HOME > ジャーナリズム > 日本版NSCは“スパイ天国”日本を救うか!?
“スパイ天国”日本に国家安全保障会議設置 CIA機能もない、体裁だけの機関
日本にも国家安全保障会議(NSC:National Security Council)が創設されることになりそうだ。
安倍晋三首相は外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSCを創設するための関連法案を6月7日に閣議決定した。骨格は、首相、外相、防衛相、官房長官による「4大臣会合」を常設し、内閣官房内に「国家安全保障局」を設置する。
日本版NSCの4大臣会合は月に2回程度、定期的に開催。さらに、4大臣会合に加え、総務相、財務相、国土交通相、経済産業相、国家公安委員長を加え、「9大臣会合」も設置する。
安倍首相は第1次安倍内閣時代の2007年に日本版NSCの創設のため、NSC創設法案を国会に提出したが、廃案となった。その後、自民党から民主党への政権交代が起こり、安倍首相の日本版NSC構想は挫折したかに見えた。
政権を奪取した民主党も、日本版NSCの創設を検討した。外交安全保障調査会NSC・インテリジェンス分科会が作られ、その報告書では日本版NSCの創設が提言されたが、創設が実現することはなかった。
安倍首相の日本版NSC構想のベースとなっているのは、米国のホワイトハウスがモデルとなっている。米NSCの法定メンバーは、大統領が議長となり、副大統領、国務長官、国防長官で構成されている。法定アドバイザーは統合幕僚長、国家情報官が就き、国家安全保障担当補佐官、財務長官なども非法定メンバーとして出席することがある。
なんといっても、その特徴はNSCの設置と共に、国家安全保障に関する各機関の情報活動を調整するため、中央情報局(CIA:Central Intelligence Agency)が設置され、NSCの指示の下に置かれたこと。
さらに、NSCの中には、CIA長官、国務長官、国家安全保障問題担当大統領補佐官および大統領が認めるメンバーにより構成される「対外インテリジェンス委員会」がある。つまり、米国のNSCはインテリジェンス(諜報・情報)活動を非常に重要視しているということだ。
一方で、安倍政権が創設を決めた日本版NSCでは、機密情報の収集機能を持つことはなく、情報分析機能のみを有するものとする方針にある。“スパイ天国”と世界から揶揄される日本は、インテリジェンス機能自体が劣っている。
唯一の情報収集機関と言われる「内閣官房内閣情報調査室(CIRO:Cabinet Intelligence and Research Office)」にしても、インテリジェンス能力としては米CIAとは比べものにならない程度でしかない。情報収集活動といっても名ばかりの程度で、基本的には情報分析が中心となっている。
「日本版NSCが創設された場合には、内閣情報調査室の一部機能がNSCに移る可能性があるが、基本的には情報分析部門という点で、日本のインテリジェンス機能が大きく向上することはない」(内閣情報調査室関係者)という。
もっとも、諜報・調査活動を本格的に行おうとすれば、その予算は膨大なものになる。米国のCIAを含む16の情報機関の年間予算は約750億ドル(約7兆5000億円)で、CIAだけで1兆円を超える予算が使われていると言われる。
こうした点も含めれば、安倍首相が創設しようとしている日本版NSCは、体裁だけを整えたもので、内容的にはおおよそNSCなどと名乗るのはおこがましいものでしかない。日本版NSCが創設されたからといって、日本の安全保障能力が向上するというようなものではないことだけは確かなようだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)
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