機密情報を漏らした国家公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法が成立した。
国民の多くが不安や疑問を呈し、数々の問題点を指摘したが、政府・与党にとっては雑音でしかなかったようだ。衆院に続いて参院でも、政府は野党の追及を通り一遍の答弁でかわし、最後は「数の力」で押し切った。
再三にわたって指摘されたのは厳罰による国家秘密の囲い込みを考えてつくられた秘密保護法には、行政による恣意(しい)的な運用や秘密をチェックしたり、違法秘密や疑似秘密(当局者の保身のための秘密)を禁止したりする有効な仕組みがないことだ。
官僚に情報管理を全面的に委ね国会の監視も司法による抑制も厳しく制限されている。三権分立の均衡をゆがめ、行政の比重を高める秘密保護法が施行されれば国民の「知る権利」は確実に侵害される。いずれは憲法が保障する「表現の自由」や「基本的人権」との深刻な対立が表面化するだろう。
このままでは、戦後の日本に定着した民主主義の基盤が根底から崩れ去ってしまう恐れがある。これでは、国の安全と引き換えに失うものが大きすぎる。
■名ばかりの監視機関
国会審議では、公務員らが萎縮して情報公開に消極的になり「知る権利」や報道の自由が損なわれる懸念や、官僚による恣意的な指定をチェックする仕組み不足が指摘された。与党は日本維新の会とみんなの党との協議で、秘密指定に関して首相に「指揮監督権」を付与し、独立した監視機関設置の検討を付則に盛り込む修正案をまとめたが、法律の骨格は最終的に何も変わっていない。
参院審議終盤で安倍晋三首相は秘密指定などの妥当性をチェックする「保全監視委員会」と秘密指定の統一基準を策定する「情報保全諮問会議」を法施行までに設置すると表明した。両組織は政府内に置かれ、監視委員会は各省庁の事務次官級で構成されるという。
これでは本来の第三者機関からほど遠い。与野党の修正協議で明記された「独立した立場の監察機関設置の検討」は早くも骨抜きにされたと言ってよい。
米国の上下両院には特別委員会が設置され、中央情報局(CIA)などの政府機関や軍の情報収集を監視する。国立公文書館の情報保全局は行政監察と機密解除請求の権限を持つ。
だが、日本の秘密保護法は国会を蚊帳の外に置く仕組みだ。国会の秘密会は必要に応じて行政機関に特定秘密の提出を求めることができるが、行政機関の長が「安全保障に支障を及ぼす」と判断すれば、出さなくてよい。
裁判所も同様だ。漏えい事件で公務員らが裁かれる際に、漏えいした特定秘密が刑罰で守られる必要があるかどうかを判断する裁判官にさえ、その内容を見せなくて済むのである。
安全保障上の秘密が必要なことは多くの人が理解している。だがこうした問題点をこのままにしておくことはできまい。
■情報公開にも道筋を
強行採決で成立した特定秘密保護法は、国民の知る権利を侵害するという重大な懸念を残したまま1年後の法施行に向けて準備が進む。秘密指定に恣意的な運用を許さないことがなにより重要だ。
秘密指定の統一基準づくりには外部有識者なども参加する「情報保全諮問会議」があたる。統一基準には第三者の意見が反映される期待はあるが、見過ごせないのは実際に秘密を指定する行政機関の乱用である。
不都合な情報は何もかも秘密に指定する隠蔽(いんぺい)体質がまかり通れば、国民は何も知らされず、戦時下の窮屈な統制社会に逆戻りしかねない。行政による理不尽な秘密指定、情報隠しを監視する体制づくりを急がなければならない。
安倍晋三首相が急きょ提案した内閣官房の「保全監視委員会」も、続いて菅義偉官房長官が示した内閣府の「情報保全監察室」も、重層的なチェックが可能としながらいずれも行政内部の機関であり、いわば身内の組織である。
これらの監視機関について政府は有識者の意見も反映させて透明性を確保するというが、国民の知る権利を確保するための実効性ある役割を担えるのか疑問だ。外部の専門家などで構成する第三者機関とは違い、おのずと限界がある。そのため独立性と強い権限を持った監視機関が不可欠であり、それには法制化が必要だ。
加えて、情報公開制度の確立も急務だ。特定秘密の指定期間は内閣の承認で60年まで延長でき、条件次第でさらに延ばすことも可能だという。
指定期間が終了するか指定解除となって、国立公文書館に保管される秘密も行政の都合で廃棄されることもある。
これでは秘密のまま永久に国民の目に触れることのない情報があふれる社会になりかねない。一定期間が過ぎた秘密情報は原則公開するという情報公開法や公文書管理法の改正は喫緊の課題である。
つぎはぎだらけの急ごしらえの特定秘密保護法をすんなり施行させるわけにいかない。国会も国民も秘密指定の運用に厳しく目を光らせ、制度の欠陥を是正し法律を見直す努力を怠ってはならない。
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