日本経済の幻想と真実

日本のメディアは国家権力と闘ってきたのか?特定秘密保護法案に反対する記者クラブの偽善

2013.12.05(木)  池田 信夫

 その結果、彼女とともに西山氏も国家公務員法の「機密漏洩の教唆」の罪で逮捕され、起訴された。取材で得た情報を政治的に利用し、情報源が分かる形で電文を渡したことは、西山氏も「悔やんでも悔やみきれない」と反省している。

 しかしこの事件では、外務省は「密約はなかった」と繰り返し答弁しており、これも国家公務員法違反(虚偽答弁)である。検察が秘書と西山氏だけを起訴したのは不当であり、毎日新聞社は闘うべきだった。

 しかし検察は起訴状で、西山氏が秘書と「ひそかに情を通じ、これを利用して」電文の漏洩をそそのかしたという文章で、彼が肉体関係を結んで情報を入手したとほのめかした。これで情勢は一変して西山氏に批判が集中し、他社も毎日新聞を支援しなかった。

 毎日新聞社は「おわび」を掲載し、西山氏は一審で敗訴したあと退職した。読者が不買運動を始め、もともと危機に陥っていた毎日新聞社の経営はさらに厳しくなった(1977年に経営破綻)。

 同じような国家機密の漏洩事件としては、「ワシントン・ポスト」がニクソン大統領の盗聴を報じたウォーターゲート事件が有名だが、このときは明らかにFBIの捜査情報が漏洩されていたにもかかわらず、検察は起訴しなかった。

 「ディープスロート」と呼ばれた情報源(司法省の副長官だったことがのちに判明)をウッドワード記者が守り、ポスト紙が連邦政府の圧力に屈しないで彼の取材を支援したからだ。取材に違法性があっても、報道内容に公益性があり、記者が情報源を守り、彼を報道機関が支援すれば報道の自由は守れるのだ。

 実際には、こんなドラマティックな事件は、日本では西山事件以来ない。クラブに張り付いて役所の情報をもらっている記者が「特定秘密を暴くと逮捕されるから法案に反対しよう」とは笑止千万である。

 国家機密を暴く報道は今でも違法であり、特定秘密保護法ができても違法だが、それが本物のスクープなら検察も起訴できない。報道の自由を守るのは法律ではなく、ジャーナリストの矜持と国民の理解である。

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