、そんなに困るのですか」

 興味深そうに、今は俺の国の忌々しい日についての説明を聞いていた。
「困るなんてもんじゃない、俺は一度だけ過去に行けると言われたなら、このおかしな風習を考えた奴をシバキに行く。それぐらいに貰えない男性にとっては迷惑で困ったものなんだ。……そういや、季節は春。今頃はそうだな、お返しの日が近いのかもしれないな」
「……? お返し? 何ですかそれは?」

 めぐみんに、俺はその悪質な仕組みを説明した。
「女性にチョコを貰った場合はな、その一月後。貰った物の三倍の金額に値する品を差し出さなくてはならないと言う、悪意に満ちたシキタリもあるんだ。これを怠ると、女性達の間で社会的に抹殺される。貰えなければ後ろ指さされて笑われ、貰ったら貰ったで散財する。そんな悪魔のイベントなんだよ、バレン何とか言うその日は」
 めぐみんが、それを聞き。
 そして意外そうに首を傾げた。

「……なぜカズマはチョコを貰えなかったんですか? カズマは人間的には色々大事な物が欠如してますが、それでも。一緒に居るとカズマの良い所は色々と見えてきます。例えば凄く……。凄く……? 優しい人……では無いですね。真面目……? ないですね。……あれっ? ……あれっ? 世渡りが上手い? いえでも借金作ってましたし。……あ、あれえー?」

 あれえー? じゃねえ、おい、頑張れ。
 そこは頑張れ、色々出てくる所だろ。

「……まあ、素直では無いですが、何だかんだで仲間想いですよね。私はカズマのそんな所、嫌いじゃ無いですよ」
 仲間想いとか。
それって結局女友達に言われる、異性としては見ていない代表的な褒め言葉、あなたって良い人ねみたいな事じゃないですか。

 まあ色気なんて求めてないから、別に悔しくも何ともないけど。
 今はただ、オークに追われたせいで色々弱ってるだけだから。
 だからお前らの事が普段の三割増しに見えているだけだから。
 だから、まともな褒め言葉が無くても別にちっとも気にしてないから。

「もし私がカズマの国に行ったなら、そのなんとか言う日には私がチョコをあげますよ。弟さんにはそれを見せびらかすと良いですよ」

 こいつはこいつで、たまにそんな優しい事を言ってくれる。
 オークに襲われかけて弱っている今そんな優しくされたら、うっかり勘違いしてしまう所だ。

「お前、俺の話をちゃんと聞いてなかったろ。一応その何とかタインは、好きな人にチョコ渡す日だからな。お前みたいな、ちょっと仲が良いだけでほいほいとチョコ渡す女は、すぐ男に勘違いされてエライ目に遭うからな。お前、見てくれはいいんだから、俺の国でそんな事ばかりしてたらとんだ悪女扱いされるぞ」

 そんな俺の言葉に。

「私はカズマの事好きですよ」

 そんな事を、めぐみんはなんでもなさ気にサラリと言っ……、
「今言ったことを詳しく。もう一度言ってみろください」
 俺は大事なセリフがいい所で聞こえない、そんな厄介な耳は持っていない。
 めぐみんはマントに包まり頭だけ出した、てるてる坊主みたいな状態でおかしそうに笑うと。
「嫌いじゃないですよカズマの事は」
「おいさっきとセリフが違う、俺の記憶力はそんなに悪くないぞ」

 めぐみんがその言葉に、またおかしそうに……。……笑おうとしたその目が、驚愕に見開かれた。

 そのめぐみんの顔を見た俺はゾクリとする。
 これはアレだ。
 何度も味わったあの感じ。

 そう、死ぬ瞬間の感覚だ。

 多分、何かに背後を取られている。
 敵感知スキルには何も感じない。
 それなのに。

 俺は動けば死ぬ、叫べば死ぬ予感を感じながら。

「全員起きろおっ! 敵じゅ……う……ごぶっ……」

 敵襲、と、最後まで言い切る事無く。
 喉奥から溢れてくる鉄サビ臭い血の味を感じながら。
 それに喉を詰まらせ、振り返る。

 首後ろに違和感を感じるが、不思議と痛みは感じない。
 まるで、一撃で急所を的確に突かれたみたいな……、
「カズマーッ!」
 めぐみんの悲痛な叫びを聞きながら。
振り返った俺は、一瞬だけ、黒い影みたいなそいつを目の端に捉えながら、やがて意識を……………………


