日本ファンタジーノベル大賞



第二十回日本ファンタジーノベル大賞


第20回「日本ファンタジーノベル大賞」の選考会は、井上ひさし、荒俣宏、小谷真理、椎名誠、鈴木光司の五委員により、平成20年7月31日、東京・千代田区のクラブ関東において開かれました。その結果、全応募作646篇から選ばれた下記最終候補作4篇のうち、下の作品が大賞および優秀賞に決まりました。両作品は11月に小社より刊行される予定です。



受賞作品


大賞

「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」 中村弦
(「天界の都 ある建築家をめぐる物語」を改題)


受賞者略歴


中村 弦(なかむら・げん)
1962年11月19日東京生まれ。國學院大學文学部卒業。現在、会社員。



受賞のことば


最近は描かなくなりましたが、学生時代にはよく絵を描きました。そのせいか現在ワープロソフトで小説を書くときにも、まず構図を決めて下書きし、それから徐々に肉付けして細かい部分を整えていくというように、絵を描くのと同じ要領で書いているなと自分で感じることがあります。言葉という画材によって物語の絵肌が出来上がっていくのを眺めるひと時は、本当に心が躍る幸せな時間です。
そうした物語を「描く」愉しみにくわえて、この度の思いがけない受賞では、さらに別の大きな喜びを手にすることができました。本賞の主催・後援の各社の皆様、選考委員の諸先生方、そして関係者の方々に心よりお礼を申しあげます。ありがとうございました。




優秀賞

「彼女の知らない彼女」 里見蘭


受賞者略歴


里見 蘭(さとみ・らん)
1969年5月6日東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。現在、小説家。



受賞のことば


過ぎ去った出来事は変えようがないけれど、未来は、たった今この瞬間から、自分の手で作ってゆくことができる。テーマも手法もシンプルでストレートなこの作品は、歴史ある本賞の「傾向と対策」を考慮するなら、正直、入選は難しいかもしれないと思っていました。
それでも応募したのは、作品の生命力を信じたからです。でも、過去に二度落選したこの賞で最終選考に残った時点で、満足している自分もいました。優秀賞の受賞は、やはり望外の成果です。
主人公が自分の限界にチャレンジするこの物語でそのような栄誉を賜り、身の引き締まるような喜びとともに、小説家としての自分が目指すべき未来の指針を与えられたようにも感じています。



選評


荒俣宏  井上ひさし  小谷真理  椎名誠  鈴木光司



候補作品


天界の都 ある建築家をめぐる物語

※「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」に改題
中村弦
龍守の末裔 真山遥
イデアル 松崎祐
彼女の知らない彼女 里見蘭

選考委員


荒俣宏 アラマタ・ヒロシ

1947(昭和22)年、東京都生れ。作家、翻訳家、博物学・幻想文学・神秘学研究家、風水師。慶應義塾大学法学部卒業後、日魯漁業に入社。コンピュータ・プログラマーとしてサラリーマン生活を送るかたわら、雑誌「幻想と怪奇」を編集。英米幻想文学の翻訳・評論と神秘学研究を続ける。1987年、『帝都物語』で日本SF大賞を受賞。1989年、『世界大博物図鑑第2巻・魚類』でサントリー学芸賞受賞。テレビのコメンテーターなどとしても活躍中。



井上ひさし イノウエ・ヒサシ

(1934-2010)山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『腹鼓記』、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、2009年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った。



小谷真理 コタニ・マリ

1958(昭和33)年、富山県生れ。評論家。フェミニズム的な観点に基づくSF・ファンタジー評論の第一人者として活発な活動を続けている。1992年、共訳書『サイボーグ・フェミニズム』で第2回日本翻訳大賞思想部門受賞。1994年、『女性状無意識―女性SF論序説―』で第15回日本SF大賞受賞。近著に『テクノゴシック』『星のカギ、魔法の小箱―小谷真理のファンタジー&SF案内―』などがある。



椎名誠 シイナ・マコト

1944(昭和19)年、東京生れ。作家、写真家。私小説、SF小説、随筆、紀行文、写真集など、幅広く作品を手がける。『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。著書に、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』などの自伝的小説、『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』などのSF作品、「わしらは怪しい探険隊」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズなどの紀行エッセイ、『全日本食えば食える図鑑』『国境越え』などの写文集が多数。近著に『三匹のかいじゅう』がある。



鈴木光司 スズキ・コウジ

1957(昭和32)年、静岡県浜松市生れ。1990(平成2)年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。1991年に刊行された『リング』が圧倒的に支持され、その続編『らせん』で吉川英治文学新人賞を受賞。二作に続く『ループ』『バースデイ』シリーズの他に『仄暗い水の底から』『生と死の幻想』『家族の絆』『シーズ ザ デイ』『神々のプロムナード』などがある。



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