■朝日新聞ゼネラルエディター兼東京本社編成局長 杉浦信之

 特定秘密保護法が成立した。私たちは、この法律の危険性を指摘してきたが、今後も問題点を追及していきたいと思う。それは、国民一人一人の生活を脅かす恐れがあるからだ。

 どんな組織にも公開できない情報はあり、日本にはそれを守らせる法律も現にある。しかし、新たな法律は(1)秘密の範囲を際限なく広げ(2)官僚や政治家の都合のいいように秘密を指定できるようにした。さらに(3)秘密を扱う人たちのプライバシーの把握は家族にまで及び(4)秘密の指定を監視する独立した機関もない。

 2011年の東日本大震災と原発事故で、政府は国民の生命財産を守るのに必要な情報さえ隠し、活用もできなかった。今回の法律は、一般人を何が秘密かわからない状態に置いたまま、その秘密を漏らせば懲役10年の罰を科す。動く方向が正反対ではないのか。

 私たちは、この法律が施行されたときに一般市民が罪に問われる可能性を、専門家の助言や過去の事例をもとに何回も報じてきた。こうした懸念を非現実的と批判する人たちがいる。しかし、治安維持法を含め、この種の法律は拡大解釈を常としてきた。

 税金によって得られた政府の情報は本来、国民のものだ。それを秘密にすることは限定的でなくてはならない。わたしたちは、国民に国民のものである情報を掘り起こして伝え、国民の知る権利に奉仕することが報道の使命であることを改めて胸に刻みたい。

 戦後の日本社会は、権力闘争も政策対立も、暴力ではなく言論で解決する道を選んだ。ときに暴力で言論を封殺しようという動きも、自由な言論を支持する国民がはねのけてきた。言論の基となる情報の多くを特定秘密という箱の中に入れてしまう法律は、70年に及ぶ戦後民主主義と本質的に相いれない。

 私たちは今後も、この法律に反対し、国民の知る権利に応える取材と報道を続けていく。