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

俺は例の場所で例の如く、呆然と突っ立った状態で、女神エリスと見詰め合っていた。
しばらく二人で見つめ合い。
やがて……。

「……どうも、また来ちゃいました」
「……また来ちゃいましたか」

 そこは、俺が何度も殺された時に来た神殿みたいな部屋の中。

 相変わらずの、長い白銀の髪と青い瞳の、人間離れした美しさをしたエリス様。
 その正真正銘の女神様は、困り顔でぽりぽりと指で頬を掻きながら。
「その……。もう、ここに来ても動じもしなくなりましたね。……ええと、お仲間は無事ですよ。あの後すぐに、ゆんゆんさんと言う方があなたの声で飛び起きて、魔法を放って追い払いましたから」
 流石出来る方の女神、エリス様。
 俺が仲間の事を聞く前に、先に安否を答えてくれた。

「……アレ、何だったんでしょうか。人型の黒い影ってぐらいしか確認出来なかったんですけど。敵感知にも反応なかったし」
 一瞬だけ捉えた黒い影。
 何だか無機質な暗殺者みたいな、そんな印象の人影が……。

「アレは魔導技術大国ノイズで作られた、ずっと昔からあの森を守り続けている魔導ゴーレムですね。森の奥にはノイズ国の廃棄された生体改造施設があったのです。施設が廃棄された今でも、ずっとそこを守り続けているのですよ」

 エリス様が俺を殺した相手の説明をしてくれる。
 ……魔導技術大国ノイズ。
 なんだっけ、どこかで聞いた事があるような。
 ああ、思い出した!
「昔、機動要塞デストロイヤーを作って滅んだ迷惑な国ですよね、確か」
 俺の言葉に、エリス様が。
「そうです。機動要塞デストロイヤーや、戦争用改造魔導兵、紅魔族を作った、とても罰当たりで迷惑な国です」
 そんな事を、サラリと言っ……、た……?

 …………えっ。

「すいません、今なんて?」
 俺は思わず聞き返す。
 ちょっと聞き捨てならないとんでもない事が聞こえてしまった。
 エリス様は、ちょっと困り顔を浮かべ、
「ええと……。機動要塞デストロイヤーや、戦争用改造魔導兵、紅魔族を作った……」

 えっ。
 ……ちょっと意味が分からない。
「戦争用改造魔導……って、なんでしょう? ええっと、紅魔族が作られただとか。ちょっと意味が分からないんですが……」

 俺の言葉にエリス様は。
「言った通りの意味です。紅魔族は、元々戦争用に作られた改造魔導兵。生まれつき極端に魔力が高いのも、その様に改造されたからです。僅かな睡眠であっという間に魔力が回復するのもその為です。戦争時には、彼らは戦闘をおこなった後数時間だけ眠り、また出撃して行きます。そんな彼らは、異常な魔力回復力の代償として、魔力の自然排出が上手く出来ない体になりました。大人になれば多少は融通が効くみたいですが、それでも特殊なローブを着ていないと、大人でも油断すると、魔力が体に溜まってオーバーヒートを起こし、ボンッとなります」
 そんな事を。
 エリス様は、事もなげにそんな事をサラッと言った。

「それは、紅魔族の連中は知ってるんですか? 自分達が戦争用の兵器として、改造されて生み出された存在だと……」

 戦争の為に肉体改造された紅魔族。
 いきなりの重い話に戸惑ってしまう。
 そんな悲しい存在である事をめぐみんが知ったなら……。

 深刻な表情を浮かべながらの俺の質問に、エリス様がなんでもなさ気に。
「もちろん知ってますよ? なにせ、紅魔族への肉体改造は志願制でしたから。彼らは、自らこぞって肉体改造を希望し、その応募者数越えのあまりの人気に抽選となり……。その後彼らは、戦争用改造魔導兵って響きが悪いなと言い出し、自らを紅魔部隊と名乗り、色々な勝手な決まりを作っていきました」

 ……あれっ?

「曰く、名乗る時は紅魔部隊員全員で決めた、キメポーズを取って名乗りを上げる。隊員は元の名前を捨て、インパクトある名前に改名。生まれた時に、体に機体ナンバーとかあると改造兵器っぽくて格好良くね? などなど……。戦争には関係ない事までドンドン勝手に決めていき……。そもそもあの赤い瞳自体、その方が格好良いから、肉体をいじるついでに、出来るのなら瞳の色を赤くしてくれと……」

 …………あれっ。

「その後、魔導技術大国ノイズがデストロイヤーの暴走によって滅び、デストロイヤーの暴走に世界中が迷惑を被り出すと、何事も無かったかの様にノイズ国とは関係ない体を装い、我々は伝統ある魔法使い一族、紅魔族であると名乗り出して……」

