Loading…

開催経緯

(本文はRooftopに投稿された加藤梅造氏のテキストを転載したものです。)

 Naked Loftが新宿百人町に店を開いたのが約9年前。もともと新大久保〜百人町周辺は外国人の多い街だったが、韓流ブームなどの追い風もあり、今や一大コリアンタウンと呼ばれるようになった。休日はもちろん平日も多くの観光客がやってきて、韓流ショッピングやコリアン料理を楽しんでいる。
 そんな賑やかな観光スポット・新大久保で、昨年夏頃からレイシスト(排外主義者)達がいわゆる「反韓デモ」を行うようになった。
「新大久保を勝手にコリアンタウンにする在日を東京湾に叩き込め!」
「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮人を一匹残らず叩きつぶせ」
 こうした聞くに堪えない民族差別の「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」を拡声器で叫びながらデモ行進を行うのは「在日特権を許さない市民の会」(通称、在特会)をはじめとする市民保守団体で、2007年頃に2ちゃんねるなどのネット上で差別発言を行うネット右翼と呼ばれる人々が集まって結成された集団だ。彼らの特徴はネットを炎上させることで話題性を作るという「炎上プロモーション」で、街頭での民族差別活動をニコ動やYouTubeにアップすることで急速に支持者を増やしてきた。その活動は次第に過激化していき、2009年には京都の朝鮮学校に対する抗議で「スパイの子供」「朝鮮人はウンコ食っとけ」と生徒に向かって罵詈雑言を浴びせるという事件があり、さすがにこれはほっとけないと思った人達が在特会をなんとかしようと立ち上がった。
 しかし、当時の在特会に対する世間の関心は薄かった。この頃、在特会を唯一取材していたジャーナリストの安田浩一氏は、2011年にNaked Loftに出演した際、大手メディア・マスコミはどこも在特会を扱わないと嘆いていた。それでも彼は地道に取材を続け、2012年に上梓した『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)が高く評価されたが、在特会をとりあげる記者はまだまだ少数だった。
 一方、在特会はさまざまな分派を生みながら拡大していき、今年に入ると隔週ペースで、新大久保で反韓/排外デモを行うようになる。さらには「お散歩」と称して韓流の店に因縁をつけたり、通行人の観光客に暴力的に絡んだりとその行動はますますエスカレートしていった。

 そんな中、ある決定的な出来事があった。以前から新大久保の反韓デモに迷惑していた「Kポペン」と呼ばれる韓流ファンやK-Popファンの若者たち(主に中高生)が、1月12日の在特会のデモの時に、在特会会長・桜井誠のTwitterアカウントに対して一斉に批難を浴びせたのだ。
「あなたみたいなひとがいるから日本がだめになるんじゃん」「人の気持ちを考えられる人間になりましょうよ」と、40歳のオッサン(桜井)が中高生に諭される様子はネット上でも話題となったが、こうしたKポペンの行動に多くの人が呼応した。白昼堂々行われるレイシズム行為を認識しながら誰もが見て見ぬふりをしてきた中で、K-Popファンの少年少女達があげたストレートな言葉は多くの大人達を奮い立たせたのだ。

 2月9日には、在特会のお散歩行為(韓流店や観光客へのいやがらせ)をやめさせようと、野間易通が呼びかけた「レイシストをしばき隊」とよばれるカウンター行動が初めて行われた。そして2月17日にはしばき隊の他に、「差別反対!」「くたばれ排外主義者」など思い思いのプラカードを反韓デモをするレイシスト集団に向かって掲げ、抗議を行う「プラカード隊」も現れた。その行動は多くの人達の共感を呼び、1ヶ月後には数百人の人達が新大久保に集まり、反韓デモに対するカウンター行動を行ったのだ。新大久保の街頭で、ある者は「なかよくしようぜ」と書かれたハート型の風船を配り、ある者はヘイトスピーチ・デモの排除を呼びかける署名活動を行い、またある者は「憎悪の連鎖は何も解決しない」という巨大な横断幕を掲げた。今まで無視していたマスコミもさすがにまずいと思ったのか、多くの記者が取材をするようになり、新大久保で何が起こっているかがようやく新聞やテレビで報じられるようになった。

 6月16日には在特会の桜井誠を含め、デモ側、カウンター側双方で逮捕者が出たことが新聞でも報道され、もはや新大久保の排外主義デモとそれへのカウンター行動は国内のみならず海外でも大きな社会ニュースとして知れ渡るようになった。そして、6月30日には遂にカウンター側の数が2000人を越え、出発場所の大久保公園を取り囲んだ。この日の反韓デモの数百人の参加者は警察の厳重な警備の中、ほとんど街頭にアピールすることができない状況にまで追い込まれていた。これ以降、新大久保で予定されていた反韓デモはことごとく変更され、事実上の中止状態になっている。

 半年前、K-POPファンの若者達がTwitter上で声を上げたことから始まった反韓デモへのカウンター行動は、今や差別をなくそうと立ち上がった普通の一般市民、サラリーマン、学生、OLなど数多くの民衆の力を顕在化させることになった。6月30日の行動を取材した仏フィガロ誌記者のレジス・アルノーはNewsweekのコラムで「健全な民主主義は日本の誇り」と書いている。  しかし、これで日本からレイシズムがなくなったわけではない。むしろ最近は、政治家による従軍慰安婦否定発言やナチス称賛発言など、世界からは日本は排外主義的な方向に向かっているのではないかと警戒されているのが現実だ。今後もレイシスト達によるヘイトスピーチやヘイトデモは繰り返されるだろう。しかしここで民主主義をあきらめてはいけない。私達は地球上からあらゆる差別・レイシズムをなくすため不断の努力を続けていかなければならないのだ。

 今年は、アメリカで人種差別撤廃を求めた1963年8月28日の「ワシントン大行進」から50周年を迎える。キング牧師が「I Have a Dream」という有名なスピーチを行ったことでも知られるこの大行進には20万人以上が集まった。リンカーンによる奴隷解放宣言から100年たっても公然と黒人差別が行われていたアメリカでは、これ以降、公民権法が成立し、法律によって人種や宗教、性、出身国による差別は禁止されることになった。  9月22日に行われる「差別撤廃 東京大行進」はこのワシントン大行進へのリスペクトを持って開催される。ここでは、1995年に国際的な「人種差別撤廃条約」に加入したにもかかわらず、条約を履行するための法整備、その他の施策をいまだに行っていない日本政府に対し「条約を誠実に履行することを求める」ことを確認する予定だ。この世から人種、民族、皮膚の色、血統、宗教、心身の障害、性などに基づくあらゆる差別をなくすため、是非この大行進に参加して欲しい。

 差別はやめよう、仲良くしようぜ!!

(TEXT:加藤梅造)