国の安全保障の秘密情報を漏らした公務員や民間人に厳罰を科す特定秘密保護法が6日深夜の参院本会議で、自民、公明両与党の賛成多数により可決、成立した。秘密の範囲があいまいで、官僚による恣意(しい)的な秘密指定が可能なうえ、秘密指定の妥当性をチェックする仕組みも不十分だ。国民の「知る権利」が大きく損なわれるおそれがある。衆院採決で賛成したみんなの党が退席に転じ、野党の協力を得られないまま与党のみで成立した。

 採決は6日深夜の参院本会議で記名方式により行われた。投票結果は賛成130票、反対82票だった。

 この本会議で、国家安全保障特別委員会の中川雅治委員長(自民)に対する問責決議案を与党多数で否決し、そのまま同法案の採決に入った。中川委員長の報告の最中に、日本維新の会、みんなの党は退席した。民主も「中川委員長の報告は聞かない」として、野党共闘で足並みをそろえる狙いもあり、いったん退席したが、議員総会の結果、反対票を投じるべきだとの声が多数を占めた。結局、自民、共産両党の討論の間に議場に戻って来た。

 その後の採決により与党の賛成多数で可決・成立した。民主、共産、生活、社民各党は反対した。維新は退席したままだった。みんなは衆院採決で賛成したが、参院採決で退席に転じた。みんなの川田龍平、寺田典城、真山勇一の3議員は、退席という党方針に造反し、出席して反対した。

 法案は10月25日に国会提出され、11月7日に審議入りした。自公と維新、みんな4党が修正案をまとめたが、法案の重大な欠陥はただされなかった。衆参ともに特別委で、地方公聴会で懸念が表明された翌日、与党が採決を強行した。

 同法の問題の根幹は、閣僚のもとにいる官僚が恣意的に秘密の指定を増やせる余地があることだ。国民は何が秘密にあたるのかすら、知ることができない。

 秘密を扱う民間人や公務員が漏らした場合、罰則は最長で懲役10年。公務員に加え、省庁と契約している民間業者も対象になる。公務員が萎縮し、情報提供をしなくなるおそれがある。秘密を扱う人物は適性評価を受ける必要があり、家族の国籍や経済状況、飲酒の節度まで調べられ、プライバシーの侵害も懸念される。

 安倍晋三首相や菅義偉官房長官は国会答弁で、秘密指定の妥当性をチェックする機関として「保全監視委員会」と「情報保全監察室」(いずれも仮称)の設置を表明。しかし、いずれも国会審議中に野党から指摘され、後付けのように対応したものだ。政府内に置かれ、「身内」の官僚がスタッフとなるため、第三者的なチェック機能は期待できない。

 秘密の有効期間も政府案の「原則30年」から修正案で「原則60年」に後退した。さらに例外として「政令で定める重要な情報」など7項目も設け、60年を超えて秘密のままにできる。

 同法は今月中にも公布され、公布から1年以内に施行される。森担当相は法成立後に「運用の中で改善していく」と答弁したが、野党から「提出前に改善するのが当たり前で、欠陥法案だ」との批判が出ていた。

 民主は6日午後、衆院に安倍内閣不信任決議案を提出。「国民の知る権利を著しく侵害し、国民生活に重大な影響を及ぼす」と指摘したが、与党と維新の反対多数で否決された。参院にも森雅子・同法案担当相の問責決議案を提出したが、本会議で否決された。