「おおカズマ。死んでしまうとは情けない!」
そこは、お馴染みの白い部屋。
ふと目を開けた俺は、ノリノリでそんな事を言うエリス様と突っ立ったまま見つめ合っていた。
この人も意外とお茶目なのかも知れない。
と言うか、日本の事も色々と知っているのか。
「……ノリノリですねエリス様」
「すいません。有名なセリフなので、一度言ってみたかったんです。ここって暇なんですよ。もちろん、私が暇なのはとても良い事なんですけどね?」
茶目っ気たっぷりにエリス様が、そんな事を言いながら目を細めた。
「……あ、あいつどうなりました? 俺にデスを掛けた後」
「激昂したダクネス……さん、に。そのまま思い切り殴られて、殴ったダクネスさんと一緒に気を失ってますよ。先輩はカズマさんの蘇生を。めぐみんさんは、魔王の幹部を念入りに簀巻きにした後、気を失ったダクネスさんの介抱をしています。……ご安心を。みんな無事ですよ?」
言って、ニコリと微笑むエリス様の言葉にほっとした。
なら、後はアクアに蘇生して貰ったら俺の出番だ。
レベル一になるのは正直キツイが、セレナを無力化するにはこれが一番の方法だろう。
他にも色々考えてはみたが、やはり自分の手でケリを付けたい。
俺は少しだけ安心し、その場に膝を抱えて座り込んだ。
……しかし、いつもいつもポンポン死ぬなあ……。
理不尽で弱者には優しくない世界だし仕方ないが、もうちょっと何とかならないもんか。
こうもアッサリ死ぬと、流石に落ち込んでしまう。
なにより、段々ここに来る事に抵抗が無くなってきているのが問題だ。
死ぬのに慣れるというのもどうかと思う。
と、エリス様がじっと俺の顔を見ながら、何も言わずに微笑んでいた。
両手を胸の前に組んで部屋の中央に立っているエリス様は、何と言うか何も喋らなくても一緒に居るだけで癒される。
これが本物の女神様となんちゃって女神との実力の差か……。
ああ、そうだ。
「エリス様。以前俺がここに来た時、もう俺と何度も会ってるって言ってましたよね? そろそろ教えて下さいよ。でないと、俺、知らない間に女神様相手に失礼な事とかしちゃったら、罰とか当たるじゃないですか」
「…………失礼な事とか、罰だとか今更……。そもそも、初対面の時に…………」
「えっ?」
「…………何でもありません。正体は内緒です」
言って、自分の口元に人差し指を当てるエリス様。
くそう、気になる。
しかし、本当に誰だろう。
地上では、口調も外見も職業も違うと言っていたが……。
人差し指を唇に当てて、ニコニコしているエリス様。
そのエリス様を見ていると、もう色んなしがらみから開放されて、ずっとここに居たくなってくる。
何で俺が魔王の幹部なんかと戦わないといけないのか、なんで俺は異世界なんかで、やたらと強敵とばかり関わっているのか。
せっかく大金を手にしても、魔王の娘が首都を攻めるだの、俺達の街にも部隊が転送されてくるだの……。
ああ、嫌だなあ……。
死んだ直後な所為か、流石に鬱にもなってくる。
でも戻らないと。
今の所、首都への襲撃計画や街に魔王の部隊がやって来る情報を知っているのは俺だけだ。
そして、セレナのレベルを下げて俺もレベル1に戻って…………。
「……はあ……」
これからの事を思うと、ついついため息が出てしまう。
膝を抱えながらため息吐く俺に、エリス様が心配そうに首をかしげた。
「大丈夫ですか? 大丈夫……な訳ないですよね、死んだのですから……」
言いながら、エリス様が俺と向い合ってしゃがみ込み、膝を抱えた状態に。
視線の高さを俺に合わせ、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
やはり、メインヒロインはここにいたんだ。
やさぐれていた俺の心が急速に癒されていると。
