「フハハハハハハ! フハハハハハハハ!」
「あっ! なんでしょうかこの強い魔力は! 伝説級! これは伝説級の力を持つ魔道具ですね!」
ダンジョンの主の部屋の奥で、バニルとウィズが興奮気味に宝物を漁っていた。
それを、俺とヴァンパイアはお茶を啜りながら傍観していた。
「その……。俺の連れがすいませんね」
「いいえ、こちらこそ、ヴァンパイアみたいなボウフラ並の害虫風情が、こんな大層なダンジョンを構えていてすいませんでした。皆様が引き上げた後は、田舎に帰ってトマトでも育てながら細々と生きていこうかと思っております」
田舎でトマト栽培をするヴァンパイアの真祖か。
日光が苦手なヴァンパイアが農作業に勤しむってのも凄い話だが、まあ――
「そうだな。それがいいのかも知れないな。そうすりゃ、こんな目にも遭わないで済むだろうしな」
「ええ、こんな恐ろしい思いをするぐらいなら隠居してのんびり暮らす方を選びますよ。千年生きてきて、百鬼夜行も真っ青な、悪魔やアンデッドの大群に囲まれるだなんて思いもしませんでしたよ。しかも、私と同格の最上位アンデッドのリッチーに、私よりも遥かに長く存在している大悪魔のオマケ付きです。滅ぼされなかっただけで良しとしますよ」
そう言うと、千年の時を経てきたヴァンパイアの真祖は、達観したかの様にバニル達を眺める。
「フハハハハハハハ! 何という金銀財宝! 小僧が引き取ってくれるアレの売上とこの財宝を元手に、大掛かりな商売でも始めてくれようか! そうだ、カジノだ! ウィズ、この財宝で巨大なカジノを作るぞ!」
「ああああ、見て下さい、見て下さいバニルさん、この魔力に溢れた一品を! 効果は分かりませんが、きっと世界を引っ繰り返す級の力が秘められているはず……!」
お宝を漁る物欲に塗れた二人より、上品にお茶を啜りながらくつろぐヴァンパイアの方が、何だか大物モンスター臭がするのはなぜだろうか。
ヴァンパイアが降伏した事により、既にドラゴンゾンビ達は成仏させられ、バニルの部下達は帰らされている。
俺とヴァンパイアが世間話に花を咲かせている中、バニル達は、降伏の代わりにとヴァンパイアが差し出してきた財宝の数々を、せっせと風呂敷に包んでいた。
「やや! これはいかん、いかんぞ! 財宝の量が多すぎる、これでは全て持ち帰れんではないか!」
「あっ! 困りましたねバニルさん、どうしましょうか。ここにある品々は、どれもこれもが強い魔力を感じます。出来れば何とか持って帰りたいですね」
二人がそんな事を言いながら、ヴァンパイアの方をじっと見た。
お、お前ら、貯め込んだ財宝を強奪するだけじゃ飽き足らず、それを運ぶのまで手伝えってのか。
「今からウィズにテレポートを教えてもらって、俺がこのダンジョンの最下層を転送先の一つに登録するから、それで我慢してくれよ」
俺の言葉に満足したのか、バニルとウィズは何かを持ってこちらにやって来た。
二人は、一振りの剣と漆黒の全身鎧を持っている。
「ほれ小僧。これを持って行くがいい。この財宝の中で、恐らく最も強力な魔剣である。売り飛ばせば一財産だが、今は貴様が使う方が良いだろう」
「この鎧は、私の見立てによると相当な業物ですよ。強い魔力も感じますから、これを着ければ魔王さんのお城へ行く道中でも、問題ないでしょう」
二人はそんな事を言いながら、恐らく凄まじい値が付くだろうその装備を、惜しげも無く俺に渡してくれた。
何だかんだ言いながら、俺の身を案じてくれているのか。
ほんの少しだけ照れ臭くなりながら、俺は鎧を着ようと――
「……重くて動けないんですけど」
篭手を一つはめただけで、俺はその場から動けなくなった。
いや、なにコレおかしい。
貧弱な最弱職とはいえ、このダンジョンで何度もリセットして鍛えてもらった結果、今のレベルは三十台にまで達している。
筋力などもそこそこ上がっているはずなのだが……。
「ああ、その鎧はクルセイダー限定装備ですよ。ついでに言うなら、そちらの魔剣もソードマスターにしか扱えません」
ヴァンパイアがそんな事を。
限定装備ってなんだ。
最弱職は伝説級の装備を身に付ける事も許されないってか?
