ウォールストリート・ジャーナルのジェレミー・ペイジ記者が伝えるところによると北京を訪問中のジョー・バイデン副大統領は記者団の前では防空識別圏問題に直接言及しませんでしたが、プライベートには習近平国家主席に対し「そのようなゾーンを認識しない」と通告しました。また中国に対して「緊張をほぐす努力をするように」と要請したそうです。

さて、ここからは僕の考えですが、極東の問題に対するアメリカのスタンスは一貫して明快だったと思います。それは具体的には以下の通りです:

1.尖閣諸島などの領土問題に対してアメリカはどちらの肩も持たず完全な中立を貫く
2.日米は安全保障条約を締結しており、日本はアメリカの同盟国である

つまり、国家としてアメリカは「日本人と中国人と、どちらの方がウマが合う」というような、その場の感情に流された対応をするのではなく、きっちりと安全保障条約に基づいた動き方をしたいという希望を持っているわけです。

日米関係を、この条約で規定された以上の特別親密な関係だと過信すると間違うし、逆にあまり安全保障条約を軽んじる考え方も、状況判断を誤る原因となるでしょう。

アメリカの政治ならびに経済は、いま大事なピボット(方向転換)中です。

湾岸戦争の後で、アメリカは中東の空軍基地を、それまでのサウジアラビアからカタールに移しました。カタールは米空軍の「言外の庇護」を受けて天然ガス開発に専心し、大きな経済発展を遂げました。

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いま、カタールのラスラファン工業地帯に匹敵するような天然ガス輸出基地があるとすれば、それはひとつ前の記事で紹介したサビンパスLNG輸出基地です。アメリカはカタールの成功をつぶさに見ており、あわよくば同じアプローチでLNG輸出国として成功したいと考えています。

一方、サウジアラビアとアメリカは、両者を結び付ける、原油取引などの利害が殆ど無くなってしまったので、お互いの心は離れつつあると言えます。最近はとくに米国内でシェールガス、シェールオイルが出るようになり、アメリカはロシアより沢山の天然ガスを、そしてサウジアラビアより沢山の石油を生産しはじめています。これは輸入に頼る必要がなくなることを意味します。

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つまり中東から極東へ、エネルギー輸入国から輸出国へというピボットです。

中国の立場からすれば、いま沖縄などを含む環状のアメリカによる包囲網を、グアムないしはハワイまで押し戻したいと考えているはずです。

このような鋼鉄や弾薬による対峙に加えて、中国とアメリカは、毎日のように激しいサイバー戦争を戦っています。マーシャル・マクルーハン流に言えば「cool war」というわけです。この面ではアメリカはこれまで中国に大敗しており、ペンタゴンの重要機密は、中国側にダダ漏れになっているのだそうです。

僕がアメリカに住んでいて主に聞くアメリカ側の愚痴は、このようなサイバー・セキュリティに関するものであって、空母や戦闘機などのフィジカル・アセットを巡る問題ではありません。

なお、サイバー戦争の世界では米中関係はかつての米ソ冷戦に匹敵するほど冷え切っています。