《カズマさーん、カズマさーん! もう準備は出来たから帰ってきてー》
このゆったりとした癒し空間に、空気を読まない事にかけては類稀な才能を持つ、偽ヒロインの声が響き渡った。
あの理不尽な世界へ戻りたくないと、俺は膝に顔を伏せながら、自分の両耳を抑えて、聞こえないフリをして現実逃避を始める。
「あ、あの……、先輩が呼んでますよ? 気持ちは分からなくも無いですが……」
現実逃避しようとする俺に、エリス様が困った様に言ってくる。
「……こう何度もポンポン死ぬと、流石に落ち込むし、また死なないかと帰るのにも腰が引けますよ。いっそ、このまま新しい人生やり直した方がいいんじゃないかって」
「それは……。しょうがないですね、普通は一度死んだだけでそのショックは相当な物ですし……。カズマさんの場合は、毎回楽な死に方ばかりですから、まだ精神的なショックが小さい方ですが……」
目の前で困り顔で膝を抱えているエリス様。
やがてエリス様が、穏やかな笑みを浮かべた。
そして小首を傾げながら。
「……でも、思い出してください。この世界では、素晴らしい仲間達との楽しい思い出があったでしょう? まだ、やり残した事があるんじゃないですか? ほら、思い出してみてください、あの世界の事を……」
その言葉に、俺はゆっくりと、これまでの異世界での出来事を振り返る。
アクアとの、あの世界に来たばかりの時の、苦労に苦労を重ねた馬小屋暮らし。
理不尽な理由で背負わされた多額の借金。
ロクな事しかしない仲間達。……そして、その尻拭い。
一癖も二癖もある街の連中……。
そして、その反動か実にポンポン死ぬ俺。
「…………やっぱり、もう生まれ変わりたいんですが……」
「ええっ!?」
地球に送ってもらって金持ちの家の猫にでも生まれ変わろう。
そして、生涯を勝手気ままに寝て過ごすのだ。
《カズマさーん、早くきてー、早くきてー》
そんな、気楽なアクアの声。
頑張った。
もう俺、頑張ったよ。
生き返っても、どうせまた、アッサリと死ぬ様な気がする。
「俺はもうこのまま、新しい人生送るからー! そっちの事はお前らに任せたー! 二人には、達者でなって伝えてくれー!」
「えええっ!?」
俺がどこへともなく大声で叫ぶと、エリス様が驚き。
やがてシンと静まり返る。
そして……。
《この男、またバカな事言い出したんですけど! あんたふざけんじゃないわよ、何で定期的におかしな事言い出すの? バカなの? やっぱりバカなの? そんなだから、あのプリーストにホイホイ付いてく羽目になるのよ!》
あっ!?
アクアの罵声にカチンと来る。
「お前ふざけんなよ、そもそも誰の為に魔王の幹部に喧嘩売ったと……! あのな、俺は街を守るため、人知れずあのプリーストと戦いを続けてたんだぞ! その激しい攻防の果てに洗脳されて連れて行かれたんであって……」
《えっ。めぐみん何してるの? えっ。えっ……!》
……おい。
「お前、そんな事言ったってもう関係ないからな! 俺の体にイタズラでも何でもすればいいさ! お前らが泣きながら、お願い帰ってきてって言うまでは……」
《めぐみん何してるの!? ねえ、何をするの! カズマさーん、カズマさーん! 早く帰ってこないと……! 帰ってこないと……!》
……だ、騙されないし釣られない、今更自分の亡骸に何されたって……。
そう、もはやそんな脅しには……!
《カズマさーん! めぐみんが……! めぐみんが、カズマの初めてを貰うって言って凄い事しようとしてるんですけど! って言うかめぐみん、真っ昼間からそれはどうかと思うの!》
色仕掛けかああああああ!
「…………」
膝を抱えてソワソワしだした俺を見る、エリス様の視線が何だか余所余所しい物になる。
ああどうしよう、やばい、帰らないと大人になれる瞬間を逃す事に……!
