日本経済新聞社

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷

独シュトーレン… 欧州伝統のXマス菓子で旅行気分

2013/11/28 6:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 ドイツの「シュトーレン」、フランスの「ベラベッカ」、イタリアの「パネトーネ」……。ヨーロッパ各国には伝統的なクリスマスのスイーツがある。「キリストのゆりかご」と伝わるもの、ドライフルーツとナッツをふんだんに練り込んだものなど、その形や彩りは、日本の定番のケーキとは違った趣がある。“スイーツ旅行”気分で楽しむクリスマスはいかが。

 「今週の3つ星スイーツ」ではいつもと趣向を変え、「星」の評価はせずに番外編としてヨーロッパのクリスマス菓子を特集する。東京近郊を中心に国内のケーキ店から買い求めた、専門家お薦めのクリスマス菓子を食べてみた。ケーキやビスケットから菓子パン風のものまで形も風味も様々な商品が集まった。

【ドイツ】マテリエル「シュトーレン」

マテリエルの「シュトーレン」

マテリエルの「シュトーレン」

〈特徴〉ドライフルーツとナッツを多めに生地に練り込み、中央にはアーモンドと砂糖を合わせ棒状のペーストにした自家製マジパンを詰めている。焼き上がった生地にはバターを塗り、その上に白い砂糖がふりかけられていて美しい。シュトーレンの長方形の形は、キリストが寝ていたゆりかごを、白い砂糖は雪を表しているという説もあり、見ているだけで、クリスマス気分を味わえる。

 冷蔵庫に入れてしまうと生地が硬くなってしまうので、常温保存が望ましい。本場ドイツでは11月末から食べ始め、クリスマスイブまでの1カ月間食べ続けるのが一般的だ。林正明シェフパティシエは「賞味期限は約1カ月。寝かせるほど味が染みておいしくなるので、食べる分だけを切り分けて少しずつ食べるのがおすすめ」と話す。

〈感想〉「形の整った、見た目も美しい一品。真ん中の棒状のマジパンはしっとりとリッチな食感と味わい。シナモンやナツメグなど、スパイスの効いた生地の風味が大人向け」(平岩理緒さん)、「様々なスパイスの複雑な香りと、ドライフルーツの凝縮した味が混ざり合って、冬らしいリッチな味わい。パティスリーならではの、バターやアーモンドのリッチなうまみが詰まった一品」(下園昌江さん)。

〈価格〉1200円(取り寄せ不可)

〈店舗〉東京都板橋区大山町21-6(電話03-5917-3206)午前10時~午後8時、水曜定休。12月25日(水)は営業、19日(木)、26日(木)は休み

同店が過去に星を獲得したスイーツ一覧

【フランス】ラ・ヴィエイユ・フランス「ベラベッカ」

ラ・ヴィエイユ・フランスの「ベラベッカ」

ラ・ヴィエイユ・フランスの「ベラベッカ」

〈特徴〉レーズンなどのドライフルーツやナッツが大量に入り、日持ちのするこの商品。洋梨のパンという別名を持つだけに、洋梨のドライフルーツが使われることが多い。サクランボの蒸留酒「キルシュ」を使っており、とても濃厚な味。薄くスライスして食べるのがおすすめ。フランスのアルザス地方では、クリスマスが近づくと街のお菓子屋で多く見かけられる定番商品だ。

 パン屋が作るベラベッカはつなぎの生地が多めの場合があるが、同店のものはつなぎが少ないのが特徴。フランスのパティスリーが作るベラベッカそのものの味に仕上げている。木村成克シェフパティシエは「赤ワインや紅茶などと共に食べるのがおすすめ」と話す。

〈感想〉「洋梨がたっぷりと入り、イチジクのプチプチとした食感が楽しい。キルシュの香りもよく、かみしめるほど味わい深くなる逸品」(下井美奈子さん)、「たっぷりのドライフルーツとナッツを少量の生地でつないだ、とてもリッチで濃厚なお菓子。ドライフルーツが柔らかめで、凝縮感の中にもフレッシュな風味を感じる。スパイスも使っているので、体がほんのり温かくなる。初めて食べる人には見た目からは想像のつかない味のお菓子だが、食べてみるとその奥深さを感じられると思う」(下園昌江さん)。

〈価格〉1800円(取り寄せ可、1月末まで)

〈店舗〉東京都世田谷区粕谷4-15-6 グランデュール千歳鳥1F(電話03-5314-3530)午前10時~午後7時30分、月曜定休(祝日の場合は翌日が休み)