「あの、冒険者用の強力な装備なんてありませんかね?」
「す、すいません、冒険者なんて誰もなりたがらない職業に合わせ、強力な武器や防具を作るなんて職人は、いないもので……。少なくとも、私はそんな装備は保有してはおりません……」
そのやり取りを聞いて、バニルがブハッと吹き出した。
「フハハハハハハハ! フハハハハハハハッ! どこまでも英雄になれぬ小僧よ、良いではないか、それこそが貴様の持ち味だ! 貧弱な装備と、付け焼刃で覚えた数多のスキル! それらを携えて魔王の奴と渡り合ってきたならば、大英雄と呼ばれる存在になれるだろう! 見える、見えるぞ! 貴様が後世に、ハーレム王だとか最強の最弱職だとか愉快な呼び名を付けられる未来がな! フワーッハッハッハッ!」
街に帰って使えるスキルを覚えた際には、コイツに真っ先に叩き込んでやりたい。
「ちくしょう、なんだよ。あ、でもクルセイダー装備か。なんか真っ黒で禍々しい鎧だけど、ダクネスへのお土産として持っていくか。魔法使いの杖とかは無いかな?」
「魔法使い装備はちょっと無いですね。ああ、私が身に着けているこの指輪は、持ち主の魔法の威力を強化する、強い魔力を秘めていますが。持っていきますか?」
ヴァンパイアが、言いながら身に着けていた指輪を外そうとするが慌てて止めた。
「い、いや、それはいいよ。なんだか身ぐるみ剥ぐ様で申し訳ないし。……なんか悪いな、あんたからしたら強盗に押し入られた様なものだもんな」
「いえいえ。ダンジョンは侵入されるために在るのです。ここにある財宝や装備も、ダンジョンに挑戦した冒険者のものですし、お気になさらず。でも、この指輪だけは、私が生前から大切にしていた物なので、ちょっとホッとしました」
ヴァンパイアは、言いながら安心した様にはにかみ――
「魔法威力を増幅する指輪ですか……」
ウィズが、物欲しそうに指をくわえ、じっとそれを……。
「ウ、ウィズ……」
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テレポートで街に帰ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
ダンジョンの中で一日以上過ごしたせいで、時間の感覚がおかしい。
「この時間では乗合馬車も運行してはおるまい。疲労回復のポーションや覚醒ポーションで誤魔化したとはいえ、急なレベルアップと長時間の極度の緊張状態、丸一日以上の戦闘など、体への負担は相当な物だ。今日はゆっくり休め。明日、スキルを教えてもらい、そのまま旅立つがいい」
バニルが風呂敷を背負い、両手にも財宝を抱えたまま言った。
俺は、ダクネスへのお土産の鎧一式を手に、バニルとウィズに礼を言う。
「助かったよ二人とも。絶対あのバカを連れ戻してくるからな」
「女神に関しては、まあどうでもよい」
「どうでも良くないですよ! カズマさん、いざって時には、私達も隠れながらちょっとだけ、この街を守るお手伝いをします。アクア様が帰る場所はちゃんと守っておきますから、安心して行ってきてくださいね。無事帰ってきたら、またレベル上げでもなんでもお付き合い致しますので」
それはもう勘弁。
正直、ダンジョンは怖かった。
格上のモンスターに囲まれると、生き物としての本能的な恐怖からか震えが止まらなかった。
ダンジョンは、軽いトラウマになりそうだ。
「あのダンジョンの財宝は、まだまだ残っておるのだ。小僧が旅立たねばならないのは理解しているから、残りの財宝回収は貴様が帰ってからで良い。なので、ちゃんと生きて帰ってくるがいい。あの長ったらしいダンジョン最深部まで、また潜る事を考えるとウンザリするわ」
なんともバニルらしい送りの言葉だ。
「帰ってきたら、手取り足取り上級魔法を教えてあげますからね。だから、無事で帰って来てくださいね!」
ウィズが、優しく微笑み言ってくる。
