≪放射線皮膚損傷の治療≫

放射線による皮膚損傷は,「放射線熱傷」や「β線熱傷」などのように呼ばれることがあります。しかしながら,放射線皮膚損傷の治療を行うに当たっては,まず,この病態が「熱傷」とは言うものの,温熱による熱傷とは病態が全く異なる事を理解しておく必要があります。  温熱による熱傷では皮膚表面から順じ深さに応じて物理的に損傷を受けていきます。一方,放射線による皮膚損傷の程度は表面からの深さではなく,細胞の成熟度によって異なります。このため障害の顕在化は細胞の周期に依存します。治療にあたっては,まず放射線による皮膚損傷の症状と発現時期を知っておかなくてはなりません。

表2-11 放射線による皮膚障害と発現時期
皮膚障害の種類 発現時期
紅班

乾性落屑
数〜48時間
数日
3〜6週
湿性びらん
潰瘍
壊 死
4〜6週
>6週
>10週

障害は被ばく線量が高いほど早期に発症します。体幹部より四肢抹消部の方が重症化します。また,温熱による熱傷と異なり,生き残った幹細胞にもDNA障害が生じるために長期にわたって局所の炎症,壊死が起こり,結果的に広い廓清,切断を余儀なくされる場合もあります。

急性期治療

1)保存的治療

紅班と乾性落屑に対しては,副腎皮質ステロイドを含有するローションやバラマイシン軟膏で対応します。  湿性落屑,びらん,潰瘍にはバラマイシン軟膏,シルバーサルファダイアジンの局所塗布で対応します。これらの治療を行いながら上皮の再生が始まるか否かを注意深く観察していきます。観察のために時に2〜3ヶ月の猶予が必要な場合もあります。

図2-23 タイのコバルト(Co-60)被ばく事故時の放射線皮膚障害

(出典:IAEA Publication on Accident Response,The Radiological Accident in Samut Prakarn,IAEA, 2002)

図2-23 タイのコバルト(Co-60)被ばく事故時の放射線皮膚障害

2)皮膚移植

健常上皮の再生が困難であると判断された場合には皮膚移植の適応となります。最近では,ゼノ・グラフトを用いて肉芽の再生を促し,人工真皮(インテグラ)を再移植して血管と真皮の再生を待った後に上皮の移植を行うことで良い成績を治めています。

慢性期の対応

痛み,知覚異常,血管拡張,色素沈着・脱出,皮膚乾燥症等の症状が出てきます。萎縮の進行や発がんのリスクに留意しながら経過を観察しなければなりません。また,障害部位への外傷は極力避けるべきです。

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