【井上亮】韓国の自動車部品メーカーが、名古屋を拠点に、日本市場の開拓に力を入れている。母国市場が頭打ちで販路を海外に見いださざるを得ないためだ。日韓両国の関係悪化という逆風に負けず、駐在員はどぶ板営業を続ける。最終目標はトヨタ自動車との取引獲得だ。

 名古屋市中心部のオフィスビルに5月、韓国の部品メーカー8社が共同入居する営業所が開設された。多くは売上高が数十億円規模の中堅企業で、1社に割り当てられた個室の広さはわずか3畳分。ここを根城に、8人の駐在員が、日本各地の自動車メーカーへの営業に奔走している。

 8社とも韓国の自動車トップメーカーである現代自動車とは取引がある。しかし、裾野が広く、歴史もある日本の自動車産業界に食い込むのは容易ではない。

 ソウルの郊外に本社を置く「インジコントロールス」は、母国ではエンジン部品のレギュレーターで6割のシェアを持つ。王相珍(ワンサンジン)次長(40)は来日後、押しが強い「韓流」の営業スタイルを封印した。商談会で、口角泡を飛ばして自社の部品の特徴やセールスポイントを説明したが、成果が得られなかったためだ。

 今は相手が求めていることを探り、「何か足りない点があれば、教えてほしい」とひたすら低姿勢を貫く。愛知県豊田市のトヨタ自動車の本社に通い詰めて学んだのは、生産現場の安全重視の姿勢だ。工場内で作業員がけがをしないための具体策や過去のけがの発生データなど、欧米の車メーカーからは求められない詳細な情報も準備し、日々の営業に臨んでいる。