社説:特定秘密保護法成立 民主主義を後退させぬ
毎日新聞 2013年12月07日 02時30分(最終更新 12月07日 16時29分)
防衛、外交分野だけでなく、スパイ活動防止とテロ活動防止に関する捜査や調査の情報も特定秘密の対象になるため、公安警察の監視活動が大手を振ってまかり通り、歯止めが利かなくなる恐れもある。それは監視社会の到来を招き、市民生活を息苦しいものにするだろう。
特定秘密を取り扱う公務員らには漏えいによって最高懲役10年という厳罰が科され、未遂やうっかり紛失するような過失も罰せられる。このため、報道機関などとの接触が萎縮することは確実だ。指定された特定秘密の中身に疑問を感じた公務員がいても、内部告発に踏み切ることは極めて困難になる。
これほどの強い副作用をもたらす法律が施行されれば、私たちの社会は大きく変容してしまうだろう。
◇民意を問うべきだ
特定秘密保護法は1年以内に施行される見通しだ。その前に、副作用を少しでも減らすための方策を講じなければならない。
まず、情報公開のルールを確立することが先決だ。法案の修正で、特定秘密の指定期間が原則30年までと明記はされたが、内閣の承認があれば60年まで延長でき、しかも政令などで定める要件に合えばさらに延長が可能になる。これでは永久に秘密のままにされる可能性がある。
そもそも、特定秘密が指定期間満了や指定解除となっても、それが公開に結びつく制度になっていない。国立公文書館に移管され、利用者の請求で公開される場合も想定されるが、大量に廃棄される懸念がある。どんな秘密もいずれは公開されるという明確なルールがあれば、行政側もいいかげんな指定はできず、公務員も歴史に堪えうる仕事をこなさなければとの責任感が増すはずだ。早急に公開の仕組みを整えるべきだ。
指定の妥当性をチェックする機関も創設されるのか不透明だ。恣意的な指定を防ぐには監視機関の独立性と強い権限が担保される必要があり、それには法制化が不可欠だ。施行までに実現してもらわねば困る。
しかし、こうした補強をいくら施したとしても、民主主義に反する制度を根本から変えることは不可能だと私たちは考える。国家機密を守るには、現行法の厳格な適用と情報セキュリティーの強化で十分対応が可能なはずだ。特定秘密保護法は廃止か全面的な見直しを求めたい。
もともと選挙公約には上らなかった法律だ。日に日に国民から反対意見が強まった。政府・与党の横暴を忘れてはならない。民主主義を後退させないために、来たるべき国政選挙で民意を問うべきだ。