ウオッチング・メディア

記者はなぜ原発を追わなくなったのかスリーマイルが教えるフクシマの未来(その5)

2013.11.28(木)  烏賀陽 弘道

──事故後の廃炉や除染は取材しましたか?

 「あまりしていません。ニュースにならなかったように覚えています。おかしな話ですが、事故のあった年の夏、TMI原発のビジターセンターで電力会社主催のピクニックがあった。それは取材しました。電力会社は『ここで被曝する放射線量は日焼けより低い』と言っていました。安全だと証明したかったんですね。州議会議員や報道陣が多数招待されました。ジョギングしている人までいましたね。まだ原子炉建屋の中の放射性ガスを抜く工程の途中だったのですがね。

 TMI原発を再稼働するかどうかは大きな争点になった(事故のあった2号機は廃炉。1号機は1985年に再稼働した)。また、新規の原発を州内で造るかどうかも住民投票の対象になった。1980年の大統領選挙で原発は全国的に大きな論争になると思ったのですが、ならなかった」

──なぜならなかったのでしょう。

 「分かりません。イランで米国大使館人質事件が進行していたからかもしれません。レーガンもブッシュも争点として原発を取り上げなかった」

専門記者がいない状況は変わらない

──なぜ報道機関はTMI原発の取材を継続しなかったのでしょう。

 「リソース(資源)の問題だと思います。私のように1人で州政府を担当している社は人手や資金がない。『フィラデルフィア・エンクワイア』紙のように45人も記者を投入できた大新聞は『TMI事故はアーミッシュにどんな影響を与えたのか』など細かい続報を書き続けた」

──「専門記者がいなかった」という状況は改善されましたか。

 「いや、今日でも同じです。新聞はインターネット時代で規模が縮小して記者の数がさらに減ったぐらいです。きょう原発事故が起きても、状況は1979年と同じでしょう。似たような“深みのない何でも屋(Jack for all trades)”記者たちが来ますよ(笑)。

 ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのような全国ニュースを扱う新聞にはサイエンス専門の記者がいるでしょう。地元紙にも『環境問題』や『エネルギー問題』担当記者がいる地元紙もあります。しかしそれも大気汚染問題や水資源問題を同時に担当します。原子力発電問題の専門記者はいないと思います」

──なぜ原子力発電を担当する記者がいないのですか。

 「原子力発電産業そのものがもう成長産業じゃないからです。新しい原発の開設もありませんから」

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