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フランスニュースダイジェスト
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sam 07 décembre 2013

2008年五輪開催記念 金メダル候補にインタビュー

北京五輪の開催年となる2008年。ニュースダイジェストの新春第1号では、欧州各国で発祥したスポーツの現役第一人者たちにインタビューを試み、それぞれの競技が持つ歴史や五輪に対する意気込みを聞いた。

Erwann Le Pechouxエロワン・ル=ペシューさん
Erwann Le Pechoux
1982年1月13日、南仏ペルチュイ生まれ。身長171センチ、体重61キロのサウスポー。現所属クラブはAix ASPTT。7歳の時にフェンシングに出会い、2000年よりフランス代表チームのメンバーに抜擢される。2002年は世界選手権の団体戦ジュニア部門で1位。シニアになってからは2003年欧州選手権の団体戦で1位、2005年にはワールドカップ・ポルトガル大会個人戦で優勝を果たす。2004年のアテネ大会で五輪初参戦。現在世界ランキング3位。身長が低いので、ついたあだ名が「プチ・トム(フランス語で「小さな男」の意)」。

2004年に21歳でアテネ五輪に初参戦するも、若さ故の経験不足で個人種目の結果は13位と惨敗。あれから4年、技術面でも精神面でも成長した彼が再び五輪に挑む。初参戦したアテネの時の迷いはない、今回の目標はただ一つ「金メダル」。

レースが佳境に入ると、肺が破裂しそうになってアドレナリンが噴出します

フェンシングを始めたきっかけは何ですか。

これは偶然ですね。幼い頃から空手、乗馬、柔道、サッカーなど色々なスポーツを試したのですが、どれもしっくりこなくて。そんな時、母親がフェンシング・クラブの案内を持ってきてくれたのです。当時僕は7歳。クラブでは僕が一番若い生徒で、最初は年上の先輩にかわいがってもらえるクラブの雰囲気が好きだったのですが、練習していくうちにだんだんとフェンシング自体を好きになっていきました。しばらくしたら、今度は父親が僕に影響を受けてフェンシングを始めたくらいです。

子供たちのアイドル
フランスでル=ペシュー選手は子供たちのアイドル
© Hajime YANAGISAWA

フェンシングの特徴について教えてもらえますか。

まず、フランスの国技なので公式言語がフランス語というのが特徴ですね。あとフェンシングは柔道やレスリングとは違い、重量別に競技者を分けません。ですから、小柄な選手から大柄な選手まで、実にさまざまな体格の選手が参加するスポーツです。競技カテゴリーには個人戦、団体戦、男性、女性に分かれており、武器に関していえば、僕のカテゴリー、フルーレの他に、サーブルとエペがあります。

あとフェンシングは騎士道精神に則ったスポーツなので、対戦者や審判には最大の敬意を払います。試合前後には必ず握手をしますし、礼儀作法に非常にうるさいスポーツです。さらにあえて付け加えることがあるとすれば勝利の仕方です ね。「試合はエレガントに」がモットーです。

五輪での絶対にミスは許されないという重圧は、他の国際大会とは比べものになりません。

北京五輪出場についての選考はどのように行われるのですか。

五輪に出場するには、選考期間内(2007年4月~2008年4月)に開催される国際試合に出場してポイントを稼いでいかなくてはなりません。また世界選手権などの大きな大会ではポイントが3倍されるので、入賞すればたくさんポイントを稼ぐことが出来ます。そして選考期間が終了した後、2008年4月末に発表される最終的な世界ランキング上位選手のみが五輪に出場出来るのです。現在、僕は世界ランキング1位(2007年10月インタビュー時)ですが、2008年1月~4月の間に欧州選手権など大きな大会が7つあります。まだまだ安心は出来ません。

五輪でメダルを取るにはどんなことが重要だとお考えで すか。

五輪に出場出来る選手は、国際大会の上位選手ばかりです。ですからそれぞれの選手同士の間にある技術的な差は大きくないと思います。試合当日、健康面などあらゆる条件が最高の状態で試合に挑み、冷静に試合を運んだ選手がメダルを手にすることが出来るのです。

他に重要な要素を挙げるとすれば、精神面だと思います。五輪は毎年開催される世界選手権とは違って、4年に1度しかチャンスはありません。精神面において「絶対にミスは許されない」という重圧は、他の国際大会とは比べものになりません。

子供たちのアイドル
2006年のワールドカップ、パリ大会(CIP)個人戦で
© Hajime YANAGISAWA

個人競技の場合、メダルは 自分のものじゃないですか。

意識する強豪選手はいますか。

国際大会で最終的に勝ち上ってくる選手8名は、毎回ほぼ同じです。イタリア人のバルディニとサンゾ選手、ドイツ人のクライブリンクとヨピッチュ選手、中国人のレイとザン選手、日本人の太田選手。そしてフランスからは僕です。

先ほどフェンシングでは重量によるカテゴリー分けがないと言いましたが、身長差による違いは感じますか。

身長によってリーチの差が生まれます。例えば中国のレイ選手などは2メートル近いですし、イタリアのカサラ選手も長身ですね。でも、フェンシングではその身長やリーチの差を瞬発力で補うのです。日本の太田選手を例にとれば、彼は腕と膝の瞬発力が群を抜いていて、たぶんスピードでは僕の知る限りどの選手よりも速いと思います。

