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時論公論 「韓流ブームは終わったのか?」2013年11月19日 (火) 午前0時~
出石 直 解説委員
こんばんは。ニュース解説「時論公論」です。
きょうはまず懐かしいこの音楽からお聞きください。
(♪♪「冬のソナタ」より)
【冬ソナブームから10年】
ヨン様こと、ペ・ヨンジュンさん演じる青年とチェ・ジウさん演じる女性とのせつない恋愛を描いた「冬のソナタ」は、「冬ソナブーム」と呼ばれる大ヒットとなり、いわゆる韓流ブームの火付け役になりました。NHKの衛星放送でこのドラマが初めて放送されてから、ことしでちょうど10年になります。
その後も、イ・ビョンホン、KARA、少女時代など、次々とスターが誕生しました。
韓国の放送番組の日本への輸出額は、この10年近くで実に20倍に増えています。
今夜は、韓流ブームの10年とこれからの日韓関係について考えます。
【韓流ブームの効果】
韓流ブームは、日韓の相互理解、とりわけ日本人の韓国理解に大きく貢献しました。
冬ソナブームが始まった10年前、韓国を訪れる日本人の数は年間180万人でした。
ブームに乗って増加を続け、2009年には300万人を突破、去年はこれまでで最も多い352万人に達しました。この10年間で2倍に増えたことになります。
2010年にNHKが韓国のKBSと共同で行った意識調査です。
「韓国人というと、誰を思い浮かべるか」という問いに対して、日本人の回答でもっとも多かったのはペ・ヨンジュンさん、4位がチェ・ジウさん、5位がイ・ビョンホンさん、と続きます。
「韓国が好きかどうか」という問いには、日本人の62%が、「好き」あるいは「どちらかといえば好き」と答えています。
【韓流ブームに陰り】
しかしその韓流ブームにも、陰りが見えています。
韓流ドラマのDVDの売上は、おととしから低迷し始め、作品によってはピーク時に比べて4分の1にまで落ち込んでいるものもあります。韓国映画の配給数も大幅に減少しています。K-POPの公演でも、発売直後に売り切れていた人気スターですら、最近は空席が目立つようになってきていると言います。
最近、韓国を訪れた日本人の数を、月ごとに見てみますと、去年の9月から減少に転じています。多少のでこぼこはありますが、前の年の同じ月と比べてみますと、13か月連続で前年の実績を下回っており、30%以上も減った月もありました。円安で海外旅行が割高になったこともありますが、去年8月の当時のイ・ミョンバク大統領による竹島訪問と、これをきっかけに始まった日韓両国の政治的な葛藤が大きな要因のひとつになっているものと思われます。
こちらは日本の非営利組織「言論NPO」がことし3月から4月にかけて日韓両国で行った世論調査です。
「韓国に良い印象を持っている」あるいは「どちらかと言えば良い印象を持っている」と答えた人は、30%あまりでした。
調査を行った組織や設問も異なりますので、単純な比較はできませんが、2010年、3年前の調査と比べますと、韓国に対して好意的な印象をもっている日本人がかなり減ってきているのは間違いないでしょう。
【韓流から嫌韓へ】
韓流ブームが下火になってきているのとは対照的に、このところ目につくのは、韓国嫌い、いわゆる「嫌韓」と呼ばれる現象です。
「在日特権を許さない市民の会」と称する団体は、東京の新大久保や大阪の鶴橋などで、聞くに堪えないような示威活動を繰り返しています。京都地方裁判所は、先月(10/7)、こうした活動は人種差別にあたると認定し、損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。
こうした活動は極端な例かも知れませんが、一部の週刊誌や夕刊紙は、韓国の政治、経済、文化を揶揄したり、弱点をあげつらったりするような記事を連日のように掲載しており、反響も大きいと聞きます。日韓関係の冷却化は、国民感情にも少なからぬ影響を及ぼしているようです。
【政治の責任】
両国の関係がここまで冷え切ってしまったのは一体どうしてなのでしょうか。
政治家、とりわけトップの責任は大きいと思います。
安倍総理大臣は、去年12月の就任以来、東南アジアを中心にアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、中東と、これまでに25か国を訪れました。アメリカ、インドネシア、ロシア、トルコには2回も訪問しています。
一方のパク・クネ大統領も、ことし2月の就任以来、アメリカ、中国、ロシア、東南アジアと回り、今月はヨーロッパを訪問しました。
しかし、ともに、すぐお隣の国はまだ一度も訪れていません。首脳会談も行われていません。慰安婦や竹島、あるいは歴史教科書の問題などで、日韓関係が悪化した時期は過去にも何度かありましたが、隣国どうしの首脳が、新しい政権になって、まだ一度もきちんとした形で会っていないというのは、異常な事態と言わざるを得ません。
パク・クネ大統領は、就任直後、独立運動が始まった日を記念する式典の演説で「加害者と被害者という立場は1000年の歴史が流れても変わらない」と強い調子で述べました。
その後も、ことあるごとに日本の歴史認識への不満を露わにしています。
安倍総理大臣も、ことし4月の参議院予算委員会で「侵略の定義は定まっていない」「村山談話をそのまま継承しているということではない」と発言しました。その後、「侵略も植民地支配も、否定したことは一度もない」と述べ、歴史認識についても歴代の内閣の認識を踏襲していると繰り返していますが、4月の発言が、韓国側に根強い不信感を植え付けてしまったことは否定できません。
【関係改善の兆しも】
ただ、ここにきて、ようやく関係改善に向けた兆しも見え始めています。
国際社会、とりわけ両国と関係の深いアメリカは日韓関係の悪化に強い懸念を示し、様々な機会を捉えて関係改善を働きかけています。日韓両首脳も、両国関係が重要であるという認識では一致しており、ボタンの掛け違えさえなくなれば、良い方向に進んでいくのではないかという期待もあります。
日本批判一辺倒に見えた韓国メディアも、「政治に振り回されるべきではない」とか「指導者は、国民感情を乗り越えて未来を見なければならない」といった論評を掲げるなど、変化が見られることにも注目したいと思います。
【まとめ】
10年前に始まった韓流ブームで、韓国は日本人にとってより身近な存在となりました。
人や文化の交流を通じて、日本に対する警戒感や不信感が払拭されたという韓国人も少なくありません。ここで強調したいのは、いくら両国の首脳が関係改善に向けて努力をしても、国民が望まなければ、良い隣国関係は実現しないということです。政治を支えているのは国民世論、国民感情だからです。
韓流ブームが、単なる一時的な流行、表面的な理解に過ぎなかったのか。それとも日韓両国、両国民は互いに理解し、必要としあうパートナーとなりえるのか。それを決めるのは国民ひとりひとりであることを忘れてはならないと思います。
(出石 直 解説委員)