韓国政府が8日、防空識別圏(KADIZ)を設定したことは、米中日などに囲まれる中、韓国の領土・領海主権を守る意志を明確に示したという点で象徴的意味が大きい。中国による一方的な防空識別圏発表に積極的に対応すると同時に、過去に米日が定めた防空識別圏を韓国の安全保障上の利益に合わせ、主導的に変更したものだ。しかし、中国と日本が韓国の防空識別圏をそのまま認めるかどうかは不確実で、設定には不完全さが否めない。また、中国や日本が事前通報なしで軍用機による挑発を行ったり、防空識別圏を拡大したりして対応した場合、韓中日3カ国による対立が高まる懸念もある。
■飛行情報区と一致
今回韓国政府が再設定した防空識別圏は、民間機の管制を目的として、国際民間航空機関(ICAO)が設定した韓国の飛行情報区(FIR)と一致する。国際機関が定めた基準である以上、国際規範や慣例に反せず、紛争の余地が低下し、中日との防空識別圏交渉でも優位に立つことができる。
また、韓国の領土である馬羅島と鴻島(巨済島の南)、実効支配区域である離於島(中国名・蘇岩礁)を全て含み、外国の民間航空機は新たな通報を行うことなく、運航が可能だ。韓国政府当局者は「米国が韓国の防空識別圏拡大を『国際的慣行に一致する』と肯定的に評価したのも、FIRを基準にしたためだ」と述べた。
■これまでの慣例維持
韓国政府は中国と日本が韓国の防空識別圏を認めることはなくても、真っ向から反発もしないとみている。韓国国防部(省に相当)担当者は「韓国の調整案が国際規範に合致し、行き過ぎてもいない措置だという点で、関係国も共感していると聞いている。韓中、韓日関係に大きな影響はないのではないか」と述べた。
成均館大の李熙玉(イ・ヒオク)教授は「中国の反応からみて、韓国の防空識別圏問題を対話と交渉で解決する意思があるように思える。日本は韓国の防空識別圏を認めないまでも、対立を高めようとはしない可能性が高い」と分析した。
韓国政府が中国の防空識別圏を通る韓国の民間航空機に関する情報を自発的に中国政府に事前通報できるようにしたことも、中国との妥協点を探る意思の表れとみられる。中国の民間航空機はFIRと韓国の防空識別圏が重なるため、別途の通報手続きなしで、従来通りに運航が可能だ。ただ、軍用機については、韓中間の合意が成立するまで、相手国の防空識別圏を認めず、事前通報なしで飛行することになるとみられる。日本はまだ公式な反応を示していない。韓国政府は日本の反発を最小化するため、当面は新たに韓国の防空識別圏に含めた範囲でも、日本政府に軍用機、民間機を問わず、飛行の30分前に通報を行うことを決めた。
■対立は固定化も
しかし、火種は残されている。中国や日本が韓国の拡大された防空識別圏に事前通報なしで戦闘機を飛ばした場合、韓国の戦闘機も緊急発進(スクランブル)する必要がある。元外交幹部は「中国は初期には韓国の対応を試すため、軍用機を飛ばす可能性がある」と指摘した。3カ国の防空識別圏が重なる地域では、中日間の対立で3カ国の戦闘機がいずれも発進する最悪の状況も考えられる。
韓国軍関係者は「韓中、韓日の空軍部隊間のホットラインを通じ、偶発的な衝突を防げる」と述べた。しかし、軍事的衝突には発展しなくても、3カ国による対立地域として固定化する可能性も否定できない。
とはいえ、中国や日本が韓国との関係悪化を覚悟で、強硬な対抗措置を取るのは難しいとの見方が有力だ。