秘密保護法案:70年前に2度逮捕「治安維持法と同じ」

毎日新聞 2013年12月04日 11時06分(最終更新 12月04日 12時15分)

「特定秘密保護法案は廃案になるべきだ」と語る西川治郎さん=大阪府貝塚市で、山崎一輝撮影
「特定秘密保護法案は廃案になるべきだ」と語る西川治郎さん=大阪府貝塚市で、山崎一輝撮影

 ◇大阪・貝塚市の104歳会社顧問「廃案にすべきだ」

 参院で審議が進む特定秘密保護法案に、大阪府貝塚市の会社顧問、西川治郎(じろう)さん(104)は強い危惧を抱く。戦前、戦争反対の立場から共産主義に近い団体に属し、治安維持法違反容疑で2度逮捕された。「特定秘密保護法は治安維持法と同じ言論統制法だ。取り締まりの対象があいまいで、拡大解釈されうる点が共通している。その先にあるのは戦争への道。何としても廃案にすべきだ」と強く訴える。

 西川さんは東京都内で1934年1月、共産主義の団体に所属しているとして、特別高等警察(特高)に妻と共に連行された。警察署では10日間、木の棒で足を殴られ続けた。妻はまもなく釈放されたが、西川さんは黙秘を続け10カ所近くの警察署をたらい回しにされた。11カ月後に「その通りです」と答えた。「当時、妻は妊娠中。本格的な共産主義の勉強はしていなかったが、そう答えるしかなかった」。治安維持法違反罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。

 40年に再び逮捕され、懲役2年の実刑。刑務所では、監房の真ん中にくみ取り式トイレがあり、悪臭が漂った。「人間の暮らしじゃなかった」。警官にたたかれた足は老後も痛みが残った。

 戦後は貝塚市で兄と設立した製粉会社の経営に携わりながら、治安維持法による犠牲者への国の謝罪や賠償を求める運動に力を尽くした。しかし、謝罪も賠償も実現しないまま、かつての不安がよぎり始めた。「法案は治安維持法と同様、自由な言論を妨げ、国民を萎縮させる。その後に続くのは日本国憲法9条の改正だ。もっと体力があれば、デモ行進に参加してでも法案に抗議したい」

 西川さんは今、毎日数時間かけて新聞や雑誌を読み、法案の行方を注視する。孫が7人おり、10月に4人目の女児のひ孫が生まれた。「ひ孫の代まで絶対に戦争がないという希望を持ったまま死にたい」。切なる願いだ。【鵜塚健】

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