同店が過去に星を獲得したスイーツ一覧

【イタリア】シニフィアン・シニフィエ「パネトーネ」

シニフィアン・シニフィエの「パネトーネ」

シニフィアン・シニフィエの「パネトーネ」

〈特徴〉国内で売られているパネトーネの多くは、日本で手に入る天然酵母を使って作っている場合が多いが、同店はイタリアから取り寄せた酵母のパネトーネ菌を培養して作っている本格派。パネトーネ菌は、イースト菌などと比べてバターや砂糖を多く使っても酵母が減らないのが特徴で、より多くのバターや砂糖が生地に入れられている。水と卵と脂のほどよい配合で、しっとり口溶けよく仕上がっている。

 内部にはレーズンやオレンジピールなどのドライフルーツが入っており、「白ワインと合わせて食べてもおいしい」(同店担当者)。日持ちがするのに加え、専用の箱もかわいらしいためプレゼントにも適している。

 パネトーネはイタリア語では「大きなパン」や「トニーのパン」という意味だ。

〈感想〉「レーズンやオレンジピールがフルーティーに香り、しっとりリッチな風味。菓子パンとしてはもちろん、発泡ワインなどと合わせれば、クリスマスパーティーのおつまみとしても楽しめる」(平岩理緒さん)、「大きな気泡を含んだしっとりとした生地は口どけがよい。軽い発酵風味と酸味がクセになる生地と、ドライフルーツとのバランスが絶妙」(下井美奈子さん)。

〈価格〉2400円(取り寄せ可)

〈店舗〉東京都世田谷区下馬2-43-11(電話03-3422-0030)午前11時~午後7時、不定休

同店が過去に星を獲得したスイーツ一覧

【ベルギー】メゾン・ダンドワ「スペキュロス」

メゾン・ダンドワの「スペキュロス」

メゾン・ダンドワの「スペキュロス」

〈特徴〉聖人などの模様が描かれるかわいらしいビスケット「スペキュロス」は、毎年12月6日にサンタクロースのモデルになったといわれる聖ニコラの日を祝うためにベルギーなどの菓子店で作られる。シナモンなどのスパイスが効いた香ばしい食感が特徴。スペキュロスとはラテン語で「鏡」を意味する。型を抜くのではなく、木型を生地に押し当てて模様を写し取ることからこう呼ばれている。

 メゾン・ダンドワは1829年創業のベルギーの老舗で、180年以上続くレシピを今でも使い、全て手作りだ。2012年にできた東京・丸の内の店舗では、ビスケット類は全てベルギーから取り寄せている。スペキュロスは、秘伝のスパイスを使ったオリジナル味と、バニラ味のものがある。クリスマスに合わせて、聖ニコラの形をしたスペキュロス(420円)も購入できる。

〈感想〉「スパイスの効いた味と、カリッとした歯応え、口の中でザクザクと砕ける食感が印象的。クリームチーズなどをのせてカナッペ風にいただくのもおすすめ」(平岩理緒さん)、「普通のサブレのように見えるが、食べた時のザクッとカリッの間の固めの食感が特徴的。粉と砂糖の粒子のザラザラした感じが素朴な風合い。定番のスパイス風味もおいしいが、優しいバニラ風味もおすすめ」(下園昌江さん)。

〈価格〉5枚入り630円、アソートギフト缶2500円など(取り寄せ可)

〈店舗〉東京都千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店地下1階(電話・代表03-3212-8011)平日午前10時~午後9時、土日祝は午後8時まで

【英国】ブロードハースト「クリスマスプディング」

ブロードハーストの「クリスマスプディング」

ブロードハーストの「クリスマスプディング」

〈特徴〉お酒が効いた蒸しケーキにナッツやドライフルーツがふんだんに入った濃厚なこの商品は、英国人シェフが作る本場の味。母のレシピなどを参考に、毎年使う材料を変えるなどで改良しているという。ギネスビールやラム酒などに加え、スパイスやナッツ、ドライフルーツのほか牛脂も入り、濃厚な味わいとなっている。クリスマスプディングの由来は、牛肉を熟成させる際にドライフルーツを入れて臭いを取っていたのがスイーツとして食べられるようになったともいわれている。食べる前に温め直し、生クリームなどをかけるとより一層おいしくなる。上に飾り付けをすると華やかになる。