いやでも、ここでノコノコ帰ったら俺はめぐみんの色仕掛けに簡単に屈する単純な男だと思われて……、いやいやいやしかし……!
《めぐみん、初めてのカズマさんに、いきなりそんな大きいのは無理だと思うの! カズマさんのカズマさんが壊れちゃう!》
!?
「おい、俺の初めてを貰うってそっちの初めてかよ!」
《めぐみん駄目よ、それは食べる物よ! そんな事する物じゃないわ、罰が当たるわよ!》
「止めて! アクア、今すぐ帰るから早く止めろー!」
《だってだって、カズマの見えちゃいけないものが色々と……、ああっ、めぐみん駄目よ! 駄目……、だ……、……ああっ…………》
「諦めるな! 諦めるなよ、頑張れよ! 今そっち帰るから!」
俺はすぐさま立ち上がり、
「じゃあエリス様、急を要するんでこれで!」
そのまま大慌てで例の門の前に駆け出すと……!
「い、行ってらっしゃいませ……。……あっ! カズマさん、お急ぎの所すいません! 実は、先輩にちょっと伝言を頼みたいのですが……」
「で、伝言!? 今超急ぎなんですが……!」
《あああっ、めぐみん! めぐみんっ! だ、駄目よそれ以上は、時間切れよ! もうカズマが帰ってくるって言ってるわ! 早くズボンを……!》
俺は泣き出しそうになりながら、エリス様を振り返る。
そんな俺に、エリス様が申し訳無さそうな表情で。
「実は、上の方からの伝言でして…………」
「あっ! カズマ、お帰り! 危機一髪だったわね!」
「お、お、お帰りなさい……」
目が覚めると、俺をアクアとめぐみんが覗き込んでいる。
めぐみんがほんのりと頬を染め、少々荒い息で、何かを後ろ手に隠していた。
俺と目が合うと、めぐみんがフイッと目を逸らす。
自分のズボンが慌てて履かせた様に乱れているのが恐ろしい。
挙動不審なアクアとめぐみん。
そして、遠く離れた所には、白目を剥いたセレナとダクネスが横たわっていた。
「ちょ、ちょっと私はダクネスを起こしてきますね」
言って、俺から目を逸らしながら、逃げる様に慌ててダクネスの下へと行くめぐみん。
そんなめぐみんを見送りながら、俺は、残された、何やらオドオドしているアクアに向き直る。
「おいアクア」
「何かしら!? 私は止めたわよ? めぐみんと二人で、カズマさんのカズマさんをマジマジと見たりなんかしてませんから!」
…………こ、こいつ……。
俺は気を取り直し、アクアに告げた。
「…………お前、天界に帰りたかったりとかするか?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「カズマ、起きて! 朝よ朝! ほら早く! 早く起きて!」
翌日の朝。
一切のノックもせずに、アクアがけたたましく喚きながら、俺の部屋へと飛び込んできた。
モゾモゾと布団から顔を出すと、窓の外はまだ薄暗い。
「…………今何時だよ……」
「そろそろ五時?」
早えよ……。
俺が再び布団の中にモゾモゾと潜り込むと、アクアが布団の上に飛び乗ってきた。
「なに二度寝なんてしようとしてるの!? ほら早く、起きて起きて! さっさと支度して、クエストに行ってレベル上げするわよ!」
「勘弁してくれよー……。俺、夜中まで飲み歩いてたから今日は夕方まで寝たいんだよー……。昨日は、魔王の幹部撃退祝いをしてたんだよー……」
昨日、アクアにエリス様からの伝言を告げた後。
俺は予定通りセレナのレベルを1にして、自らもレベル1になった。
