まず「特定秘密保護法案」が提起された時、マスコミは条文を一つ一つ検証し、その危険性をいつでも指摘できる機会があったはずだ。東京新聞(朝日、毎日も申し訳程度には報じたが)などが何度か報道したが、活字メディア以上に影響力を持つNHKやテレビ局は、ひたすら“政府が、与党幹部がこう言った”“野党がこんな条件を出した”と、大半は本質とは関係ない報道をしていた。
それでも批判が大きくなると、安倍氏以下が国民の不安をやわらげるため、いくつかの暴走防止・監視機関なりを内閣府に作るなどと口約束はしたが、どのようにして効果的に機能する独立機関とするのか具体的なことは言わない(かえって官僚組織の屋上屋を重ねることになる可能性大)。それを無批判に伝えてきた。
NHKはアメリカのNPO「開かれた社会財団」(Open Society Foundation)が、“日本の特定秘密保護法は国民の知る権利を厳しく規制し、政府が説明責任を果たさなくなる”などと批判する声明を出したと5日の午後10時過ぎに報道(特定秘密法成立の頃だ)。報じないよりはましだが“いまさら何を言っているのだ!”と言うべきだろう。
すでに国連人権理事会の高等弁務官や特別報告者が“表現の自由への適切な保護規定を設けずに(特定秘密保護法)のような法律は作るべきでない”などと名指しで批判しているのに、その重大性などをきちんと報じなかった。
これは特定秘密保護法のうさん臭さを国際社会がよく見ている例たが、この批判を無視する政府をきちんと質したマスコミはいなかった。
他にも「自由報道協会」と目的を共有するパリに本部のある「国境なき記者団」や、「国際ジャーナリスト連盟」、世界的な人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」など幾つもの国際機関が「特定秘密保護法」危険について触れて批判した。
しかし、国内のマスコミには、総理大臣や閣僚、与党幹部の発言がいかに根拠に乏しく論理矛盾であるかを追求する強い姿勢が見られなかった。
“スパイ天国”というが具体的な事例や証拠は? “情報が漏れる危険”というが、何でも隠す官僚天国で国家が危機にさらされる情報漏えいが、過去にいつ、どのようにして起きたのか?
“商売目的でアメリカの空母の寄港日程をもっていただけのクリーニング屋が逮捕され、執行猶予の有罪判決を受けた”というおぞましい事例を東京新聞が報じていたが、他のマスコミは、過去にこうした例があったのか否かという簡単な検証さえしなかった。
“特定秘密”というが、誰がいかなる基準で決めるのか? それを有権者の付託を受けた国権の最高機関である国会がきちんと監視できるのか?
ほとんどのマスコミはこの基本的な疑問点を追求もせず、提示もしなかった。ていねいに追求し、国民の疑問に答える報道や問題点列挙などをできる機会は何度もあったはずだ。
今からでも遅くはない。すでに多くの人々が指摘しているが、その繰り返しで構わない。法律の施行前にきちんと検証報道し、世論を喚起するべきだ。
今、NHKをこれまで以上に視聴者の手が及ばない体制にするべく安倍政権が動いている。すでに第一次安倍政権時、安倍氏は親しい友人の企業社長をNHK経営委員長に送りこみ、経済界から会長を選んだ。今、NHK経営委員会の委員の多くは安倍政権の影響力を受け、経済界を中心に次期会長の人選を進めている。NHK経営委員の大半にとって、国民の基本的権利、人権の擁護やジャーナリズムなどは関心からほど遠い。
公共放送としての7時や9時のニュースの劣化が指摘されているが、公共放送であるべきNHKが、これまで以上に政府の影響下に置かれ、政府の広報機関化が進行している。日本社会の健全な発展のためにも、NHKをはじめマスコミをいかに改革し、いかに質の向上を図るかを考えるべきである。
【DNBオリジナル】
by U.S. Department of State
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