社説:秘密保護法案参院審議を問う 前知事の懸念

毎日新聞 2013年12月04日 02時32分

 ◇危機情報を共有できぬ

 特定秘密保護法案は地方自治体にとってはどうなのか。外交、安保、テロ、スパイ対策という国家の業務だからほとんど関係ないのか。

 「そんなことありません。自治の現場を知る者からするととても賛成できない」というのが、みんなの党の参院議員、寺田典城氏(73)だ。

 寺田氏は、秋田県横手市長を2期、同県知事を3期つとめ、市長時代は役人の反対を押し切り同県の市では初めての情報公開条例を制定、知事時代は食糧費の不正問題などで積極的に情報公開につとめてきた。役人の情報隠し体質を知りつくし、情報公開が結果的に行政への信頼を回復し、行政をやりやすくすることを実体験してきた。

 国家機密と保護法制は認める立場である。だが、今回の法案の雑な作りと短期の臨時国会で押し通そうという動きには不信感を抱いている。と同時に、知事を経験した実務的立場から、この法案が国民保護法との兼ね合いでうまく運用されるか、強い懸念を持っている。

 国民保護法(2004年成立)は、万一の武力攻撃や大規模テロに備える武力攻撃事態法など有事3法(03年成立)を受け、危機下の住民を守るための仕組みを定めたものだ。初動対応として、知事が国、警察、消防、自衛隊と情報を共有し、警戒区域の設定、警報の通知、緊急避難の発令、避難の指示、誘導、救援措置を取ることになっている。

 だが、特定秘密保護法が施行されると、特定秘密に指定された事項は、県警本部長のところで情報が止まり、自衛隊への出動要請を含め実際に行政指示をくだす知事の元に、正確、迅速な情報が伝わってこない恐れがある、というのだ。

 寺田氏の懸念に、政府側は「住民にかかわる情報については指定を解除して速やかに提供することを考えている」(11月19日参院国家安全保障特別委での鈴木良之内閣情報調査室審議官)と答弁したが、寺田氏の現場感覚からすると、緊急時にすぐ解除できるか疑問だ。

 この問題が国、地方間で事前にきちんと調整されたかについては、「地方との打ち合わせはしておりません」(同5日参院内閣委での森雅子特定秘密保護法案担当相)との答弁にあきれた、という。

 みんなの党は与党との修正協議で衆院で賛成、3人が造反した。参院はどうなるのか。寺田氏は「徒党は組みませんが、(採決になれば)反対します」。なぜこの法案への疑問が尽きないのか。国会議員一人一人が熟慮し政治生命をかける局面だ。

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