上級魔法は、覚えようとしたが習得できなかった。
スキルポイント的には足りているのだが、スキル習得欄に出て来なかった。
単純に、名前を叫べば発動する初級魔法。
ちょっとした手順が必要な中級魔法。
この辺までならド素人でも何とかなるが、流石に上級魔法ともなると――
「上位の魔法にもなると、魔法ごとの身振りや専用の詠唱、魔力の流れなども一つ一つキッチリ覚えないといけませんからね。流石に一日では覚えきれないと思いますので……。あっ! でも、爆裂魔法ならめぐみんさんに付き合って、長い間、毎日ずっと見てきましたよね? なので、爆裂魔法の習得ならきっと……」
「アレは要らない」
そもそも、爆裂魔法を覚えた所で魔力が足りない。
魔力に溢れる紅魔族にして、アークウィザードのめぐみんですら、一発撃つと魔力が空になるのだ。
帰ったら、上級魔法か。
姿を見えなくする魔法が欲しい。
凄く欲しい。
何に使うかはまだ考えてはいないが、凄く……
「見える。未来が見えるぞ。小僧が上級魔法を覚えて、姿を隠して大衆浴場に」
「それじゃあ、今日はお疲れ! また明日、旅立つ前に店に寄るから!」
「ただいまー」
「「お帰り!」」
玄関のドアを開けると、めぐみんとダクネスがドアの前で待っていてくれた。
二人とも絨毯の上に座り込み、長い間俺を待っていた事がうかがえる。
「無事帰って来てくれましたか。ちょこちょこっと潜ってレベルを上げて帰って来るかと思えば丸一日以上帰って来ないものですから、心配しましたよ?」
「本当にな! まったく、だから私も壁代わりに付いて行くと言ったのだ。これからは……。……なんだ? これは」
暖かく迎えてくれるめぐみんと、小言を言ってくるダクネス。
そのダクネスの前に出した鎧一式を見て、ダクネスがキョトンとした。
「お土産。クルセイダー用の強力な装備だって言うから持って帰ってきた」
「ほう、限定装備ですか。その職業しか装着できない系の物は、業物が多いですよ。カズマは、自分の装備は見つからなかったのですか?」
「ああ、冒険者限定なんて、そんな需要のなさそうな装備はちょっとなあ」
めぐみんとそんな事を言っていると、ダクネスが、俺の差し出した鎧を震える手で受け取った。
赤い顔をして、ちょっと潤んだ目で鎧をギュッと抱きしめる。
「……ありがとう。大事にする」
シンプルで、それでいて感情の込められた感謝の言葉。
俺が装備できなかったから、ついでみたいな感じで一応貰ってきたなんて、今更言えない雰囲気だ。
「漆黒の鎧ですか。ダクネスという名前的にも似合いそうな感じですね」
「だな。でも色や形状的に、これを装備すると、なんか魔王の側近とかそんな感じになりそうだけど」
「う……。聖騎士が黒い鎧を装備するのもどうかとは思うが、まあ、これはこれで……。それに、美しいじゃないか、この鎧は。強力な魔法の掛かった鎧は、装備する持ち主に合わせて、フィットする様に細部の形状を変える。きっと、私が装備すれば多少は騎士っぽい形の鎧になるだろう」
ダクネスが、いそいそと広間の中央に鎧を持って行き、乾いた布で鎧を磨き始めた。
キュッキュッと音をさせて鎧を磨くダクネスは、なんだか実に楽しそうだ。
と、めぐみんが俺の袖をクイクイ引っ張る。
「で、私へのお土産は?」
「な、ないです」
軽く飯を食い、風呂に入る。
そして、風呂から上がる頃にはダクネスの姿が見当たらなかった。
随分と鎧が気に入っていたみたいだし、自室で試着でもしているのかも知れない。
今夜は珍しく、紅魔族ローブではなく黒のワンピース姿のめぐみんが、風呂上りの俺を待つかの様に、広間のソファーでゴロゴロしていた。
「めぐみん、俺はもう寝るけど。明日は早いんだろ? めぐみんも、早めに寝ろよ?」
明日は、朝一の乗合馬車で出発を予定している。