そのまま、気絶したままのセレナを警察に預け、セレナや魔王軍の連中の計画など、洗いざらいぶちまけてきたのだが。
弱体化したセレナは、もう強力な呪いをばら撒く事も出来ないだろう。
警察署の署長が、これからセレナ相手に色々と取り調べをするとか言っていた。
魔王の娘による王都襲撃計画や、この街への襲撃などなど、それらへの対策の手も打ってくれるそうだ。
魔王の幹部を捕らえた事とその計画を事前に止めた事により、結構な額の賞金も出るらしい。
……となると、後はもうレベル1になった俺に出来る事などない。
王都の事なんてどうにも出来ないし、この街への襲撃にしても、セレナによる主力冒険者達の傀儡化、そして内部からの破壊工作が織り込まれての計画だ。
それらが失敗した以上、簡単にこの街が落とされる事もないのではなかろうか。
というか、セレナと言う指揮官を失った以上、この街への襲撃自体が無くなるかもしれない。
と、言う訳で。
俺は安心して、昨日遅くまで、祝勝祝いとして飲んでいたのだが。
「起きてー、起きてー! ほら、早く起きて! そして、人類のため、未来のため! 魔王退治に行くの!」
アクアが、布団越しに俺の上に乗っかったままバタバタと暴れながらそんな事を。
魔王退治。
こいつがそんなバカな事を言い出したのには理由がある。
そう、エリス様からの伝言だ。
「魔王なら、その内どこかの女神様に選ばれし伝説の勇者とかが倒してくれるよ……。おやすみなさい…………」
「ここにもれっきとした女神様がいるでしょ! 私があんたを勇者認定してあげるから、ほら起きてー、起きてー!」
創造神からの伝言。
それは、魔王が倒された暁には、アクアは天界に帰して貰えるとの事らしい。
俺のレベルが下がる前で、それでいてまだコイツとの付き合いが浅く、とっとと放り出してやりたいと思っていたあの頃ならいざ知らず。
今の状態で、なんで俺が魔王退治になんぞ行かなければならないのか。
というか、無茶振り過ぎる。
セレナの企みだって、偶然に偶然が重なって運良く勝てたってだけだ。
しかも、アレであいつは魔王の幹部の中でも弱い方で。
更に言うなら、そんなセレナに、俺は最後に殺された訳だ。
それが、城に篭って、強力な部下に囲まれた魔王を退治に行く?
……アホか。
俺は未だ布団の上でバタバタしているアクアに、首から上だけを布団から覗かせると。
「……お前、魔王だよ? 魔王なんて、俺が倒せる訳がないだろ? お前、それ程までに俺の事を評価してんの? 魔王を倒せるような男だって?」
「まさかー。そんな訳ないじゃない、私だって現実ぐらい知ってるわよ」
……この野郎。
「じゃあ、何だってんだよ。俺がレベル上がった所で、俺達でノコノコ魔王の城に向かったって、途中の強いモンスターに食われるか、城に付いた所で魔王の軍勢に袋叩きにされて終わりだぞ。お前やダクネス、めぐみん辺りは、魔王に捕まって凄い目に遭わされるだろうな。喜ぶのはダクネスぐらいのもんだぞ、分かってんのか?」
「分かってるわよそれぐらい。ちゃんと私に考えがあるの。カズマがそこそこのレベルになって、魔王の城に近付ければそれでいいのよ」
……ほう?
「何か、良い考えがあるなら聞こうじゃないか」
「聞いて頂戴。あのね、まずは私達で魔王の城に行くじゃない? で、魔王の城の周りには……。そこには、結界が張ってあるって話でしょう? 魔王の幹部達が張った結界が」
……?
