未来シアター
毎週金曜夜11時30分~放送
「辻口博啓」 「パティシエ」
主題歌「夢/FUNKY MONKEY BABYS」自由が丘。
ここに開店前から行列のできるスイーツの名店がある。
その名は「モンサンクレール」。
ショーケースに並ぶのは、
ひとたび口にすれば誰もを虜にする甘い宝石だ。
遠方からわざわざ足を運ばせる、
その人気店を取り仕切るのは、
洋菓子のワールドカップ「クープ・ド・モンド」
史上最年少優勝を果たした革新者
パティシエ・辻口博啓
パティシエとして世界最高峰の技術を持つ辻口には、
常に心に刻んでいる言葉がある。「和を似て世界を制す」
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実家は、石川県にある「紅屋」という和菓子屋だった。
和菓子が大好きで、家業はまさに天職。
だが小学校3年生の時、
初めて食べたショートケーキが、
辻口の夢を洋菓子職人へと変えた。
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高校卒業後、修業をする為に上京。
しかしその3か月後、思わぬ悲劇が彼を起こった。
実家の和菓子屋が倒産したのだ。
原因は父親が借金の保証人になったこと。
その現実に耐えかね、父は失踪してしまう。
地元の会社に就職して家族を助けて欲しい。
そう、母に頼まれた。
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夢を諦めるか、家族に背を向けるか。
どちらが正しいかは、わかっている。
だが、あのショートケーキの感動が忘れられず、
もう一回東京で修行させて欲しいと菓子の修行に出た。
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そんな息子に母は言ってくれた。
「家のことは任せてやりたいことをやりなさい」
ありがたかった。
成功を収めないと母親に対する恩を仇で返すことになる。
パティシエの世界で一流を目指すという強い思いがあった。毎日、朝6時から深夜まで、
寝る間も惜しんでお菓子を作り続けた。
母に恩返ししたい、その一心で。
今やコンセプトの異なる12のブランドを展開。
その中のひとつ和スイーツ専門店「和楽紅屋」は
辻口の悲願、実家の和菓子屋再建という夢を叶えた店だ。
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10月、辻口の姿はフランス・パリにあった。
向かったのは、新たなチャレンジの舞台。
来場者数10万人以上、
「チョコレート版ミシュラン」とも呼ばれる祭典
“サロン・ド・ショコラ”。辻口の次なる夢は、そのコンテストで最高位の受賞だ。
参加するのは日本でも高い人気を誇る、
巨匠ピエールエルメやジャンポールエヴァンなど、
世界各国から選び抜かれた170人の一流パティシエやショコラティエ。
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コンテストで作るチョコレートは全部で5種類。
一つはハイビスカスの食用種であるローゼル。
食べた瞬間、ジャム状にしたローゼルの香りが広がる、
未だ誰も知らない新たな味のチョコレートだ。そしてもう一つ、山椒を使ったチョコレート。
辻口が勝負をかけた「和を以て世界を制す」ための食材だ。
フランスでは馴染みがない食材。
だからこそ、山椒を使ってフランスの人たちを驚かせたい。
そんなチョコレートを作りたかった。
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山椒の風味がふわりと広がる生クリームと
上質なチョコレートとの斬新な出会い。
夢のさらに、その先へ。
辻口が挑むフランスの舞台で披露される。
山椒、ゆず、パイナップルやハイビスカスなどを使った
5種類のチョコレート。どれも至極の逸品だ。最高位に選ばれるのは、170人の中からわずか12人。
初挑戦にして見事、最高位を獲得。
厳しい戦いを辻口は制した。絶賛だった。
その賞賛の拍手を、
今こそ夢を後押ししてくれた人、母へ送りたい。
母への感謝を胸に、辻口は新たな夢を追い続ける。
「浅田政志」 「写真家」
主題歌「Million Films/コブクロ」新人写真家の最高賞、
木村伊兵衛写真賞を受賞した写真集「浅田家」。
普段、見かける風景を追いかけたようなこの写真。
実は被写体は写真家の家族だ。
みんなで扮装し、様々なシチュエーションで撮影を行う。
その目的は家族の思い出を増やすため。およそ7年をかけ、1枚1枚紡いでいった。
その写真家こそが、革新者・浅田政志。
なぜ、家族を撮るのか?「写真から生まれるコミュニケーション」
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今や彼がシャッターを切るのは家族だけではない。
この日は、コブクロのニューアルバムのジャケット撮影。
相手が誰であろうと、
浅田が大切にしているのはただひとつ。
家族と同じ、現場でのコミュニケーションだ。
何気ない会話は被写体との壁をなくし、
素の表情を引き出す為。
そんなコミュニケーションから生まれる1枚は
どんな写真より雄弁にその人を語る。
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幼少の頃から、父親が写真を撮り、
年賀状にするのが常だった。
父親のカメラを借りて写真を撮り始めたのは中学生の時。
高校卒業後は写真の専門学校に進学。
卒業制作のテーマの題材は、
ずばり「家族」
家族との撮影でコミュニケーションの大切さを学んだ浅田は思った。
今度はこの写真の持つ力を、もっと多くの人に伝えようと。
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この日、向かったのは福岡県北九州市。
地元の人達と一緒に、作品作りに挑戦するためだ。
こうして全国各地を飛び回り撮影し続ける浅田の思いは、
今も昔も変わらない。
今回の撮影場所は、
長年地元の足として愛されてきたモノレール。
コミュニケーション不足が生む電車内のマナーがテーマ。集まったのは小学生からお年寄りまで、
男女問わず幅広い層。
写真を通して皆で楽しみながら、
そこで生まれるコミュニケーションの大切さを、
少しでも感じてもらいたい。
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しかし地元とはいえ、初対面の人ばかり。
そこで浅田は何気ない会話で、皆の緊張をほぐしていく。
それはいい写真を撮るためだけではない。
こういったところで知り合った方と
終わってからも関係が続くきっかけとして
こういう撮影があれば良いと思っている。
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撮影開始―。
しかし浅田がシャッターをすぐに切る事はない。
重ねた会話の数だけ被写体の表情は豊かになる。
浅田はそう信じている。
つまり、そういう写真家なのだ、浅田という男は。
通勤列車の中で、いたずら好きな魔女が魔法をかけると…
乗客達はみんな好き勝手を始めてしまう。
それを見た魔女の親が怒ると…
魔法が解け、ハッと我に返り、
マナーが悪かった自分に気付く。
そんな物語だ。写真を通してコミュニケーションを。
その力を信じ、浅田はシャッターを切り続ける。