そして、俺がダンジョンに潜っている間にダクネスやめぐみんが、街の冒険者に連絡を取り、有用なスキルを持つ人達に、馬車の乗合所前に集まってもらう約束を取り付けていた。
スキルを習得次第、アクアを追い掛ける。
広間の隅には、既に遠征用の荷物も用意済みだ。
二人が、俺のレベル上げを待っている間に全て用意してくれたらしい。
「そうですね。では、私もそろそろ寝ましょうか」
言いながら、めぐみんが立ち上がった。
そして、二階の自室に向かう俺の後ろをついて来る。
俺が自室のドアを開けると、めぐみんは当たり前の様に俺の部屋に入ってきた。
…………。
「えっと、何してんの? 寝るんじゃないのか?」
「寝ますよ? カズマと一緒に」
えっ。
――俺が固まっていると、めぐみんがベッドの前に歩いて行き、シーツの具合をぽんぽんと叩いて確かめ。
「今回の旅では、紅魔の里へ行った時より遥かに危険な旅になります。なので……。後悔が無い様にしておきましょう」
めぐみんは、そんな事を言いながらはにかんだ。
…………えっ。
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「あ、改めてこういう状況になると、や、やっぱりちょっと緊張しますね。大丈夫ですか? まだ、辛くないですか?」
「だ、大丈夫だ、問題ない。めぐみんこそ、無理はするなよ?」
今夜は月がない。
窓の外から漏れるのは、この街の魔法使いにより点けられた、街灯による僅かな灯り。
その微かな光では、めぐみんの白い肌もあまりはっきりとは拝めない。
俺の暗視スキルでは、赤外線による暗視みたいに、輪郭しか確認出来ないのだ。
しかし、そんな暗闇の中でも、めぐみんの紅い瞳だけは鮮やかに映えた。
めぐみんは、ベッドに仰向けにころんと横たわったまま、こちらを見ながら微笑んでいる。
黒いワンピースに着替えたのはこの為なのか。
でも、紅魔族ローブを着ていないと、寝る時にボンッてなるんじゃなかったか。
事が終わったら紅魔族ローブを取りに行くのだろうか。
というか、下半身が大変です。
本音は辛いです。凄く辛いです。早く開放されたいです。
そんな俺の様子を見て取ったのか、めぐみんが、
「これが私が持っている服の中で、唯一色気のある服なんですが……。どうですか? 大丈夫ですか? ちゃんと、その……」
「だ、大丈夫だ、綺麗だし、その、ムラムラする」
「む、ムラムラしますか。もうちょっと、こう……。いえ、カズマらしいですね」
言いながら、クスリと笑った。
そして、こちらを迎え入れるように、横たわったまま手を広げて微笑んだ。
「辛いんでしょう? 大丈夫です、私が全部受け止めますから。何があっても後悔の無い様に、やり残した事なんて無い様に。好きにしてくれていいですよ?」
そんな事言われたらいよいよはちきれそうです。
ここまで言われてやる事やらないなんて、それこそ、めぐみんではないが頭がおかしい。
めぐみんに体重をかけないように気を付けながらその上に覆いかぶさると、めぐみんはそっと背中を抱きしめてきた。
目が暗闇に慣れてきたせいで、ワンピースの片方の肩紐が外れ、露わになった白い肩がはっきりと見える。
そう言えば、まだダクネスとしかキスとかしてなかったんだよな。
まずは、キスからしておくべきだろう。
めぐみんの頬に右手で触れると、めぐみんは俺の手の上に自らの左手を重ね、心地良さそうに目を細めた。
そんな仕草だけで緊張と興奮がマックスになる。
女ってズルい、これだけでご飯が食えそう。
心地良さそうに目を細めて俺の手を撫でてくるめぐみんに、そのまま顔を近付けていく。
何をする気か察しためぐみんが、コクリと小さく唾を飲み、目を閉じた。
ダクネスに不意打ちでされたキスとは違い、両方合意のキスだ。
緊張するが、それと同時に、急がないとという気持ちがあった。
なぜだかは分からないが、こういう時ってのは大概邪魔が入るのだ。
そう、どうせまた、一番良い所であのバカが……!
