社説:秘密保護法案を問う ツワネ原則

毎日新聞 2013年11月25日 02時35分

 ◇世界の流れも知ろう

 国家機密の保護をめぐる規定は各国さまざまだが、一つの指針として今年6月にまとまった50項目の「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」が注目されている。国連関係者を含む70カ国以上の専門家500人以上が携わり、2年以上かけて作成された。発表の場が南アフリカの首都プレトリア近郊ツワネ地区だったため「ツワネ原則」と呼ばれる。人権問題などを協議する欧州評議会の議員会議が10月、この原則を支持する決議を採択した。

 ツワネ原則は、国家機密の必要性を認めながらも、国が持つ情報の公開原則とのバランスに配慮すべきだと勧告している。公開の規制対象は国防計画、兵器開発、情報機関の作戦や情報源などに限定し、(1)国際人権・人道法に反する情報は秘密にしてはならない(2)秘密指定の期限や公開請求手続きを定める(3)すべての情報にアクセスできる独立監視機関を置く(4)情報開示による公益が秘密保持による公益を上回る場合には内部告発者は保護される(5)メディアなど非公務員は処罰の対象外とする−−などを盛り込んだ。

 また、情報を秘密にする正当性を証明するのは政府の責務であり、秘密を漏らした公務員を行政処分にとどめず刑事訴追できるのは、情報が公になったことが国の安全に「現実的で特定できる重大な損害」を引き起こす危険性が大きい場合に限るとしている。

 日本の特定秘密保護法案をめぐる審議に、この新しい国際的議論の成果は反映されていない。

 法案の狙いである違反者への厳罰化も疑問だ。欧米では敵国に国家機密を渡すスパイ行為は厳罰だが、これに該当しない秘密漏えいの最高刑は英国が禁錮2年、ドイツが同5年までだ。日本の法案と同じ最高懲役10年の米国は、欧州諸国と比べて厳しすぎるとの指摘がある。

 欧米は近年、むしろ情報公開を重視する方向に進んでいる。米国では2010年、機密指定の有効性を厳格に評価する体制作りなどを定めた「過剰機密削減法」が成立した。秘密情報が増えすぎて処理能力を超えたことが逆に漏えいリスクを高めているという反省もある。また英国では3年前、秘密情報公開までの期間が30年から20年に短縮され、議会監視委員会の権限が今年から強化された。こうした世界の流れから日本は大きくはずれている。審議中の法案は廃案とし、国家機密保持と情報公開の公益性のバランスについて十分な議論を尽くすべきだ。

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