そんな話だったか。
俺には関係ないと思って、そんなもん今まで聞き流していた。
俺が無言で聞いていると、アクアが説明を続けていく。
「つまり、昨日カズマが魔王の幹部を一人無力化させたわ。レベル1の魔王の幹部じゃ、結界の維持なんて出来ないし、これで結界を維持している魔王の幹部は…………。何人だっけ?」
「…………魔王の幹部って八人居たんだったか? その内一人が遠い昔に戦争かなんかで死んで。後は、ベルディアって、あの最初に来たデュラハンに。バニルにシルビア、セレナが無力化。……後は……ウィズも含めて三人か?」
「そう! 魔王の幹部は残り三人! 私の凄い女神パワーなら、その位の数で維持してる結界程度、破壊は出来なくても一時的に人が通れる穴ぐらいは開けられるわ! いいえ、三人の幹部が維持している結界ぐらいなら、頑張れば破壊出来るかも! 結界が破壊出来ればよし、破壊出来なくても、人が通れる穴ぐらいなら開けられるの!」
ほうほう。
……で?
「それはいいんだけども、魔王を倒す肝心の方法は?」
俺の疑問にアクアが、自信満々に言い放つ。
「結界が壊れれば儲けもの。私の可愛いアクシズ教徒の子達や、紅魔族の人達、ついでに、国の偉い人達にチクるの! 今まで築き上げたカズマのコネを生かして、これらの人達に教えるのよ! 今魔王の城に攻め込めば、城の結界はありませんよって!」
何という他力本願。
「でも、城の結界が破壊出来なかったら?」
「その時はしょうがないわね。レベルを上げたカズマさんの出番よ」
ほほう。
「聞こうじゃないか」
「敵感知と潜伏を使って魔王の寝所まで一人で潜入して、魔王を暗殺してきて頂戴」
「なめんな」
俺は、布団の上でぎゃあぎゃあ喚くアクアを他所に、頭から布団をかぶり直した。
広間にて、ダクネスやめぐみんと昼飯を食べていると。
「ねえカズマ。ちょっといいかしら」
アクアが真剣な表情を浮かべ、後ろ手に手を組みながら言ってきた。
まるで、これから大切な話を打ち明けるように。
「……どうしたんだよ。そんな深刻そうな顔して」
俺が鴨のローストをモリモリ食べている中、ダクネスとめぐみんも同じく食事を続けながら、俺とアクアを交互に見ている。
アクアが、ばっと顔を上げ。
「聞いて頂戴! 私達、このままではいけないと思うの!」
また唐突に、そんな事を言い出した。
口の中でローストをモゴモゴしながら、取り敢えず聞いてやる。
「何がこのままじゃいけないんだ?」
「この、自堕落な生活よ! ねえ、このままでいいの? 昼過ぎに起きだして、食っちゃ寝食っちゃ寝! 変わった! カズマさんたら、変わったわ!」
いきなりなんだ。
そんなアクアに、めぐみんとダクネスがフォークを置く。
「そうですか? この男は大体昔からこんな感じでしたが」
「うん、大体こんなもんだろう。まあ、今は生き返ったばかりという大義名分がある。普段にも増して、ゴロゴロと駄目人間と化しているが」
…………。
「そうだけど! 元からこんなんだったかもしれないけれど! でも、私は昔のカズマさんに戻って欲しいの! あの、莫大な負債を抱えて、毎日涙目でヤケクソになりながら、小銭を稼ぐ為にあくせく働くカズマさんに!」
「よし、掛かって来い、お前を経験値の足しにしてやる」
フォークを片手に席を立つと、アクアが警戒し、シュッシュッとシャドーしながら後ずさった。
「どうしたんです? 普段はカズマと同じレベルでゴロゴロしているアクアが急に」
「ん、あのプリーストの騒ぎも収まった事だし、これからは特にクエストに行かなくなるなと危惧していたのだが」
そんな二人の正論に、アクアがぐっと返事に詰まった。
「その……。ぼ、ぼーけんしゃの義務と責任、みたいな……」
「「「…………」」」
「…………みたいな…………」
俺達三人の視線に晒され、言葉尻が小さくなっていくアクア。
「ぼ、冒険者として、世間の困っている人達を…………うう…………、わ、わああああーっ!」
耐え切れなくなったアクアが逃げた。
