日本ファンタジーノベル大賞



第十五回日本ファンタジーノベル大賞


第15回「日本ファンタジーノベル大賞」の選考会は、荒俣宏、井上ひさし、小谷真理、椎名誠、鈴木光司の五委員により、平成15年7月30日、東京・千代田区のクラブ関東において開かれました。
その結果、全応募作品484篇から選ばれた下記最終候補作品4篇のうち、下の作品が大賞および優秀賞に決まりました。




受賞作品


大賞

「太陽の塔/ピレネーの城」 森見登美彦
(「太陽の塔」に改題)


受賞者略歴


森見登美彦(もりみ・とみひこ)
1979年奈良県生駒市生まれ。京都大学農学部生物機能科学学科応用生命科学コースを卒業。現在、同大学農学部大学院で地域環境科学森林生化学研究室に在籍。



受賞のことば


学友たちと右往左往しながら、鼻から垂れるほど溜め込んだ妄想を、怨念を込めて紙に刻みつけたところ、このようにりっぱな賞をいただけることになったが、もしやこうして受賞したということも私の妄想ではないのか、学友たちともてあそんできたあのヘンテコな妄想の続きではないのかと、今もなお腹の底では疑ってしまう。そんな不安で千々に乱れそうになる心を抑え、今日も私は毅然と顎を上げ、夏も盛りの古都で己が文の向上に一意専心、あくまで禁欲的に孤高の地点に踏ん張りつつ、今もおおむね、愛に飢えている。



優秀賞

「象の棲む街」 渡辺球


受賞者略歴


渡辺 球(わたなべ・きゅう)
1967年千葉県流山市生まれ。学習院大学法学部法学科卒。コンピュータ会社勤務を経て、現在は団体機関に勤務。



受賞のことば


誰に読まれるあてもない小説を一人で書いていると、音も光もない闇の中をさまよっているような気持ちになることがあります。まず進むべき方向がわからなくなり、やがて前に進んでいるかどうかさえ定かでなくなります。そんなとき、不安が書く楽しみに勝ってしまいます。
今回の受賞は私の前方に一筋の光明を示してくれました。しかし今後もそこに向かって歩き続ければいいかというと、必ずしもそうではないように思えます。現実世界が多様であるように、小説の書き方もまた多様であるからです。そして人間の想像力が無限であるように、小説が表現できる世界もまた無限です。その無限の世界にこれから深く足を踏み込んでいければ、幸いです。



選評


荒俣宏  井上ひさし  小谷真理  椎名誠  鈴木光司



候補作品


象の棲む街 渡辺球
ラビット審判 彼岡淳
太陽の塔/ピレネーの城

※「太陽の塔」に改題
森見登美彦
影舞 小田紀章

選考委員


荒俣宏 アラマタ・ヒロシ

1947(昭和22)年、東京都生れ。作家、翻訳家、博物学・幻想文学・神秘学研究家、風水師。慶應義塾大学法学部卒業後、日魯漁業に入社。コンピュータ・プログラマーとしてサラリーマン生活を送るかたわら、雑誌「幻想と怪奇」を編集。英米幻想文学の翻訳・評論と神秘学研究を続ける。1987年、『帝都物語』で日本SF大賞を受賞。1989年、『世界大博物図鑑第2巻・魚類』でサントリー学芸賞受賞。テレビのコメンテーターなどとしても活躍中。



井上ひさし イノウエ・ヒサシ

(1934-2010)山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『腹鼓記』、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、2009年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った。



小谷真理 コタニ・マリ

1958(昭和33)年、富山県生れ。評論家。フェミニズム的な観点に基づくSF・ファンタジー評論の第一人者として活発な活動を続けている。1992年、共訳書『サイボーグ・フェミニズム』で第2回日本翻訳大賞思想部門受賞。1994年、『女性状無意識―女性SF論序説―』で第15回日本SF大賞受賞。近著に『テクノゴシック』『星のカギ、魔法の小箱―小谷真理のファンタジー&SF案内―』などがある。



椎名誠 シイナ・マコト

1944(昭和19)年、東京生れ。作家、写真家。私小説、SF小説、随筆、紀行文、写真集など、幅広く作品を手がける。『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。著書に、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』などの自伝的小説、『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』などのSF作品、「わしらは怪しい探険隊」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズなどの紀行エッセイ、『全日本食えば食える図鑑』『国境越え』などの写文集が多数。近著に『三匹のかいじゅう』がある。



鈴木光司 スズキ・コウジ

1957(昭和32)年、静岡県浜松市生れ。1990(平成2)年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。1991年に刊行された『リング』が圧倒的に支持され、その続編『らせん』で吉川英治文学新人賞を受賞。二作に続く『ループ』『バースデイ』シリーズの他に『仄暗い水の底から』『生と死の幻想』『家族の絆』『シーズ ザ デイ』『神々のプロムナード』などがある。



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