日本ファンタジーノベル大賞



第二十一回日本ファンタジーノベル大賞


第21回「日本ファンタジーノベル大賞」の選考会は、荒俣宏、井上ひさし、小谷真理、椎名誠、鈴木光司の五委員により、平成21年7月29日、東京・千代田区のクラブ関東において開かれました。その結果、全応募作652篇から選ばれた下記最終候補作5篇のうち、下の2作品が大賞に決まりました。両作品は11月に小社より刊行される予定です。



受賞作品


大賞

「月桃夜」 遠田潤子


受賞者略歴


遠田潤子(とおだ・じゅんこ)
1966(昭和41)年、大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。現在、大阪府在住。



受賞のことば


小説を書くということは大きな歓びであると同時に、すくなからず苦痛を伴うことでもあります。それでも書き続けてこれたのは、すこしでも「よいもの」を生みたい、との思いがあるからです。ですが「よいもの」とは一体なんなのか、私にはわかりません。きっとどこかに存在するはずの「よいもの」を求め続けることこそが、書くということなのだと感じています。今回、伝統ある賞を頂けることになり、望外の幸運に感謝する一方、作品を世に出す責任と恐れを痛感しています。すこしでも「よいもの」に近づけるよう、これからも精進したいと思います。最後になりましたが、お世話になりました皆さまがたに、この場を借りて心からの御礼を申し上げます。



大賞

「増大派に告ぐ」 小田雅久仁


受賞者略歴


小田雅久仁(おだ・まさくに)
1974(昭和49)年、宮城県仙台市生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。現在、大阪府豊中市在住。



受賞のことば


なぜ作り話をわざわざ他人の頭にねじこもうとするのか、自分でも疑問に思うことがあります。小説によって真実を語りたいとか何かを伝えたいとか誰かが言うのを聞いたとしても、そんな言葉は僕には信じられませんから、きっと僕自身もそんなことのために書くのではないと思います。小説を書くことで自分の能力を自他に証明したいのだろうかとか、鬱積したものを小説として排泄したがっているのだろうかとか、小説という小宇宙の創造主になりたいのだろうかとか、様々なことを考えますが、どれもあまりに個人的で卑小な答えで、しっくりきません。きっと小説は僕の思惑を遥かに超えて巨大なものなのだろうと思います。振り落とされませんように。


選評


荒俣宏  井上ひさし  小谷真理  椎名誠  鈴木光司



候補作品


鯨が飛ぶ夜 山田港
月桃夜 遠田潤子
増大派に告ぐ 小田雅久仁
私小説 佐藤千
化鳥繚乱 塵野烏炉

選考委員


荒俣宏 アラマタ・ヒロシ

1947(昭和22)年、東京都生れ。作家、翻訳家、博物学・幻想文学・神秘学研究家、風水師。慶應義塾大学法学部卒業後、日魯漁業に入社。コンピュータ・プログラマーとしてサラリーマン生活を送るかたわら、雑誌「幻想と怪奇」を編集。英米幻想文学の翻訳・評論と神秘学研究を続ける。1987年、『帝都物語』で日本SF大賞を受賞。1989年、『世界大博物図鑑第2巻・魚類』でサントリー学芸賞受賞。テレビのコメンテーターなどとしても活躍中。



井上ひさし イノウエ・ヒサシ

(1934-2010)山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『腹鼓記』、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、2009年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った。



小谷真理 コタニ・マリ

1958(昭和33)年、富山県生れ。評論家。フェミニズム的な観点に基づくSF・ファンタジー評論の第一人者として活発な活動を続けている。1992年、共訳書『サイボーグ・フェミニズム』で第2回日本翻訳大賞思想部門受賞。1994年、『女性状無意識―女性SF論序説―』で第15回日本SF大賞受賞。近著に『テクノゴシック』『星のカギ、魔法の小箱―小谷真理のファンタジー&SF案内―』などがある。



椎名誠 シイナ・マコト

1944(昭和19)年、東京生れ。作家、写真家。私小説、SF小説、随筆、紀行文、写真集など、幅広く作品を手がける。『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。著書に、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』などの自伝的小説、『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』などのSF作品、「わしらは怪しい探険隊」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズなどの紀行エッセイ、『全日本食えば食える図鑑』『国境越え』などの写文集が多数。近著に『三匹のかいじゅう』がある。



鈴木光司 スズキ・コウジ

1957(昭和32)年、静岡県浜松市生れ。1990(平成2)年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。1991年に刊行された『リング』が圧倒的に支持され、その続編『らせん』で吉川英治文学新人賞を受賞。二作に続く『ループ』『バースデイ』シリーズの他に『仄暗い水の底から』『生と死の幻想』『家族の絆』『シーズ ザ デイ』『神々のプロムナード』などがある。



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