馬車の旅
うーむ……。
「うう……到着したんですか?」
目的地に到着し、若干グッタリしているラフタリアを見て俺は唸る。
前よりは問題なさそうだけど、まだ爆走するのは無理だな。
「小屋に着いたよ?」
フィーロはまだ走り足りないようで荷車を止めても足をばたつかせている。
ラフタリアは気持ち悪そうにフラフラしている。
「じゃあ材木を運ぶか」
小屋から出てきた木こりと一緒に材木を荷車に載せる。
ついでに木こりと一緒に伐採作業も行った。技能のお陰で品質が向上する。
とりあえず、ラフタリアの乗り物訓練はしばらく続いた。そのついでに材木が反応したので吸わせてもらった。
キノキの盾の条件が解放されました。
レスギの盾の条件が解放されました。
キノキの盾
能力未解放……装備ボーナス、木工技能1
レスギの盾
能力未解放……装備ボーナス、初級木工細工レシピ
ウッドシールドの派生だ。この二つはこの世界だとメジャーな木材らしい。キノキは俺の世界で言うヒノキに何か香ばしい匂いがする木で、レスギは杉に似ているけど木目が伐る場所毎に変わる変な木だ。
まあどうでも良いか。
数日後。
カンカンカン。
俺は荷車を馬車に改造する為に木槌片手に精を出していた。
先日出た木工技能1のお陰で多少は性能が向上すると睨んでいる。
荷車の上に骨組みを追加でつけて、後は上に厚手の布を被せて止める。
リユート村の復興は順調に進み、俺達が手伝わなくても大丈夫な所にまで至っていた。
村人も俺が荷車を馬車に改造している所を見て、手伝ってくれている。
「よし、こんな所だろう」
「完成ですね」
数名の村人と一緒に馬車を完成させて祝う。
フィロリアルが動かすのに馬車……まあいいか。
「手伝ってくれた事を感謝する」
「いえいえ、勇者様には色々と協力して頂きましたのに、この程度しか力になれず申し訳ありません」
村の奴等、いい笑顔で俺に力を貸してくれていた。
命の恩人とは言ってもそれに甘えるわけには行かない。だけど、ここは素直に感謝の気持ちを抱く。
「そう言ってもらえると嬉しい」
「行商をするのでしたっけ?」
「具体的には何でも屋だな、村から村、町から町へ荷物運びをしながら商品を売り、人を運ぶ」
「はぁ……」
村人の奴等もさすがにピンと来ないようだ。
まあ元康の言動から勇者のする行動では無いのは事実だが。
俺だって成功する見通しは立っていない。だけどせっかくフィーロがいるのだから使わない手は無いのだ。
「ん? うわぁ……荷車が馬車になったー」
先ほどまで人型の姿で遊んでいたフィーロが荷車が大きく変わって驚いている。
「これをフィーロが引くの?」
目をキラキラと輝かせて、フィーロは聞いてくる。
「ああ、そうだ。お前はこれからこの馬車を引いて、国中を走るんだ」
「ホント!?」
とても楽しげにフィーロは声を上げる。
俺だったら重労働に嫌気がさしそうな仕事だと言うのに……。
「本当にやるんですね」
ラフタリアが憂鬱気味に呟く。
未だに乗り物酔いを完全に克服して無いラフタリアはどうも馬車の旅に乗り気ではない。
「いずれ馴れる。それまでの辛抱だ」
「はい」
俺はフィーロに顔を向けて何度も確認する。
「フィーロ、お前の仕事は?」
「えっとね。フィーロの仕事は馬車を引いてごしゅじんさまの言うとおりの場所に行くこと」
「ああ」
「そして槍を持ったあの人を見つけたら蹴ること」
「正解だ」
「後半は違います! なんですかそれは?」
ラフタリアが何かおかしいことでもあるかのように異議を唱える。
「なんですか……そのまるで私がおかしいみたいな目は」
元康を見つけたら蹴る。何がおかしいと言うのだ?
