東洋太平洋ライトフライ級王者になった井上尚弥(右から2人目)と(左から)大橋会長、弟・拓真、(一人おいて)父でトレーナーの真吾さん=両国国技館
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◇東洋太平洋ライトフライ級王座戦
「怪物」の異名そのままの破壊力と闘争心が、両国国技館のファンを魅了した。5回、右ストレートで東洋太平洋2位マンシオをぐらつかせると、そこから連打連打、また連打。ニュートラルコーナーから青コーナーまで追い続け、無数のパンチをたたき込む。レフェリーがようやくTKOを宣告したのは5回2分51秒。20歳は圧倒的な強さで、史上最速タイ・5戦目での東洋太平洋タイトルを勝ち取った。
「自分の距離で戦えたし、落ち着いて相手をよく見ることができた。自分でも、ちょっと世界に届いたかなと思える試合ができた」
史上最速タイ・4戦目で日本タイトルを獲得した前戦ではKOを狙いすぎ、逆にプロで初めてKOを逃した。その反省から、この日は序盤はゆっくりと攻め、後半に崩す作戦だった。
だが、いざリングに上がると、圧倒的な力の差を見せつけることに。手数、スピード、正確性とも明らかな差があり、2回には強烈な左ボディーフックでぐらついたところを追い詰め、どんぴしゃりの右ストレートでダウンを奪って流れを決定付けた。弱い相手ではない。ここまで5連勝、うち4試合はKOかTKOだ。そんなボクサーでも、井上にはまったく相手にならなかった。
井岡一翔(現WBA世界ライトフライ級王者)を抜いて日本最速となるプロ6戦目での世界戴冠の大記録は、すぐそこまで迫った。試合後の大橋秀行会長は「次は世界? 自然の流れでそうなるんじゃない?」とニンマリ。すでにIBFかWBCで世界を取り、井岡と日本人同士の統一戦というプランも浮上している。
だからこそ、井上はまだ満足していない。「2回にダウンを奪った後、相手を頑張らせてしまったのが反省点。世界を取るためにはそういうところを改善したい」と表情を引き締めた。慢心も知らない「怪物」は、このまま世界の頂点へ駆け上がっていく。 (藤本敏和)
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