クラウドファンディング市場、相変わらず盛り上がっているようで、サイバーエージェントやら電通やらと、新しいプレーヤーが続々と参入してきています。
そのなかでも異色を放つ「日本クラウド証券」。ここは「投資型(株式型、エクイティ型)クラウドファンディング」「貸付型クラウドファンディング」という領域を攻めるプレーヤーらしいです。…エクイティ?貸付?投資?金融素人のぼくにはチンプンカンプントンチンカンなので、直接聞きにいってみました。
クラウドファンディングを大別する
まず、クラウドファンディングは大別すると以下の5つに分けられます。
1 .購入型:Kickstarter, Readyfor?, Campfireなど
2. 寄付型:上記に加え、Crowdrise、Justgivingなど
3. 貸付型:いわゆる「P2Pレンディング」「ソーシャルレンディング」。Googleも出資するLending Club、日本ではmaneo、AQUSH、(日本クラウド証券の「CrowdBank」)
4. ファンド型:セキュリテ
5. 投資(エクイティ)型:Crowdcube、CircleUp、日本クラウド証券
この中で、大前さんたちが重点的に攻めていこうと考えているのが「3」と「5」。言葉とサービス事例だけ見てもわからないと思いますので、解説をスタート。
「エクイティ型」クラウドファンディングとは何か?
エクイティ型クラウドファンディングは、企業の創業期や、新規事業の立ち上げなどに用いられる資金調達の選択肢です。エクイティという言葉にあるように、株式を出資者に分配し、資金を調達するかたちを取ります。ベンチャーキャピタル、特にシードマネーを提供する「インキュベーター」の代替に用いるイメージですね。
出資した株主は、その企業を応援したいという思いの実践に加えて、その企業の上場益、買収によるキャピタルゲインをリターンとして得ることを狙います。ただ、「キャピタルゲインを目指すぜオラオラ」というよりは、色合いとしては「応援」のニュアンスが強く、「いわゆるエンジェル投資に近いのではないか(大前さん)」とのこと。
世界では、たとえばCrowdcubeという事業者が存在します。このプラットフォームでは、現在1200万英ポンド、日本円で18億円を59の企業が調達しています(投資家数は47,000人)。1案件あたり約3,000万円の出資を集めていることになりますね。
こちらの会社は190万英ポンド、つまり3億円近く調達しています。日本ではどのように市場が立ち上がるかはわかりませんが、購入型、寄付型に比べると調達額が大きくなる傾向がありそうです。
投資型クラウドファンディングについては安倍内閣もリスクマネーの供給源として期待しており、積極的に議論が進められています。アメリカではオバマ政権がすでに法制度化しているので、日本においても早期に制度として確立される見込みです。
麻生太郎金融相は同日の金融審議会で「新規企業や成長企業に金融面から支援する必要がある」と述べ、新しい資金調達の仕組みを諮問した。
金融庁は金融審での議論を経て、来年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針だ。
金融庁が検討するのは、「クラウド・ファンディング」と呼ばれる手法。ベンチャー企業には優れた技術やアイデアを持っているものの、資金不足で事業が軌道にのらないケースが多く、資金調達の仕組みを整備して、企業の育成や成長を後押しする。
クラウドファンディング推進へ法改正へ 金融審で諮問 - ITmedia ニュース
規制緩和が進めば、クラウドファンディングで創業、新規事業に向けた資金調達をする企業が増えていくことが予見されます。
エクイティ型クラウドファンディングは金融商品取引法に則って運営される必要があり、現時点での参入障壁はかなり高いです。みなさんがやろうと思っても、人材やら免許やらの問題で、おそらく困難でしょう(証券会社を買収する、とかでもないかぎり)。
そんなわけで、クラウドファンディングによるリスクマネーの供給を増やしていくために、現在事業者の参入ハードルを下げるべきではないか、という議論がなされているそうです。
ただし、非上場銘柄という性質上、エクイティ型クラウドファンディングにはリスクやトラブルも懸念されます。実際、非上場銘柄に関連した詐欺事件って、たびたび報道されていますよね。規制緩和によって参入障壁が下がれば、それだけトラブルの危険が高まることも想定されます。
こうした問題については、現段階では「出資金額に上限を設ける」「業界団体でルールを作る」といった議論が進んでいます。今現在、リアルタイムで詳細な議論が進められている状態なので、今後の動向に注目していきたいところです。
日本クラウド証券はすでにエクイティ型の投資を一件動かしています。半沢直樹じゃありませんが、日本クラウド証券は金融庁のチェックのもと、こうした案件を進めているとのこと(ドラマと違い、金融庁は協力的だそうです。金融庁の方も期待しているのでしょう)。
雑誌流通の春うららかな書房(東京・中央)はインターネットを活用した「クラウドファンディング」で株式を募集する。フェイスブックや動画共有サイト「ユーチューブ」経由で低コストで個人投資家を募る。約5000万円を調達して、新規顧客の開拓に充てる。