あと話は少しずれますが、フェンシングではサウスポーの選手が強いですね。ランキング表を見てもらうと分かりますが、上位に位置する選手の多くがサウスポーです。で もフェンシング界全体を見渡せば、右利きの選手がほとんど。つまりサウスポーは少数派なので、当然右利きの選手よりも対戦回数が少ないから感覚が慣れなくて、余計やり辛いんです。だからフェンシングの試合では、身長やスピードのある選手よりもサウスポーの選手の方が怖いと感じますね。

キングスカレッジ
2006年ワールドカップ、パリ大会(CIP)にて、日本のエース太田雄貴選手 © Hajime YANAGISAWA

五輪特有の「国を背負う」という感覚はどのようなものなのでしょうか。

同じ世界大会でも五輪は特別ですね。初めて五輪に参戦したアテネ大会の入場行進の時、今まで見たことのないような数の観衆からの声援、各国の国旗がはためく陸上トラックの雰囲気に圧倒されました。そして自分自身もフランス国旗と共に代表チームのユニフォームで行進するんです。不思議な気持ちでしたね。

でも試合になると「国を背負っている」という意識はありませんでした。特に個人競技の場合、メダルは自分のものじゃないですか。もちろんメダル獲得表上では「フランス」と表示されますが、自分の努力で獲得したメダルはフランスの為ではなく、まずは自分自身の為です。ですから国を背負うという意味で生まれるプレッシャーはないですね。

試合前に特別気をつけるようなことはありますか。

たくさんあります。試合前に対戦表で自分の対戦相手の名前を見ないこと。これは、名前を見てしまうといろいろと作戦を考えてしまって、本番ではその先入観が邪魔してうまく試合を運べなくなってしまうからです。

あとは試合前に母親からプレゼントされた指輪に接吻しま すね。個人競技では、調子が悪いときは孤独になることがあ ります。でもそんなとき、この指輪のことを考えると、いつも応援してくれる母親や友人たちのことが頭に浮かび勇気が湧いてきます。あとは験担ぎで、試合の時はいつも同じTシャツを着ることとかですね。本当は、もっとあるのですが 代表的なのは今挙げた3つです。

キングスカレッジ
2006年のワールドカップ、パリ大会(CIP)
団体戦では2位に
© Hajime YANAGISAWA

フェンシングを観戦するときにルールを知ることは重要だと思いますか。

必ずしもルールを覚える必要はないと思います。2007年はフランスがラグビーのワールド・カップ開催地だったので、連日フランス人はラグビーの試合を見ていましたよね。 でもその中で本当にラグビーのルールを理解しているのは少数だったのではないでしょうか。それでも、迫力があるとかスピード感があるなど、いろいろな理由で観戦者を魅了していました。フェンシングも同じです。

もちろん、過去にフェンシングを経験したことのある人なら、フェンシングの試合を熱狂的に観戦します。でもフェンシングは突きのスピードや躍動感、動きの優美さなどをいろいろと視覚的に楽しめるスポーツです。大抵のフランス人は、ルールを知らなくてもフェンシングの試合を見せると喜んで観戦しますよ。

ヨーロッパで盛んだった騎士道のスポーツが世界に広まった理由は何でしょうか。

これは推測ですが、欧州で活躍した優秀なフェンサーが引退後に、欧州を飛び出して世界中に散らばったのだと思います。米国では大学にもフェンシング・クラブがあるほど普及していますし、日本のナショナル・チームの監督はウクライナ出身の元選手です。彼は日本で本当に目を見張るような仕事をしたと思います。五輪開催国中国でも盛んなスポーツになっているようです。

ル・ペシュー選手の五輪出場は来年で2回目となりますが、今回の意気込みは?

アテネでの反省点は、結局はまだ若かった(当時21歳)ということでしょうね。僕がフェンシングを始めて上達し始めたとき、コーチからは2008年の五輪には出場出来るだろうと言われていました。しかし、思ったよりも上達が順調で、コーチの考えよりも4年早く五輪に出場することが出来たんです。しかしまだ自分の技量が不足していましたし、精神面でもまだ弱く「メダル獲得を目指す」という目標を持つこともないまま13位という結果に終わってしまいました。

今回は違います。アテネから4年、多くの国際大会を経験して技術的にも精神的にも熟成したと自分では認識しています。僕の戦歴の中で唯一足りない国際タイトルは五輪の金メダル。今回は確実に「金メダル」を目標に挑みます。

フェンシング競技解説
近代フェンシングは、1913年にパリに設立された国際フェンシング連盟(FIE)が欧州発祥の決闘の手段にスポーツ的なルールを盛り込んだことで始まった。現在では電気審判機を採用し、剣身に電線を埋め込んだ剣を用いて、相手の選手を突くとブザーが鳴り審判に突きの有効性を知らせる。使用武器は3種類。エペは最も伝統的なフェンシングの剣に近く、剣身が長くて有効範囲が広い。フルーレは、紳士が決闘用に携帯していた剣が軽量化されたもので、柔軟にしなるのが特徴。サーブルは「突き」のみ有効な他の2種類と違い「切り」も有効で、得点範囲はフルーレ同様上半身のみ。

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