 昔は各家庭で作られており、家族全員が順番に願い事をしながら時計回りで材料を混ぜ合わせていた。混ぜる際に、コインや指輪などを材料に入れ、食べる時に中に何が入っていたかで未来を占うという風習もある。蒸し時間が最低6時間と長いことから、最近では家庭で作られることは減っているという。永田敦子シェフは「スパイスの使い方が独特で英国らしい一品。日本では食べたことがない味と食感だと思うので、ぜひ試してほしい」と話す。

〈感想〉「香辛料の奥深い味わいとカレンツなどのドライフルーツがたっぷりとはいった生地は、食べていると体の芯から温かくなるような味。ブランデーバターと一緒にいただきたい」(下井美奈子さん)、「茶色いドーム状の見た目が華やかなケーキとは異なり、至って地味だが、レーズンやリンゴ、ナッツなどをたっぷり使ったぜいたくなお菓子。フルーツ、お酒、スパイスが合わさり時間をかけることで熟成された風味を堪能できる。食べる直前にブランデーをかけてフランベすると、さらクリスマス感がアップしてロマンチック」(下園昌江さん)。

〈価格〉3600円(取り寄せ可、12月25日まで)

〈店舗〉大阪市中央区玉造2-25-12 サンメル石井1階(電話06-6762-0009)午前10時~午後8時、月曜定休(祝日の場合は翌日が休み)

●ちなみに――世界に広がるヨーロッパの伝統的菓子

 今回取り上げたのはヨーロッパの5カ国のクリスマス菓子。多くに共通するのは、お酒を使った濃厚な味わいで、ドライフルーツやナッツなどの保存食がたくさん使われていることだった。これは、昔のヨーロッパでは、お菓子が修道院で作られていたことと無縁ではないだろう。当時の厳しい冬の修行中、栄養分が豊富に含まれたドライフルーツをキリストの生誕を祝うクリスマスシーズンに食べることは大変なぜいたくだったに違いない。

 今回紹介したクリスマス菓子以外にも、ドイツやスイス、オーストリアには蜂蜜入りのビスケット生地で作る「レープクーヘン」、フィンランドにはパイ菓子「ヨウルトルットゥ」、フランスには切り株の形をした「ブッシュ・ド・ノエル」などがある。国境を超えて広まったのはイタリアのパネトーネ。ブラジルなどでも多く食べられており、これは、イタリアから南米に移住した人によってもたらされたそうだ。今年のクリスマスは各国のクリスマス菓子を味わいながら、その歴史を知るきっかけにするのもよいのでは。

(岸田幸子)

感想や取り上げてほしいスイーツなど読者の皆様のコメントを募集しています。
コメントはこちらの投稿フォームから

●専門委員の横顔(五十音順)

下井美奈子さん

 1973年生まれ。実家の母が菓子教室講師ということから、子どもの頃からスイーツの食べ歩きや菓子作りを行う。一般企業を退職した後、パリの料理学校「リッツ・エスコフィエ」で料理・製菓の資格取得。またパリの製菓料理学校「ル・コルドン・ブルー」「ルノートル」で学び、2年間のロサンゼルス在住中にも各国の製菓・料理を習得。情報サイト「オールアバウト」では立ち上げの2001年から、スイーツガイドを担当。多数のメディアで洋菓子情報を紹介するほか、商品開発、レシピ提供を行うスイーツコーディネーターも務める。共著に「TOKYO美食パラダイス」など。

下園昌江さん

 1974年生まれ。大学卒業後、専門学校やパティスリーで製菓の技術や理論を学んでおり、製法にも詳しい。菓子の食べ歩き歴は15年。近年は特にフランス菓子に力を入れ、フランスを巡るツアーや焼き菓子を中心とした菓子教室も開催。監修本に「とびきりスイーツ見つけた!」。ウェブサイト「Sweet Cafe(スイートカフェ)」主宰。

平岩理緒さん

 1975年生まれ。小学生のとき、訪れたデパートでスイーツの魅力に目覚める。大学卒業後、食品会社のマーケティングに携わる。2002年、テレビ東京の番組「TVチャンピオン」デパ地下選手権での優勝を機に、食の情報発信を本格化。退社後はフリーのフードコーディネーターとして活躍中。月に食べる菓子は100種類以上。和菓子店での勤務経験もあり、和、洋菓子全般に詳しい。著書に「アフター6のスイーツマニア」(マーブルトロン)。コミュニティーサイト「幸せのケーキ共和国」主宰。


このページを閉じる

本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。