韓国、権益争いで基金難航 請求権問題、最後の望み
新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で勝訴し、支援者と喜ぶ元徴用工の呂運沢さん(右から2人目)=7月、ソウル高裁前(共同) |
原告側は望む形の基金ができない場合、年明けにも予想される最高裁での勝訴確定を待ち、賠償金を差し押さえる強制執行の申し立ても辞さない姿勢だ。執行されれば日本政府は韓国に報復する構えで、日韓関係を大きく揺さぶりそうだ。
「訴訟ではなく、韓国政府と企業がまず資金を出して被害者を救済し、いつかは日本側も加わることが韓日の未来に一番いい」。基金を運営する財団の設立準備委員会の 朴聖圭 (パク・ソンギュ) 幹事は、基金の実現が歴史問題での対立緩和の鍵を握ると訴える。
韓国政府は元徴用工らへの補償は1965年の日韓請求権協定で終了したと解釈し、2005年から政府機関の被害者支援委員会が慰労金を支給。12年には支援委内部に財団設立準備委をつくり、13年度予算に運営資金20億ウォン(約1億9千万円)を計上した。
ここに日本からの経済協力資金が投入された鉄鋼大手ポスコも、財団発足を条件に100億ウォンを出すことを決め、財団はことし中の発足にめどが立っていた。
ところが、支援委は「財団ができれば(自らの)活動延長が難しくなるとみて財団設立作業を止めた」(政府関係者)。年末までの支援委の設置期限を、2年間延長することで与野党が合意し「支援委があるのに、財政が厳しい中で財団が必要なのかとの声が出かねない」(朴幹事)状況だ。
韓国高裁は7月、新日鉄住金と三菱重工業が被告の訴訟で、徴用工の個人請求権は請求権協定では消滅していないとの判決を出した。最高裁も同じ判断をする公算が大きい。
協定で請求権は消滅したとの立場の日本政府当局者は「賠償を命じる判決が確定すれば対抗措置を本格的に検討するが、強制執行がなければ別の対応もできる」と話す。
関係者によると、 劉正福 (ユ・ジョンボク) 安全行政相は11月、年内に財団の設立条件を整えるよう担当部署に指示した。しかし今度は、財団理事長を政府が任命するとの方針に被害者団体が「財団掌握を狙っている」と反発。年末の予算審議で来年の運営予算が認められない可能性が高まる。
設立準備委副委員長で被害者団体も支援する 李秀景 (イ・スギョン) 弁護士は「財団設立を被害者が望む形で政府が認めれば確定判決が出ても強制執行は求めない。だが基金がなければすぐに執行手続きに入る」と宣言している。(ソウル共同=粟倉義勝)