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特定秘密保護法案を問う(13):映画監督・作家の森達也さん、集団化加速する日本、もっと絶望した方がいい

2013年12月6日

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映画監督・作家の森達也さん

映画監督・作家の森達也さん

 国民の知る権利を侵す特定秘密保護法案。この法案はどこから来て、われわれをどこへ連れていこうとしているのか。1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件を時代の転換点と見定め、不安や恐怖にあおられて結束を強める社会、「集団の熱狂」の危険性を唱え続ける映画監督・作家の森達也さんに聞いた。


 -法案反対を訴えてきたのに、自身のホームページで「実のところ意識のどこかで、もう通しちゃえば? 半ば本気でそう思っている自分がいる」と書いた。

 「シニカルすぎるかなと思うけれど、2割くらいは本音です」


 -その真意は。

 「絶対に通してはいけないと思っています。でも、日本人はもっと絶望した方がいい。ドイツは改憲の際に国民投票を必要としない。理由をドイツ人に聞くと、『自分たちを信頼していないからだ』と。かつて世界でもっとも民主的といわれたワイマール憲法を掲げながら、ナチスを選択してしまった。彼らは自分たちに絶望し、その力量を見限ったわけです」


 -集団の熱狂が判断を誤らせた。それは日本も同じだったはずです。

 「でも、僕らは戦後一度も絶望していない。その背景には優越思想がある。アジアではナンバーワン、中国や朝鮮とは違う。そういう意識があったからこそ、戦後復興も高度経済成長もあった。しかし、いまやGDP(国内総生産)は中国に抜かれ、抜き返すことはないでしょう。国土も資源の豊富さも全然違うんだから当然。でもいまも差別意識が残っているから認めることができない。その軋(きし)みが、在日コリアンの排斥を主張するヘイトスピーチ(憎悪表現)などに表れていると思います」


 -優越意識をほとんどの人が自覚していない。
 
 「そうですね。そしてそれは、米国の仲間になりたい気持ちの裏返しでもある。なぜ安倍首相がここまでして秘密保護法や国家安全保障会議(日本版NSC)をつくり、改憲を目指すか。米側の意向だからです」

 「もちろん米国には秘密保護法のような法律がありますが、常に情報を隠そうとする政府と情報開示を求める国民とのせめぎ合いがある。第3代大統領のジェファーソンは『新聞のない政府と、政府のない新聞のどちらかを選べと言われたら、私は迷わず後者を選ぶ』と言った。つまり、権力の腐敗や暴走を阻止するにはメディアが必要なんだと。合衆国憲法の修正条項には第1条に信教・言論、出版、集会の自由が定められている。知る権利は米国にとってもっとも大事なことなんです。米国並みの情報管理をと言うが、日米では前提がまったく違う」


 -日本では法案の危険性にピンときていない人が多いように感じる。

 「学生を見てもそうですが、関心が低い。よく耳にするのは『メディアが騒ぐのは、既得権益が脅かされるからだ』という意見。確かに既得権益です。だけど、メディアがどういう存在か。単なる株式会社じゃない。国民の生活、営みを守る存在でもある。そういう意識がないのだと実感しました」

 「さらに日本人はルールを作ってもらい、規制された方が楽だという意識をもともと持っていると思う。同調圧力が働き、集団の意見に従おうとする。持論ですが、オウム真理教による一連の事件以降、日本の『集団化』は加速した。当然、はみ出すものは異端として激しくバッシングされる。弱みを見つけた瞬間に群がって『炎上』する」


 -危機感があおられ、「集団化」が加速する。

 「イラク戦争のときに日本が米国を支持したのは北朝鮮の存在が怖かったから。中国も含め、常に“外敵”がいる、と。東日本大震災も不安をもたらし、集団化を強めることになった。人々は強いリーダーが欲しくなり、それを自民党に期待した」


 -メディアが果たした役割も大きかった。

 「責任はメディアにもある。テレビを見たり新聞を読んだりして市民は考えるので、メディアがどう反応し、主張するかは重要です。いまになって秘密保護法の反対キャンペーンをしているが、じゃあ『ねじれ解消』は何だったの。『ねじれ解消』という言葉を使う時点で安倍政権の政策を支持したということ。アベノミクスも持ち上げた。こうなることは分かっていたはずです。疑問を持っていた記者はたくさんいたかもしれない。だけど読者や視聴者に受けるかという客商売の論理で判断され、あらがいも見えない。社会全体の流れに合わせてしまう」


 -ヒステリックになり、判断を間違える集団の危険性をずっと訴えてきた。

 「正直疲れた。同じことを何度も言って、自分でも飽きてきた。ただここで『一抜けた』は言えないし、言いたくない。いまが正念場だから。この法案が通ったら国が大きく変わるでしょう。大きな一歩を踏み出す。集団的自衛権の行使の容認、改憲へのカウントダウンが始まる。今回法案の成立を回避できたとしても、メディアを含め国民がこのままでは、すぐ同じことになる」


 -どん底まで落ちなければ分からないでしょうか。

 「落ちても分からないかもしれない。落ちるところまで落ち、気付いたとしてももう、はい上がれない。それも十分あり得る。危険な意見だと自分でも分かっています。でもね、ここで僕が秘密の範囲が不明瞭とか第三者機関が必要とか言ったところで、ほとんど意味をなさないからね。正論過ぎて」

 「『通しちゃえば』なんて言いたくないけど、言いたくもなりますよ」



 インタビューから2日後の5日、特定秘密保護法案は参院特別委員会で強行採決され、成立にまた一歩近づいた。



 もり・たつや 映画監督、作家。1956年、広島県生まれ。代表作にオウム真理教信者を追ったドキュメンタリー映画「A」(98年)、「A2」(2001年)。近著に「『自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか』と叫ぶ人に訊きたい」。明治大学特任教授。57歳。

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