自由と平和が負け始めた日(12月1日)
2013年11月26日を私たちは、はっきり記憶にとどめておかねばならない。第2次世界大戦後、大切に守ってきた自由と平和と民主主義が敗退し、独裁的な「強い日本」が戦争に向かう第一歩を踏み出した日だからである。
政府と与党は26日、特定秘密保護法案を衆議院で可決させた。その前日に、公聴会を「開いた」という口実のために福島で開催した。一部の人にしか傍聴させず、意見を検討することもなかった。この進め方自体が法案の本質を露呈している。なぜ、そんなに急ぐのか、誰も説明できない。だから背後に本当の「特定秘密」があるのではないかと不安にさいなまれる。
秘密保護法案が表に出てきてから私がまず感じたのは、重苦しい空気が強まっていった戦前のことである。昭和4年生まれの私が福島県立男子師範学校付属小学校に入学したころは、まだ、毎朝のように「自治、自治、自治」と自治を大切にする言葉を唱えさせられていた。恐らく、先進的な学校教育の場の一つであった付属小には、大正期の自由主義教育の名残が、かすかにあったのだろう。
ところが、いつの間にかに「教育勅語」に変わり、卒業するころには、私は物の見事に愛国少女になっていたのである。その後の大人たちの首をすくめ、周囲を見回してものを言っていた時代の本当の意味を戦後知るに及んで、がくぜんとしたのである。
11月26日には国家安全保障会議創設法が成立し、早くも12月4日に発足するという。既に論議が始まっている集団的自衛権の問題や、武器輸出禁止三原則の見直しも次の国会に出されるだろう。また、中央官庁の幹部人事を内閣で一元化する方向だ。あまり大きい問題のようには見えないことだが、批判的な考えを持つ人は登用されないだろう。
文部科学省の歴史教科書検定も近現代に関しては、政府が認めている線以上に踏み込んだ説は認めないという。さらに27日には、中央教育審議会の分科会が開かれ、地方行政の最終責任者を教育委員会ではなく、自治体の首長に移す答申案を文科省が示した。これでは教育の中立性はなくなり、政治の影響をまともに受けることになる。こうして私たちの子ども時代のように、「強い日本」を何の疑問もなく愛する子どもや若者たちを育てられるということなのだろうか。
今、私が気付いた例を並べただけでも、一定の方向がはっきり見えている。中国や韓国が最も問題にしている日本政府の歴史認識の問題だ。1人の政治家の国家観、歴史観が日本をぐいぐいと引っ張っていくのを恐れる。日本の若者、子どもたちを、無人攻撃機や武器ロボットなどが人の命を狙う現代の恐ろしい戦場には決して送ってはならない-と今こそ強く思う。(小島美子、国立歴史民俗博物館名誉教授、福島市出身)
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