あの、バカが…………。
……………………。
「……? どうしました?」
いつまで経ってもキスしない俺に、めぐみんが片目を薄っすらと開けて不安そうに尋ねてくる。
あのバカが邪魔しに来る事は無い。
だって、今は居ないのだから。
つまり、チャンスだ。
これはチャンスなのだが……。
「……ごめん」
「……その、私ではダメですか? ダクネスやアクアほどの大きさは無いですが、形は良いと思いますよ? 見てみますか?」
「凄く見た……、いや、そうじゃない。正直言って、やりたい。凄くやりたい。もう下半身も大変な事態だ。だから、めぐみんに魅力が無いワケじゃない。でも……」
勿体無い事をしている。
バカな事をしている。
でも――
「アクアが居て、ダクネスも居て。皆が屋敷にいる中で、あいつらに邪魔されないかとヒヤヒヤしながら情事に耽るのが良い。あのバカに見つからない様にコソコソとめぐみんの部屋に遊びに行ったりとか。で、結局良い所で邪魔が入るんだろうけど、それでも……」
言いかけた言葉が遮られた。
めぐみんに、口を塞がれた事によって。
めぐみんが俺の首に両手を回し、情熱的に口を吸ってきた。
口腔内をめぐみんの舌がチロチロと這い、頭がぼーっとしてくる。
自然とこちらもめぐみんを抱きしめ、そのままめぐみんに伸し掛かろうと、
「……んっ。……あなたの、そんなところが好きですよ。たまらなく、大好きです」
伸し掛かろうとする前に、めぐみんが急に唇を離し、俺の頭を自分の胸に抱き込む様にして囁いた。
ほうと熱い息を吐き、そして、愛おしそうに後頭部を撫でてくれる。
顔にめぐみんの柔らかい物が当たり、これ以上我慢ができなくなった俺は、めぐみんを……!
「アクアを連れ戻したら、その日の夜に二人で凄い事をしましょう。それまでは……」
めぐみんは、耳元で囁くように言った後、そっと俺の両肩を押してベッドからするりと降りた。
……あれっ。
えっと、自分で言っといてなんだけども、めぐみんのディープキスのせいで盛り上がってしまったんですが。
なんかもう、既にアクアとかよりも、続きをしたい方が勝っちゃってるんですが。
泣きそうになっている俺に、めぐみんが、後ろ手に手を組んで立ったまま、いたずらっぽく笑いかけてきた。
「カズマが、ごめんって言った後。理由を聞くまでは、凄く不安になりました。なのでお返しに、私もちょっとだけ意地悪させてもらいます」
意地悪って、その気にさせておいての、このお預けの事か!
