秘密保護法案:法曹界激しい批判「司法も阻害される恐れ」
毎日新聞 2013年12月05日 11時20分(最終更新 12月05日 11時27分)
与党が今国会で強行採決の構えを見せている特定秘密保護法案に対し、法曹界から激しい批判の声が上がっている。全国全ての弁護士会が法案に反対する声明を出し、有志の弁護士が参加するデモや集会が各地で催されている。「憲法の番人」と言われる最高裁判事の経験者も、「憲法に由来する『知る権利』を脅かす法案だ」と訴えている。
「国はどうしてこんなものまで隠そうとしたのか」。2002〜06年に最高裁判事を務めた大阪弁護士会元会長、滝井繁男弁護士(77)には、判事時代に関わった公文書を巡る訴訟で、そんな不信を感じた経験がある。
難民認定を望んでいたパキスタン人男性が、公文書の開示を求めて国を提訴した。国は開示を拒んだが、最高裁は05年、裁判所が非公開の場で文書の内容を確認する「インカメラ審理」で開示の可否を決めることが必要と判断し、審理を東京高裁に差し戻した。判事の一人だった滝井弁護士は「真実発見のため、必要な証拠ができるだけ多く提出されることが重要だ。拒むには理由を具体的に示す必要がある」と補足意見も述べた。
高裁は06年、インカメラ審理の結果、一部の文書について「秘密として保護すべき記載はない」と判断、開示を命じた。政治的な理由による逮捕状が男性に出ているかパキスタン政府に照会するため、法務省が外務省に依頼した文書で、非開示の理由は乏しかった。滝井弁護士は「本当に保護に値する秘密かを吟味せず、まず隠す。それが官僚の習性ではないか」と指摘する。
こうした経験を踏まえ、法案に危機感を覚えている。「私たち弁護士は情報公開訴訟などを通じ、官僚が秘密にしたがることを身に染みて感じている」。国の秘密指定や解除の是非をチェックする第三者機関の設置が不可欠だと主張する。
特定秘密に指定されれば、裁判所も例外ではない。法案では、国が安全保障に支障がないと判断した場合、裁判所のインカメラ審理に秘密情報でも提供するとしているが、実効性はあいまいだ。滝井弁護士は「裁判を通じて権利を実現するという司法の大きな役割も阻害される恐れがある」と懸念を強めている。【小林慎】