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【ため池の土砂】早急に除染対策を(12月6日)

 県内の農業用ため池で水底の土壌の放射性物質検査をしたところ、3割近くで指定廃棄物の基準値を超えていた。県の調査で判明した。指定廃棄物は、家庭ごみなどの一般廃棄物と区分して管理する必要がある。稲作などに利用する農家の不安を解消するため国は除染対策に早く取り組むよう求めたい。
 県内には農業用ダム、ため池が3730カ所ある。このうち、東京電力福島第一原発事故による避難区域に441カ所ある。県は、残る3289カ所のうち中通り、浜通りを重点的に1640カ所を選び、取水栓近くで放射性物質を調べた。
 この結果、放射性セシウムが27%、450カ所の土壌で1キロ当たり8000ベクレルを超え、指定廃棄物になることが分かった。オーバーしたのは中通りと浜通りのため池で、会津では下回った。放射性物質が高濃度になるのは、周囲の山や川などから流れ込み、ため池に沈殿したためだ。
 同時に調査した水質は、いずれも管理目標を下回った。この状態なら問題ないと言えるが、ため池は上流の土砂が絶えずたまる。取水栓などが埋没しまうため、農閑期には水を抜いて土砂を定期的に取り除かなければならない。
 原発事故の後、土砂の仮置き場がないため県は土砂除去作業の自粛を、ため池の管理者である市町村などに要請してきた。ところが、県の調査によると全3730カ所のうち1割の370カ所程度で土砂を早急に処理しないと取水栓をふさいでしまう恐れが出ている。
 このままだと農業用水の利用に影響が出てしまう。長期間にわたって放置すれば、ため池の貯水量も大幅に低下する。大雨で増水した際には水底の土壌がかき混ぜられて、放射性物質が流れ出る心配がある。下流で栽培する農作物にも響く。
 県は早期の除染対策を国に訴えてきた。住宅地などの除染を優先する環境省は、農業用ダムやため池を除染対象とする予定はないという。たまった水は、放射性セシウムから出る放射線を遮る効果があって、周辺環境に与える影響が少ないというのが理由のようだ。
 事故直後の説明ならば理解もできるが、既に2年9カ月近くになる。新たな事態を迎えて環境省は方針を転換すべきだ。
 避難区域を中心に301カ所の調査をした農林水産省も近く結果を発表する。環境省は県内のため池の実情をしっかり把握し、除染対策を急いでほしい。(佐藤 晴雄)

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