いちいち相手をしていたらキリが無い。
「さて、じゃあこれから行商の始まりだ。俺は馬車の中に隠れているからラフタリア。お前が最初に村や町に着いたら物を売るんだ」
「はぁ……分かりました」
俺の悪名はリユート村近隣以外では未だに轟いている。だから下手に俺が交渉に出たら売れるものも売れない。
だからラフタリアが販売と交渉を担当することになっている。
これでラフタリアは容姿に優れる。人見知りする訳でもないし、客商売に向いていると見ていいだろう。
「では出発するとしよう」
準備を終えた俺達は馬車に荷物を載せて、フィーロに引かせる。
「あ、勇者様」
「ん? どうした?」
リユート村の連中が総出で俺達の出発に集まってくる。その中で一際衣服の良い壮年に入りかかった男が俺の前に来る。
「私はこのリユート村を国に任されている領主です。盾の勇者様、今までどうもありがとうございました」
「気にするな、ちょうど拠点にこの村がよかっただけだ」
「……これを」
領主はそう言って一枚の羊皮紙を俺に手渡す。
「これは?」
「行商をする上で役に立つ商業通行手形です」
「商業通行手形?」
「はい。この国では行商をする時、各々の村、町に着いたら一定の金銭をその地域の領主に振り込まねばなりません」
……そうだったのか。まあ、勇者の権力を振りかざし……って俺の悪名が祟って悪影響を与えかねないか。
「そこで私の判を押した商業通行手形の出番です。これさえあれば基本的には金銭を払う必要は無くなります。どうかお役に立ててください」
「えっと……良いのか?」
「はい。私は勇者様が行った事に対して相応の対価を支払わねば村人に合わせる顔がありませんので」
考えてみればここはメルロマルク国の近くにある農村だ。交通の便も良いのでここの領主をしているというのはそれだけ権力や威厳も必要となる。
俺が波で被害を最小限に抑えたのはリユート村の連中の目に入っている。悪名が響き、王様に睨まれても村人の為に苦渋の決断を背負わされた……にしては顔が明るい。
「……アナタの悪名が商売の障害にならないようにの配慮です」
善意的に受け取ってくれている。だから俺は素直に感謝する。
「感謝する。使わせてもらう」
「いってらっしゃいませ」
「……ああ、行って来る」
「私達も勇者様の仕事の助けになるよう。色々とご協力させていただきます」
「自分達の生活に無理が出ない程度に頼む」
「はい!」
こうして俺達は何でも屋として旅立つことになるのだった。
手始めに行ったのが薬の販売。
品は少ないけれど相場より安めで売る。
目玉は治療薬と栄養剤だ。これだけは初級よりも高位の薬なのでそれなりに高値で売れる。
そして立ち寄った村で知っている薬草などを買い取り、移動中は薬に調合しておく。
基本的にフィーロの足が速いので一日の内に次の村に辿り着けるのだが、稀に野宿になるときもある。
そういう時は馬車を止めて、焚き火を起こして食事を取る。
「ごしゅじんさま! フィーロの隣! あいてるよ。一緒に寝ようよ!」
パンパンと自分の隣を魔物の姿で座って欲しいと懇願するフィーロ。
「お前の隣は暑いんだよ……」
どうもフィーロは俺と一緒に寝たがる。宿屋で魔物の姿になるなと命令したからか、野宿だと尚の事、ワガママを言う。
まあ、野宿なら迷惑を掛ける相手がいないから、時々なら良いのだけど……。
「フィーロは本当にナオフミ様が好きなんですね」
「うん! ラフタリアお姉ちゃんには負けないよ」
「なんでそうなるんですか!」
何か微妙に仲が悪いような良いような喧嘩をラフタリアとフィーロはする時がある。
フィーロなんて子供と一緒なんだから何をムキになっているというのだ。
あ、ラフタリアも実質子供だもんな。精神年齢では一緒か。
「はいはい。二人とも早く寝ような。交代になったら起こすぞー」
「あーまたフィーロをこども扱いするー!」
「そうです! 子供扱いしないでください」
「そうだなーラフタリアもフィーロも大人だよなー」
「絶対にそう思ってない!」
「うん! ごしゅじんさまヒドーイ!」
なんて馬鹿な会話をしつつ、俺達の行商は続いていく。
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