春うららかな書房がクラウドファンディング ネットで資金調達 :日本経済新聞
「ファンド型」のクラウドファンディング
関連して、「ファンド型」のクラウドファンディング(ややこしい…)にも注目が集まりつつあります。基本的にはエクイティ型と同様の仕組み、利用用途なのですが、こちらは資金調達をする企業側に、より大きなメリットがあります。
エクイティ型のクラウドファンディングの問題点の一つは、株主数が多くなってしまうことです。たとえば先ほど見たCrowdcubeを見ると、企業によっては、非上場であるにも関わらず株主が数百人いる、という状態になっています。株主が多いと、彼らに対するコミュニケーションのコストの問題や、株主に変な人が紛れ込む可能性が出てきてしまうのです(ゆえに、エクイティ型クラウドファンディングにおいては「出資者」に対しても審査が行われます)。
実際、株主が多い企業については、ベンチャーキャピタルが出資をためらうこともあるようです。ケースバイケースではありますが、起業資金をエクイティ型クラウドファンディングで集めてしまうと、後の調達のハードルになる可能性がある、ということです。
ファンドを組成する場合は、株主はファンドひとつで収まります。上記で指摘した問題は、かなり改善されうるわけです。ファンド型に関してはプレーヤーが稀少ですが、こちらに関しても参入障壁を下げ、どうトラブルを防ぐかについて、議論が進められているそうです。
「貸付型」クラウドファンディングとは何か?
以上がエクイティ型とファンド型の説明。もうひとつ重要な領域がありまして、それが「貸付型(レンディング型)」のクラウドファンディングです。日本クラウド証券も、近日リリース予定の「クラウドバンク」でこちらに参入する予定です。
「貸付型」というと言葉のイメージがなんかダークな気がしますが、要するに「融資」です。エクイティ型の場合は株式を差し出す代わりに資金を手に入れる、というアプローチでしたが、「貸付型」は株式を差し出すのではなく、普通に人々からお金を「借りる」アプローチです。
持ち株比率が下がることは一般によくないことですから、企業のフェーズやビジネスモデルによっては、エクイティ型よりも「貸付型」の方が相性がいいケースがあります。
こうした「貸付」に関しては、実はすでに先行する企業が多数存在します。一昔前にごく一部で流行った言葉で「P2Pファンディング」「ソーシャルレンディング」というものがありましたが、これらのサービスもざっくりと「貸付型のクラウドファンディング」に括ることができます。
順番的には元々「P2Pファンディング」「ソーシャルレンディング」と呼ばれていたものが、時代の流れで「貸付型クラウドファンディング」と呼ばれるようになったそうです。そういう意味では、購入型や寄付型よりも、幾分歴史が古いものです。
そんなわけで「貸付型クラウドファンディング」はすでに市場規模として巨大になっておりまして、2013年の「THE CROWDFUNDIG INDUSTRY REPORT」によれば、市場全体の41%を占めるまでに至っているそうな。実際、「貸付型クラウドファンディング」大手のLendingClubは、すでに20億ドル(2,000億円)のローンを運用しているというから驚きです。日本の大手クラウドファンディングサイトのトランザクションは、年間でも5億円程度ですから桁違いです。
エクイティ型に比べて貸付型は、金利というかたちでリターンが得られるのが特徴的です。直感的には、エクイティ型よりも「わかりやすい」金融商品といえますね。
「貸付型クラウドファンディング」は、一般にウェブをベースにしているため、店舗コスト、営業コストなどを減らすことができ、高い金利で資産運用することができます。古株のmaneoの場合は年率5〜8%というから、その高さには驚かされます。ちょっと試してみようかな…。
個人投資家をエンパワーメントする
大前さんが語っていて印象的だったのが、「通常、クラウドファンディングは『資金の貰い手』のエンパワーメントという文脈で語られますが、私たちは『資金の出し手』のエンパワーメントにも意識を向けています」というお話。
資金余力の小さい個人投資家が購入できる金融商品は、言うまでもなくかぎられます。たとえばぼくがワンルームマンションやアパートやマンションを買って、不動産投資をするのは、金銭的にどう考えても無理なわけです。
が、クラウドファンディング形式で拠出すれば、たとえば3万円からでも不動産投資や、ベンチャーに対するエンジェル投資をすることが可能になります。資金提供者にとって、大きく選択肢が広がることになるわけですね。
クラウドファンディングのムーブメントは、エクイティ型、ファンド型、貸付型というあらたなアプローチによって、さらに躍進していくでしょう。資金調達の選択肢だけでなく、投資の選択肢も増えていく未来。健全なかたちで促進していきたいですね。
取材協力は、日本クラウド証券代表のKaz Ohmaeさん。フェイスブックの写真がイケてます。ありがとうございました!