なんだよもう、魔性のめぐみんかよ、コイツを何とかして下さい。
「その……。謝るんで、もうちょっと続きをなんとかならないですかね……」
「こ、この男は……。どうせなら、最後までカッコイイままでいて下さいよ。……と、言う訳で」
めぐみんは、そのまま俺の部屋から出て行く――のではなく。
なぜか、俺の部屋の隅にあるクローゼットの前に立つ。
「と言う訳で、ダクネスもいつまでもそこでモジモジしていないで、部屋に帰りますよ!」
「わあっ!」
めぐみんがバンとクローゼットを開けると、そこには、なぜか正座して頬を赤らめているダクネスが。
「なななな、なぜ私がここに」
「なぜここに居るのが分かったのか、ですか? 昨晩、帰って来ないカズマを心配してあれだけソワソワしていた癖に、今夜はカズマがお風呂から上る前にそそくさと二階に引っ込む! 紅魔族は知能がとても高いのです、性欲を持て余して頭の中がピンク色になっているダクネスの行動など、お見通しなのですよ!」
「せ、性欲を持て余してなんて……! そそそ、それに、それを言うならめぐみんも……!」
めぐみんは、未だクローゼットの中で正座して頬を赤らめ、怯えた様に震えているダクネスの、その手を掴むとクローゼットから引きずり出した。
「私はお土産を貰えなかったので、その代わりを貰いに来たんです。……どうせダクネスの事です、鎧をプレゼントされて浮かれ、昨晩寂しい想いもしたせいで気持ちが昂ぶり、部屋に忍び込んで待ち伏せしていたのでしょう! で、私の声を聞いて、慌ててクローゼットに隠れていたのですね!」
「ななな、なんでそんなに私の行動が正確に……! わ、私は、鎧のお礼をしようと……!」
ダクネスが恥ずかしそうに、そして泣きそうな顔で赤くなる中、
「プレゼントを貰ったら体でお礼を返すだなんて、なんという淫売ですか! 私にとってはカズマと抱き合ったりそういう行為自体嬉しい事なのですが、ダクネスは違うんですか? 自分の体をカズマに与えて、上から目線で、さあこれがご褒美だ! とでも言う気だったんですか? そんなに自信があったんですか!?」
「ちちちち、ちが……! それは、違――! そそ、そうではなく、そ、そうではなく!」
泣きそうな顔のダクネスを、めぐみんがズルズルと部屋の外へと引っ張りながら。
「私とカズマの情事を盗み見ているうちに自分も盛り上がってきてしまい、あんな姿勢になっていたんでしょう! なんてエロいんでしょうかこの娘は! ほら、いつまでも盛ってないで部屋に帰りますよ!」
「待ってくれ、私が居るのを分かっていながら行為をしようとしためぐみんの方が、絶対エロい! ああああ、ちょっと私にも言い訳させて……!」
めぐみんに手を引かれながら、ダクネスは部屋から連れ出されて行ってしまった。
えっと……。
俺は、この昂った気持ちをどうすれば……。
翌朝。
俺達三人は、乗合馬車の待合所に集まっていた。
そして俺達の目の前には、数多くの冒険者が並んでいる。
「よし。それじゃカズマ、スキルを覚える用意は良いか?」
チンピラAが、冒険者の中から前に出て、俺に剣を突きつけてきた。
俺をイジメようと言うのではない。
これから、俺にスキルを教えてくれるのだ。
冒険者の中には、チンピラAの他にもテイラーやキースにリーン、その他、見知った面々が並んでいる。
「どうしましたカズマ? ぼーっとして。それじゃ怪我しますよ?」
「あ、ああ。悪い」
俺は、めぐみん達よりも早く家を出て、長く家を留守にするという事で、相変わらず朝早く鳴く忌々しい鶏肉を、バニル達の店へと預けに行ったのだが。
その時、屋敷を出てふと振り向いた際、変なものを見たのだ。
こちらに、まるでいってらっしゃいとでも言うかの様に、二階のバルコニーで手を振る少女を。
以前アクアが言っていた、この屋敷に居るという貴族の少女の霊だったのだろうか。
目を擦って見直した時には、既にその姿は無かったのだが。
しかし、それを見ても、不思議と恐怖や不快感は湧いては来なかった。
ということで、ずっとその少女の事を考えていたのだが。
「大丈夫かあ? 頼むぜ、魔王の奴をぶっ殺しに行くんだろ?」
「違う、アクアを連れ戻しに行くだけだから!」
チンピラAの言葉に言い返していると、めぐみんとダクネスが、はいはいと、俺を子供の様にあやしてくる。