「アクアは急にどうしたんです?」
食事を終えためぐみんが、フォークを置きながら言ってくる。
ダクネスも不思議そうにナプキンで口元を拭っていた。
「気にしなくていい。急に正義感に目覚めたらしくて、魔王を倒したい病気をこじらせたんだよ」
「「魔王!」」
「うおっ!?」
魔王の言葉に突然反応する二人。
「魔王ですか! いいですね、魔王退治ですか! 我が最強の名を確固たるものにするため、ちょっと殺っときますか」
いつからお前が最強になった。
というか、ちょっとコンビニ行って来るみたいな感覚で言うな。
「魔王……。魔王かあ……。きっと、その攻撃は凄いんだろうなぁ……。私の自慢の鎧でも、一撃で破壊されてしまったり……」
ほんのりと頬を染め、夢見る女の様にぼうっとした表情を浮かべる変態。
そういえばこの二人はこんなんだった。
「一応言っとくが、行かないからな。ちょっと魔王の幹部を立て続けに退治出来たからって、変な勘違いはするなよ? 俺達のパーティはどちらかと言うと駄目な方のパーティだからな? だから…………。……そんな、目をキラキラさせて俺を見ても、絶対に行かないからな?」
「……ったく、なんなんだあいつは」
時刻は深夜。
俺は自室で、両腕を枕にしながら物思いに耽っていた。
全く、何考えてんだかあいつは。
そりゃあ、俺に無理やり連れて来られた訳だし、帰れるものなら帰りたいのだろう。
あいつの場合は自分の意志でこの世界に来た訳じゃないし。
しかし、こうもアッサリ帰りたがるとか、なんという薄情者。
俺達の関係はそんなアッサリしたものだったのかと、少しだけショックだ。
……いや、めぐみんの話では、ここ最近のセレナによる街の連中の傀儡化で、冒険者達に必要とされなくなったアクアの落ち込みようも酷かったらしい。
きっと、それらの事が重なったのだろう。
あいつも、そこまで考え無しのバカでは……。
………………。
……単に、皆に会えなくなるとかそこまで深く考えていないだけかも知れない。
まあ、女神には女神の感性や考えがあるのかもしれない。
一応アレでも、崇めてくれる信者もちゃんといる、神様なんだよなぁ。
そりゃあ、何だかんだで長い付き合いの腐れ縁だ。
本気で望むのなら、魔王ぐらい…………。
魔王…………。
……無理ゲー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一体どれくらいの間眠ったのだろう。
何か、遠くから声が聞こえる。
「……………………ばれし…………あなたの………………」
それは、とても心地良い響きで。
なんだか、心の奥底から自信が湧いてくる様な…………。
「神々に選ばれし…………偉大なる伝説の…………」
そう、俺は神に選ばれた伝説の…………。
…………伝説の?
ふと目を開ける。
すると、耳元に何者かのボソボソと囁いてくる吐息を感じた。
「神々に選ばれし偉大なる伝説の勇者、サトウカズマよ……。あなたのその手に、人類の命運がかかっているのです……。さあ、今こそ魔王を倒すために立ち上がりなさい……。そして、儚くも美しい女神の願いを叶えるのです…………!」
ふと横を見ると、俺の耳元でボソボソと囁きかけているアクアと目が合った。
「…………お前、何してんの?」
「…………カ、カズマさんの、可愛い寝顔が見たくなって……」
俺は布団を跳ね除け飛び起きた。
「めぐみん、ダクネス、ちょっと来てくれー! アクアが夜這いをかけてきたー!」
「わあああああああーっ! ごめんなさい、洗脳しようとしてましたああああああ!」
セレナはしばらく後でまた登場。
そこで真の決着、というか大変な目に遭わされてきちんとケリが付く予定。
前回更新が出来なかった理由は活動報告に書かれております。
仕方ない理由ですので、そりゃあ仕方ないなとご理解頂けると、何かと助かります。
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