 おい。

 俺の表情を見たエリス様が、困った表情を浮かべて言葉を止めた。
 ……めぐみんの悲しい過去を知ってしまったと、ちょっと悩んだ俺の気持ちを返して欲しい。
 色々とガッカリしている俺を見て、エリス様が慌てて言った。
「そ、その……。紅魔族の今の若い人達は、自分達の祖先が好き好んで肉体改造をして喜んでいた変わった人達だとは知りませんから……。お仲間のめぐみんさんは、ご自分の体に生まれた時から刻まれている、機体ナンバー等を気に病んでいたりするかも知れません。ですから、その時は……」
 俺を慰める様に、眉根を寄せて心配そうな顔でそんな事を……。

 ………………。

 エリス様はやっぱり優しいなぁ……。
 俺の周りにこんな人は居ただろうか。
 ウィズ? ゆんゆん?
 いや、あの二人も優しいが、エリス様は心の底からの抱擁感みたいな、安心感みたいなものがある。

「……エリス様、たまには地上に遊びに降りてきたりしないんですか? 以前、コッソリ色んな所に遊びに行ってるとか言ってましたが。死ななきゃ逢えないとかちょっと寂しいですね……」

 そんな俺の言葉に、エリス様はクスッと笑い。

「もう地上で何度も会ってますけどね? そろそろ気づいてくれてもいいと思いますよ? ちょっとだけ、寂しいです」

 そんな事を、イタズラっぽく言っ…………。




 えっ。




「……今、なんて言いました? 会った事がある? えっ、それはアクセルの街で、ですか? えっ? えっ?」
 ショッキングな紅魔族の生い立ちを聞かされて、ちょっと落ち着いた頃に更にそんな事を言われても、ちょっと脳が追いつかない。
 何度も会ってる?
 何時どこで?
 ええっと、それらしい人は居たか?

 混乱している俺にくすくすとイタズラっぽく笑いながら。
「ではヒントです。地上では、私は違う外見をとっています。それにもっと活発で、言葉遣いだって違います」

 違う外見。
 もっと活発で、言葉遣いだって違……!

「そして、この場では私は女神という職業ですが、先輩の様に、地上でもアークプリーストをやっているとは限」
「ああっ、分かった! キースに、『エリス教のプリーストは、信仰心の高さと胸の大きさは反比例するって本当なんですね。うひゃーっひゃっひゃっ!』 ってからかわれて、キースの鼻を拳でへし折ったマリスさん!」
 更にヒントを言い掛けたエリス様を遮り、俺は確信を持って叫んでいた。
 エリス様は笑顔を絶やさないままで。
「……違います」

 あれっ。
 ああっ、あの人か!

「『女神エリスはパットだとかって噂を聞いたんですが、そのエリス教徒が巨乳だなんて、女神に破門とかされないんですか? そもそもそれって本物なんですか? パットじゃないんですかお二人さん? 違うと言うなら証明して見ろ!』と、ギルド内にて酔ったダストに絡まれ、ダクネスと一緒にそんなダストをボッコボコにしていたセリスさん!」
「違います」
 全く笑みを絶やさないエリス様は、何だか少し怒っている気がする。
 と、そんな時だった。

《カズマー! カズマー! もう蘇生は済んだからはやくきてー! めぐみんが泣きじゃくっていて、ゆんゆんが怒っていて、何だか凄い事になってるの! はやくきてー、はやくきてー!》

 相変わらず空気を読まないアクアさん。
 めぐみんが泣きじゃくっているだとか、ゆんゆんが怒ってるだとかが気になるが、今はそれよりももっと気になる事がある。
「エリス様、ギブ! ギブアップです、すいません、答えを教えてください、お願いします!」
 結局誰なのか思いつかなかった俺に、エリス様は少しだけ。
 どうしようかと悩むような様子を見せて……。
「……内緒です。……あと、先輩の言葉を鵜呑みにしないでくださいね? い、一応今の状態で、パッドは入れていませんから!」

 エリス様が、ちょっとだけ頬を赤くし、言いながら片手の指をぱちんと鳴らした。
 そして目の前に現れたのはおなじみの白い門。
 それを見て、俺は慌てる。
 まだエリス様の正体を教えてもらってない!

 慌てる俺を他所に、その白い門が開き、中から眩しい光を輝かせ……!
「ちょ、エリス様、すいません! 怒ったんですか? 拗ねてるんですか? いやだって、本当に胸の大きさを気にしてるなんて思ってませんでし」
「それでは、佐藤和真さん! 今度は、あなたが天寿を全うした時か、私の正体が分かったあなたに会えます様にっ! では、また! さあ、行ってらっしゃいっ!」

 俺はエリス様に、問答無用で門の中へと、背中をどんと突き飛ばされた!
ハッキリ言って二部読み返せば誰かはバレバレなので、これって伏線?ぐらいの質問なら答えます。
が、一応感想での、エリスは○○ですか?等のストレートな質問にはすっとぼけさせて貰います。

作者を泣かせる様な質問はちょっと喜びますが極力お止めください。


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