韓国の非正規雇用者の比率は50%を超えるという記事や論文を日本で見かけることがあります。多くの人が参照するウィキペディアを見ても、韓国の非正規比率は一時期55%となったとされています。
日本の非正規比率は33.7%(労働力調査=詳細調査、2009年)ですから、韓国の50%を超える非正規比率は日本と比較してもとても高く、韓国は非正規大国と考えている人も多いのではないでしょうか。
また、この非正規比率を踏まえて、韓国が通貨危機以降に急速に回復した理由は、非正規化を進めて企業のコストを一気に下げたからである、と論じられることもあります。
しかし結論から言えば、韓国の非正規比率は日本と比較しても大きく上回っていることはなく、それほど高い数値ではありません。
では、なぜ非正規比率が雇用者の半分を占めるといった誤った認識が広まっているのでしょうか。これは2000年まで非正規比率を把握する統計が韓国になかったことが原因です。研究者は非正規比率に似ている数値をほかの統計から探し、これを非正規比率と見なしてきたのですが、この統計では正規職(正確には常用職)を必要以上に厳格に定義しているため、正規職の比率が低く、非正規職(正確には非常用職)の比率が高く出ています。また韓国が非正規大国であるとのストーリーを作るため意図的にこの統計の数字が用いられた可能性も否定できません。
そこで今回は、韓国の労働問題を概観するとともに、韓国の非正規比率が本当はどれくらいなのかについて、韓国の統計の取り方を解説しながら考えてみたいと思います。
韓国でも厳しい解雇規制
日本と韓国は労働分野について考えてみると類似点が多く見られます。
両国の整理解雇の要件はほぼ同じです(下図)。また解雇規制が厳しいこともあり、経営者は雇用調整が容易な非正規職の雇用を好む傾向があります。
整理解雇の要件
日本 | (1)整理解雇必要性の有無、(2)整理解雇回避のための努力、 (3)整理基準及び人選の客観性・合理性、 (4)労働者・労働組合との誠実な協議の有無 |
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韓国 | (1)緊急な経営上の必要性、(2)解雇回避努力 (3)合理的かつ公平な対象者選定、(4)勤労者側との誠実な協議 |
(出所)日本は片岡曻(1999)「労働法(2)」(第4版)、韓国はハガプレ(2009)「勤労基準法」(第21版)による。
解雇に対する保護の厳格さ(OECDにより数値化)
日本 | 2.4 |
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韓国 | 2.4 |
(出所)OECD Employment Outlook 2004
また女性の労働についても、子育て世代の労働力率が下落し、その世代を過ぎると労働力率が再び上昇するという、いわゆるM字カーブが両国で確認できます。
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