こいつら二人は魔王と戦う気満々だからな。
俺としては、魔王と戦うのは最終手段だと考えている。
まあ、先ほどウィズの店にゼル帝を預けに行った際、最終手段を取った時の為の準備もして来たのだが。
「一体何を買って来たのですか? また随分と大荷物ですが」
「これは、使わなければそれに越した事はない、超高級な品々だよ。……よし、それじゃダスト! 一つ頼む!」
背負っていた荷物を下ろすと、俺は剣を引き抜き、スキルを教えてもらうべくチンピラAと正面から対峙した。
「そろそろ時間でーす! 温泉街ドリス行きの馬車が出ます、お乗りの方はお早めにー!」
御者の声に、俺達は馬車に荷物を積む。
俺とめぐみんが荷物を乗せる中、ダクネスは――
「……ところで、さっきから気になってたんだけども。お前、鎧はどうした?」
俺の質問に、大剣を背負い、薄着な私服姿のダクネスは、大事そうに抱きかかえていた荷物を、どや顔で自慢気にぽんと叩く。
「この中だ」
…………。
「いや、これから旅するんだから、ちゃんと着ろよ」
「何を言ってるんだお前は。そんな事をして、せっかくの鎧に傷が付いたり汚れたりしたらどうする」
「お前こそ何を言ってるんだ」
どうやら、ダクネスはよほど鎧が気に入ったらしい。
鎧を抱きかかえて離そうとしないダクネスは放っておき、俺は、見送ってくれている冒険者達に振り返った。
「それじゃあ、ちょっとあのバカ連れ戻してくるわ!」
俺のその言葉に。
「おう、行ってこい行ってこい! ついでに魔王も倒して来い!」
「アクアのねーちゃんの事だから、とんでもない方向へ行って迷子になってるかも知れないからな! あちこち隈なく探せよー!」
「ねー! お土産、期待してるからー!」
「街は任せとけ。なんせこの街には、産まれたばかりのガキと可愛い嫁さんがいるんだ。絶対に守るぜ!」
冒険者達が、思い思いに頼もしい言葉を――
今、最後に不穏な事言ってたのは誰だ。
「ダクネス、いい加減に鎧を着て下さい! 防御力の問題もありますし、それに、そこまで自慢気に大事にされていると、何も貰っていない自分的に、ちょっとイラッと来ます!」
「ちゃんと危険な地域に入ったら鎧を着るから、それでいいだろう! 私の防御力ならば、この辺のモンスターに遅れを取ったりはしない!」
馬車の上では、そんな馬鹿な事を言い合っている仲間達。
俺は今から、この頼りない二人と共に、この世界で最も危険な地域へと旅しに行くのか。
どうしよう、出発前から既に心が折れそうだ。
「おいカズマ! その剣は、街で売ってる中で最高級品ってだけの、なんの魔法も掛かってないただの店売りだろ? これを持ってけ!」
チンピラA――改めダストが、自分の剣を馬車の上の俺に放り投げた。
なにこいつカッコイイ。
こんな奴だっけ。
「それは、一応魔法が掛かっている武器だ。特定の職業しか装備出来ない、伝説級の武器って訳でもないからお前にだって使えるだろ。魔王を倒したら、そいつをちゃんと返しに来いよ」
ダストが、そんな男前な事を言い出した。
おいマジかよ、この男への評価を変えないといけないのか……!?
「なるほどねー。万が一、カズマがそれで魔王を倒しちゃったら、その武器にはすんごいプレミア付くもんねー。勇者が使った武器、とか。カズマー、それってダンジョンに転がってた冒険者の死体から、ダストが剥いでいった物だから、返さなくていいからねー」
「てめえリーン! 俺の壮大な一獲千金計画を邪魔すんなよ!」
ほらこんなもん。
だが、逆に安心した。
どうしようもない連中しかいないこの街だが、俺は案外、この街が嫌いじゃないらしい。
そして、なぜかこの街のマスコット的存在として好かれているアクア。
そんなあいつを連れて帰れば、このろくでもない世界でも、結構楽しくやっていける。
そんな気がする。
俺は、リーンを追いかけ始めたチンピラを、苦笑しつつ横目で見ながら。
「行くぞー!!」
俺達を乗せた馬車は、澄み切った青空の下。まだ見ぬ世界へと旅立った……!
主人公達の冒険はこれからだ!
こんな引きですが、ちゃんと来週も続きます。
なんか打ち切りのラストみたい。
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