広島、J1連覇の原動力とは…一貫した強化方針がベースに
なぜ予算的には中規模クラブに過ぎない広島がJリーグを連覇できたのか。その理由は複数あるだろうが、一つは「石原」だろう。正確には「石原のような選手」。より正確に言えば、「石原のような選手を獲ってきた強化部」こそが、連覇の原動力である。
石原は今季33試合に出場して10得点。佐藤寿人の個性を活かしつつ、自分も活かされるという職務を遂行し続けた。大宮からの移籍初年度だった昨季も「陰のMVP」と言われる働きぶりだったが、今季は佐藤がMVPを獲得した昨季ほどの活躍とはいかない中で(と言っても、FWとして及第点の結果は出しているが)、貴重な働きを見せ続けたシーズンだった。
大宮での石原は、いわゆる“スーパーサブ”。レギュラーとして稼働していた時期に日本代表の予備登録メンバーに入るほどのパフォーマンスを見せていただけに、内心で思うところはあったのだろう。広島移籍の経緯はそんなところに透けて見えるが、そういう選手を狙い撃てるのが、広島強化部の眼力である。
漠としたイメージとして「広島はユースから育てた選手が躍動して強くなった」というものがある。確かに森崎和幸、浩司、そして高萩洋次郎といったユース出身選手の存在なしに今回の連覇は語れまい。ただ、今季の出場時間上位11人のうち、ユース育ちは2人だけ(森崎和、高萩)。外国人助っ人が1人(ミキッチ)で、高卒から育てた選手が1人(青山敏弘)、残る8人が他のJクラブから補強してきた選手であった。
石原に象徴されるように、それらの選手はいずれも日本代表には引っ掛からないレベルの選手たち。入っても候補くらいか、あるいは「元代表」になってしまった選手たちである。たとえば、水本裕貴がそうだろう。また昨季はリベロの千葉和彦獲得が大当たり。千葉自身も東アジアカップの日本代表に選ばれるなど飛躍したが、決して高額の選手ではない。
今季は浦和へ移籍していった森脇良太の穴を、水戸から前年に獲得していた塩谷司が、単に埋めるだけでなく山を付け加えるような働きを見せたが、これも森脇がいなくなる可能性まで見据えての補強だった。加えて、すべてがリーズナブル選手狙いというわけではなく、J2降格時の大分から獲得した西川周作のような例では、ピンポイントでは資金も投入している。
日本人選手の技術的アベレージが向上し、代表に入っている選手と入っていない選手の差は小さくなった。ただ、「お値段」の差は結構ある。そういう時代感覚と広島の手法はよくマッチしているように思う。それも織田秀和強化部長が、経営陣の顔ぶれが変わっても強化部の主導権を握り続け、強化の方針が一貫しているからこそ。その間にJ2降格などを経ていることを思えば驚異的だが、そうでなければ数年先を見据えながらの補強策など、決してできはしない。
広島の成功は、選手が引き抜かれていく宿命にある中小クラブにとって大切なことが、「選手を引き抜かれないようにすること」ではなく、「いかにチームに合う優秀な選手を(できれば安く)引き抜いてくるか」であることを教えてくれている。
文●川端暁彦
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