<台湾総統>米中のはざまで苦慮 防空圏「抗議」せず
毎日新聞 12月6日(金)7時31分配信
中国が東シナ海に設定した防空識別圏を巡って対立を深める日中に対し、台湾の馬英九総統は5日、毎日新聞との会見で、対話による平和的解決を呼びかけた。馬政権は対中融和路線により中台関係を改善させる中、中国への刺激を避けつつ、一方で台湾にとって最大の後ろ盾である米国や「特別なパートナー」と位置づける日本とのはざまで難しいかじ取りを迫られている。【台北・米村耕一、鈴木玲子】
【中国の防空識別圏に対応し、韓国拡大案】米の意向に配慮 副大統領歴訪中の発表回避
「中国に我々の厳正な立場を伝えた。設定は両岸(中台)関係発展の助けにならない」。こう述べた馬総統だが、中国に「抗議」の形は取っておらず、中国に対する強い配慮がうかがえる。台湾は米中の2大国を前に微妙な立場にある。日本政府は米韓とともに台湾にも連携を呼びかけたが、台湾側は応じる姿勢は示していない。これを見越したかのように中国は「中華民族の根本的利益を守ることは両岸同胞の共同責任だ」と呼びかけ、台湾の取り込みを狙う。一方、馬政権の慎重姿勢に野党・民進党は「弱腰だ」と批判。日米韓と連携し、中国に抗議するよう訴える。
識別圏設定による軍事訓練への影響について馬総統は「(中台の)識別圏が重なる部分は2万3000平方キロで、空軍の訓練に影響しない」と強調した。台湾の識別圏は中台対立が激しい時代に設定されたため、実際には設定より狭い範囲で運用されている。中国海軍初の空母「遼寧」が初めて台湾海峡を通過し、南シナ海に向かった際も、国防部(国防省)は「動向を把握している」と述べるにとどめ平静さを保った。しかし、軍内部からは馬政権の対応に対する不満も漏れ伝わる。軍関係者によると、識別圏が重なるエリアの一部に台湾の軍事訓練空域が含まれている。また台湾紙・自由時報は、識別圏を巡る国家安全会議で、台湾は中国に撤回を求める日米の共同要求に加わるべきだとの提案があったものの馬総統が拒否した、とも報じた。
中国は南シナ海や黄海にも防空識別圏を設定するとしている。南シナ海には中国、台湾などが領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)諸島があり、同諸島の太平島は台湾が実効支配する。台湾軍には新規配備した哨戒機P3Cを同島に展開させる計画がある。今回、馬総統が中国に南シナ海への識別圏を設定しないよう呼びかけるとした背景には、台湾内部から強まる圧力をかわし、また事態をさらに複雑化するのを避けるためとみられる。
◇なお慎重姿勢…中台政治対話
対中融和路線を促進してきた馬総統。2010年に経済協力枠組み協定(ECFA)、今年6月には「海峡両岸サービス貿易協定」に調印するなど19協定を結び、経済分野での交流は大きく進展した。
今最も注目されているのがその先の「政治対話」だ。2期目の馬総統の任期は16年までで、任期中の中台トップ会談実現の可能性が取りざたされている。
今年10月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたインドネシア・バリ島で、台湾の蕭万長(しょう・ばんちょう)前副総統と会談した中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が「政治対話」を呼びかけた。
馬総統は会見で、中台の事務機構の相互設置の推進について触れ、「政治的意味合いが高いが、故意に避けることはない。原則は両岸関係の促進につながるかどうかだ」と強調。「先急後緩、先易後難、先経後政(急ぐものを先に、その他の問題はゆっくりと。解決しやすい問題を先に、難しい問題を後から。先に経済、後に政治を話し合う)」との従来の方針を示しつつも、「切迫性があれば、これらの問題を議題とし、我々のタイムスケジュールに入れることもありうる」と含みを持たせた発言をした。
台湾では「現状維持」を望む声が高く、政治対話が中台統一への協議につながるのではないかとの警戒感は強い。馬総統の支持率は10%台と足元がぐらつく中、中台トップ会談は、来年末の地方選や16年の次期総統選にマイナスの影響も及ぼしかねない。慎重な言い回しは、政治対話が中国ペースで進むことへの警戒心を反映したものともみられる。
◇TPP加盟 日本の後押し期待
過去最悪とも言われる日中関係とは対照的に、日台は馬政権下では「最良な状況」(外交関係者)にある。
2008年の馬政権発足後、台湾の遊漁船が海上保安庁の巡視船と衝突して沈没し日台関係は一時緊張した。沈没事件で馬総統は強硬発言を続けた。だがその後は「日本は特別なパートナー」と位置づけ、日台関係修復と強化にかじを切った。
昨年8月には自ら「東シナ海平和イニシアチブ」を提唱。尖閣諸島の争いを棚上げし、関係各国による天然資源の共同開発を呼びかけた。日中対立が深まる中、台湾の利益を守り、立場の強化をしたたかに追求したものでもある。その第一歩が今年4月に締結した日台漁業協定だ。5日の会見で提唱の役割について問うと、馬総統は笑顔でうなずき、重要性を強調した。11年には日台投資協定や日台オープンスカイ(航空自由化)協定を締結。先月には経済貿易関係強化に向け計6協定を結んだ。馬総統は「対日経済貿易関係の促進に向け、まい進している。日台自由貿易協定(FTA)も協議し、協力関係を深めたい」と意欲を示した。台湾は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への加盟を目指しており、「RCEPなどで日本の役割は大きい」と述べ、日本の後押しを求めた。
日台は人的交流も盛んで、今年10月末には日台間の往来者数が延べ300万人の大台を突破した。馬総統は今年4月の宝塚歌劇団の台湾公演の人気や、来年の台北・故宮博物院の日本展開催などに触れ、文化交流の深まりにも期待感を示した。
最終更新:12月6日(金)9時10分
Yahoo!ニュース関連記事
- “暴走中国”への危機感なし? 実は加速していない日系企業の「脱中国依存」〈週刊朝日〉(dot.)11時32分
- 中国防空圏、アジア緊張高まる…越・豪も警戒写真(読売新聞)10時11分
- <台湾>馬英九総統会見の主な内容(毎日新聞)7時30分
- <台湾・馬英九総統>中国防空圏拡大に反対 本紙と会見写真(毎日新聞)7時15分
- 台湾民進党主席、中国本土の防空識別圏問題で「米日韓とともに撤回を求めるべき」―香港メディア写真(XINHUA.JP)5時30分
WEBで話題の関連記事
※Buzzは自動抽出された記事です。
読み込み中…